【翻字】
八方「オイ行
ツて来たぜ 六方「アゝ如何(どう)ぢやツた 八方「心易い事ぢやと言ツて
早速の承知、乃公(おれ)が雌鶏(めんどり)を捉(つか)まへると、雌鶏(めんどり)は時を作らぬか
ら、雄鶏(をんどり)を持ツて行けと言うたが、イエ大事ございませんと
一羽提(ひつさ)げて途中で絞殺(しめころ)して来た 六方「イヤ大きいのじやなア
八方「ムゝ、脂(あぶら)ア乗ツて居(ゐ)る、旨いぜ、して酒は如何(どう)した 六方「
八方「オイ行
ツて来たぜ 六方「アゝ如何(どう)ぢやツた 八方「心易い事ぢやと言ツて
早速の承知、乃公(おれ)が雌鶏(めんどり)を捉(つか)まへると、雌鶏(めんどり)は時を作らぬか
ら、雄鶏(をんどり)を持ツて行けと言うたが、イエ大事ございませんと
一羽提(ひつさ)げて途中で絞殺(しめころ)して来た 六方「イヤ大きいのじやなア
八方「ムゝ、脂(あぶら)ア乗ツて居(ゐ)る、旨いぜ、して酒は如何(どう)した 六方「
酒は然(さ)う言ツてやツたから、今に持ツて来をるだらうから
八方「ところで酒を飲むに素面(すめ)で飲んで居(ゐ)ても面白くない、チ
ヨイと婦人(????)を一枚入れたいが、誰(だ)れぞ三味線を弾く者はある
まいか 六方「あるが、花屋のお松坊(まつばう)を呼んで来たら好(よ)いがナ
八方「違ひない、さうして村の奴(やつ)を呼んで来て、ワツと陽気に
騒がうじやアないか」 と言ツてる所(ところ)へ 酒屋「ヘエ御免下さいま
し 六方「オウ酒屋か 酒屋「只今は大きに、エー五升持ツて参りま
した 六方「アゝヨシヨシ、其処(そこ)に置いといてお呉れ 八方「葱(???)や何(なに)か
は好(い)いかナ 六方「ヨシヨシ、皆味好(あんじよ)うしてある依(よ)ツて」其処(そこ)で八
方は村の若い奴(やつ)を呼びに参りました、花屋のお松坊(まつばう)は即功紙(そくかうし)
を貼ツた三味線を持ツてやツて来ました お松「エー六方さん八
方さん 六方「イヤ御苦労、此方(こつち)へお上(あが)り」と言ツてる所(ところ)へ 〇「
ヘエ六方さん八方さん △「ヘエ今日(こんにち)は六方さん ◎「ヘエ八方
八方「ところで酒を飲むに素面(すめ)で飲んで居(ゐ)ても面白くない、チ
ヨイと婦人(????)を一枚入れたいが、誰(だ)れぞ三味線を弾く者はある
まいか 六方「あるが、花屋のお松坊(まつばう)を呼んで来たら好(よ)いがナ
八方「違ひない、さうして村の奴(やつ)を呼んで来て、ワツと陽気に
騒がうじやアないか」 と言ツてる所(ところ)へ 酒屋「ヘエ御免下さいま
し 六方「オウ酒屋か 酒屋「只今は大きに、エー五升持ツて参りま
した 六方「アゝヨシヨシ、其処(そこ)に置いといてお呉れ 八方「葱(???)や何(なに)か
は好(い)いかナ 六方「ヨシヨシ、皆味好(あんじよ)うしてある依(よ)ツて」其処(そこ)で八
方は村の若い奴(やつ)を呼びに参りました、花屋のお松坊(まつばう)は即功紙(そくかうし)
を貼ツた三味線を持ツてやツて来ました お松「エー六方さん八
方さん 六方「イヤ御苦労、此方(こつち)へお上(あが)り」と言ツてる所(ところ)へ 〇「
ヘエ六方さん八方さん △「ヘエ今日(こんにち)は六方さん ◎「ヘエ八方
さん 六方「オウ作(さく)さんに徳兵衛さん安兵衛さんですか、サア何(どう)
卒(ぞ)此方(こちら)へ 〇「ヘエ有難うございます 六方「チヨイと和尚さんの
留守事(るすごと)に、旨い物を喫(く)ツた事がないので、今日は鶏(かしは)を絞めま
した 〇「それは結構ですナ、此処(こゝ)の和尚さんは中々お固いの
で、お在(ゐ)でだとそんな事は出来ませぬが、何(ど)うも酒飲むには
鶏肉(かしは)か魚類に限りますナ、イヤどうも御馳走さま」 そのうち
に鶏(かしは)の料理がチヤンと出来ましたから、台所火鉢にカンカン
と火を拵(こしら)へ、その上へ本堂から銅鑼を持ツて来て、鋤焼(すきやき)の代(かは)
りに致しまして、鋤焼(すきやき)といふので、ワイワイと言ツて飲み始
めました、本堂に在(あ)ツた蛇(じや)の描(か)いた太鼓を取ツて来る、妙(めう)八
を叩(な)ぐるやら、花屋のお松坊(まつばう)は調子も合はぬ三味線をペコシ
ヤンシヤンと弾き始める、六方に八方は素裸体(すつぱだか)になツて踊ツて
居(ゐ)やうといふ大層な騒ぎ、
卒(ぞ)此方(こちら)へ 〇「ヘエ有難うございます 六方「チヨイと和尚さんの
留守事(るすごと)に、旨い物を喫(く)ツた事がないので、今日は鶏(かしは)を絞めま
した 〇「それは結構ですナ、此処(こゝ)の和尚さんは中々お固いの
で、お在(ゐ)でだとそんな事は出来ませぬが、何(ど)うも酒飲むには
鶏肉(かしは)か魚類に限りますナ、イヤどうも御馳走さま」 そのうち
に鶏(かしは)の料理がチヤンと出来ましたから、台所火鉢にカンカン
と火を拵(こしら)へ、その上へ本堂から銅鑼を持ツて来て、鋤焼(すきやき)の代(かは)
りに致しまして、鋤焼(すきやき)といふので、ワイワイと言ツて飲み始
めました、本堂に在(あ)ツた蛇(じや)の描(か)いた太鼓を取ツて来る、妙(めう)八
を叩(な)ぐるやら、花屋のお松坊(まつばう)は調子も合はぬ三味線をペコシ
ヤンシヤンと弾き始める、六方に八方は素裸体(すつぱだか)になツて踊ツて
居(ゐ)やうといふ大層な騒ぎ、
【語釈】
・八方「ムゝ…原文「 方「ムゝ」。誤植は明らかであり、訂正した。
・素面(すめ)…ルビ不鮮明。「素面(すめ)」は「酒に酔っていないときの顔。しらふ」。
・婦人(????)…漢字ルビともに不鮮明。あるいは(をなごし)か。
・葱(???)…漢字ルビともに不鮮明。あるいは(ねぶか)か。
・即功紙(そくかうし)…清涼剤・鎮痛剤を塗った紙。頭痛などのとき、患部に貼った。
・妙八…妙鉢。仏具で、シンバルに似た楽器。
【解説】
八方こと似多八と六方こと紛郎兵衛が、庄屋を騙して得た鶏で、村の若い者を集めて鶏すきの酒宴を開き、騒ぎ始めたというくだりです。一つ一つの準備や会話・行動を丁寧に描写しています。

