【翻字】
八方「オイ万屋は何処(どこ)じや、オイ万屋金
兵衛は何処(どこ)じやエ、オウ此処(こゝ)だ、オイ坊主が着いてるぜ坊主
が 六方「コレ、そんな事を云ふなエ」 万屋の宅(うち)では葬礼の支度
を致して居(を)りましたが、皆(みな)はこの体(てい)を見て 「オヤオヤ、手荒い
坊さんが来よツたぜ 六方「アゝ万屋金兵衛殿方は ●「ヘエ、私(わたくし)
の方(はう)でございます 六方「アゝ左様かナ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥(なまみだ)
陀仏(ぶつ) ●「コレ、お寺さんがお見えなすツたぞ、御苦労さまで
何卒(どうぞ)此方(こちら)へ 六方「ハイ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)、万屋金兵衛殿も終(つひ)にようなかツて、嘸(さ)ぞかしお力落(おと)し、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ) 八方「そこで此(こち)
八方「オイ万屋は何処(どこ)じや、オイ万屋金
兵衛は何処(どこ)じやエ、オウ此処(こゝ)だ、オイ坊主が着いてるぜ坊主
が 六方「コレ、そんな事を云ふなエ」 万屋の宅(うち)では葬礼の支度
を致して居(を)りましたが、皆(みな)はこの体(てい)を見て 「オヤオヤ、手荒い
坊さんが来よツたぜ 六方「アゝ万屋金兵衛殿方は ●「ヘエ、私(わたくし)
の方(はう)でございます 六方「アゝ左様かナ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥(なまみだ)
陀仏(ぶつ) ●「コレ、お寺さんがお見えなすツたぞ、御苦労さまで
何卒(どうぞ)此方(こちら)へ 六方「ハイ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)、万屋金兵衛殿も終(つひ)にようなかツて、嘸(さ)ぞかしお力落(おと)し、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ) 八方「そこで此(こち)
方(ら)が銭儲(ぜにまう)け 六方「そんな事を云ふナ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥陀(なまみだぶ)
仏(つ)、お仏壇は強(きつ)うお供物(???もの)がお立派に出来ましたナ ●「イエ、
それは戸棚でございます 六方「ハゝア、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ) 八方「成程
芋に牛蒡(ごんばう)に高野豆腐 六方「そんな事を云ふなエ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)
南無阿弥陀仏(なまみだぶつ) ●「サア、どうかお経をば一ツ上げて戴きたう
ございます 六方「畏まりました ●「コレ、お茶を持ツて来いお
茶を 六方「イエお構ひ下さるナ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)」
六方はお仏壇の前にチヤンと坐りまして、鉦(かね)をチンと打鳴(うちな)ら
し 六方「ドガチヤガ経、チンリン猫ニヤンチウ、金魚に放し亀(??)
牛モウモウ、倭狗(こまいぬ)には鈴ガラリ、蛙は三(みつ)ツで三(み)ヒヨコヒヨコ、鳩ク
ウクウ、立石に石灯籠、天神さんに西行(さいぎやう)さん、お多福天狗に磐(はん)
若(にや)の面、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥(なまみだ)
陀仏(ぶつ) ●「ヘエ有難う存じます、何卒(どうぞ)戒名を一ツお願ひ申しま
仏(つ)、お仏壇は強(きつ)うお供物(???もの)がお立派に出来ましたナ ●「イエ、
それは戸棚でございます 六方「ハゝア、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ) 八方「成程
芋に牛蒡(ごんばう)に高野豆腐 六方「そんな事を云ふなエ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)
南無阿弥陀仏(なまみだぶつ) ●「サア、どうかお経をば一ツ上げて戴きたう
ございます 六方「畏まりました ●「コレ、お茶を持ツて来いお
茶を 六方「イエお構ひ下さるナ、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)」
六方はお仏壇の前にチヤンと坐りまして、鉦(かね)をチンと打鳴(うちな)ら
し 六方「ドガチヤガ経、チンリン猫ニヤンチウ、金魚に放し亀(??)
牛モウモウ、倭狗(こまいぬ)には鈴ガラリ、蛙は三(みつ)ツで三(み)ヒヨコヒヨコ、鳩ク
ウクウ、立石に石灯籠、天神さんに西行(さいぎやう)さん、お多福天狗に磐(はん)
若(にや)の面、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)、南無阿弥陀仏(なまみだぶつ)南無阿弥(なまみだ)
陀仏(ぶつ) ●「ヘエ有難う存じます、何卒(どうぞ)戒名を一ツお願ひ申しま
す
【語釈】
・お供物(???もの)…ルビ不鮮明。
・亀(??)牛…漢字ルビともに不鮮明。
【解説】
六方こと紛郎兵衛と八方こと似多八の二人が立派な僧侶に扮して万(よろず)屋金兵衛方を訪ね、葬式を執り行うくだりです。ちょいちょいと乱暴な事を言う八方をたしなめながら、六方は僧侶らしく重々しく振る舞います。肝心のお経は全く出鱈目らしいのですが、どのように出鱈目なのか、よくわかりません。
お経の内容については現行形の笑福亭仁鶴「鳥屋坊主」もほぼ本書古形版を踏襲していますが、出鱈目なお経に対する葬家の者の反応は真逆となっています。現行版があまりの出鱈目さに「もう結構ですわ」とツッコむ形で六方のお経を終わらせる形であるのに対し、本書の古形版は「ヘエ有難う存じます」と、出鱈目なお経を読んだ六方に葬家の者がお礼を言っています。
