【翻字】
六方「ハゝア戒名を、戒名は又一両日のうちに認(したゝ)めて持たし
て寄越します ●「ヘエ一両日、何(ど)うか只今 六方「ハゝア今かナ
戒名は又今度誰方(どなた)か死んでやツた時に、一緒にその序(つひ)でに命(つ)
けませう ●「そんな冗談な事を仰(おつ)しやツては困ります、只今
願ひます 八方「オイ六方、戒名書かんかいナ 六方「アゝ痛(いた)、痛(いた)タゝゝ、アゝ
痛(いた)……… ●「オヤ和尚さん、如何(どう)なすツたので 六方「アゝ痛(いた)アー
私の持病の腹痛(はらいた)が発(おこ)りましたので ●「それはどうも和尚さん
お気の毒さんで、コレコレ其処(そこ)に万金丹があツたらう、その
万金丹をお上(あが)り遊ばして 六方「これは有難う、辱(かたじけ)なうございま
す ●「何(ど)うでございます、未(ま)だお腹(はら)のお痛みは治(とま)りませんか
六方「イヤイヤお庇蔭(かげ)さまで腹痛(はらいた)はスツカリと治(とま)りました ●「
六方「ハゝア戒名を、戒名は又一両日のうちに認(したゝ)めて持たし
て寄越します ●「ヘエ一両日、何(ど)うか只今 六方「ハゝア今かナ
戒名は又今度誰方(どなた)か死んでやツた時に、一緒にその序(つひ)でに命(つ)
けませう ●「そんな冗談な事を仰(おつ)しやツては困ります、只今
願ひます 八方「オイ六方、戒名書かんかいナ 六方「アゝ痛(いた)、痛(いた)タゝゝ、アゝ
痛(いた)……… ●「オヤ和尚さん、如何(どう)なすツたので 六方「アゝ痛(いた)アー
私の持病の腹痛(はらいた)が発(おこ)りましたので ●「それはどうも和尚さん
お気の毒さんで、コレコレ其処(そこ)に万金丹があツたらう、その
万金丹をお上(あが)り遊ばして 六方「これは有難う、辱(かたじけ)なうございま
す ●「何(ど)うでございます、未(ま)だお腹(はら)のお痛みは治(とま)りませんか
六方「イヤイヤお庇蔭(かげ)さまで腹痛(はらいた)はスツカリと治(とま)りました ●「
治(とま)りましたら戒名を何(ど)うか 六方「こりやア驚いたなア………イヤ
宜しい、アゝそれではこれが戒名でござるじや ●「ヘエー、
これが戒名で、こりやア貴僧(あなた)万金丹の紙袋(かんぶくろ)ですがナ、これが
如何(どう)いふもので戒名でございます 六方「然(さ)うじや、万屋(よろづや)の金兵(きんべ)
衛(ゑ)さんは痰(たん)で死なれた、それで万金丹(よろづきんたん)万金丹(まんきんたん) ●「稀代(けつたい)な戒名
です ●「イヤ戒名はそれに致しまして、伊勢朝熊(あさま)と致してご
ざいますナ 六方「それは金兵衛さんは威勢(ゐせい)のよかツたお方であ
ツたが、死なれたので浅ましうなツた依(よ)ツて、そこで伊勢朝(いせあさ)
熊(ま)●「ヘエー、するとこの側に白湯(さゆ)にて用(もち)ゐべしと書いてあ
るのは、こりや如何(どう)いふ訳でございます 六方「それか、それは
な茶湯(ちやたう)には及ばぬと云ふことぢや」。
宜しい、アゝそれではこれが戒名でござるじや ●「ヘエー、
これが戒名で、こりやア貴僧(あなた)万金丹の紙袋(かんぶくろ)ですがナ、これが
如何(どう)いふもので戒名でございます 六方「然(さ)うじや、万屋(よろづや)の金兵(きんべ)
衛(ゑ)さんは痰(たん)で死なれた、それで万金丹(よろづきんたん)万金丹(まんきんたん) ●「稀代(けつたい)な戒名
です ●「イヤ戒名はそれに致しまして、伊勢朝熊(あさま)と致してご
ざいますナ 六方「それは金兵衛さんは威勢(ゐせい)のよかツたお方であ
ツたが、死なれたので浅ましうなツた依(よ)ツて、そこで伊勢朝(いせあさ)
熊(ま)●「ヘエー、するとこの側に白湯(さゆ)にて用(もち)ゐべしと書いてあ
るのは、こりや如何(どう)いふ訳でございます 六方「それか、それは
な茶湯(ちやたう)には及ばぬと云ふことぢや」。
【語釈】
・万金丹…伊勢国、朝熊(あさま)山で製し、解毒・気付けなどの効果があるとされた薬の名。
・茶湯(ちやたう)…仏前や霊前に供える煎茶湯。
【解説】
六方こと紛郎兵衛が戒名を頼まれ、困って腹痛を装い、薬袋にこじつけて戒名とするくだりです。非常に鮮やかなサゲですが、万金丹という薬が伊勢参りの土産物として広く知られていた時代ならではと言えます。
