【翻字】
源兵「彼(あ)の対方(むかふ)の下駄屋の戸外(かど)に屑糸織(くずをり)の丹前着て、大き
源兵「彼(あ)の対方(むかふ)の下駄屋の戸外(かど)に屑糸織(くずをり)の丹前着て、大き
い胴乱提げて居る老爺(おやぢ)さん知ツてるか
喜八「彼(あれ)アお前町内の薪屋(わりきや)の老爺(おやぢ)さんやが
源兵「さうや、彼(あ)の人に飲まして貰はう
喜八「ムー飲まして呉れるかへ
源兵「サアそれに就(つい)てチヨイと段取があるんだ、あの老爺(おやぢ)
さんはナ、途方もない喧嘩が好きや、喧嘩と云ツた
ら如何(どん)な喧嘩でも中へ這入ツて挨拶してナ仲直り
に酒飲ます人や、然(さ)うやよツて彼(あ)の老爺(おやぢ)さん目的(めど)に
お前と私(わし)と示談(あひたい)喧嘩為(し)やう
喜八「示談(あひたい)喧嘩ツて何様(どない)するのや
源兵「サア喧嘩の事ぢや、頭ポカポカツと擲(どつ)き合ひするの
や、スルと彼(あ)の老爺(おやぢ)さん出て来て、コレ汝等(きさまら)ア朋友(ともだち)
同士で喧嘩すナ、マアマア来いと云うて料理屋へ伴
喜八「彼(あれ)アお前町内の薪屋(わりきや)の老爺(おやぢ)さんやが
源兵「さうや、彼(あ)の人に飲まして貰はう
喜八「ムー飲まして呉れるかへ
源兵「サアそれに就(つい)てチヨイと段取があるんだ、あの老爺(おやぢ)
さんはナ、途方もない喧嘩が好きや、喧嘩と云ツた
ら如何(どん)な喧嘩でも中へ這入ツて挨拶してナ仲直り
に酒飲ます人や、然(さ)うやよツて彼(あ)の老爺(おやぢ)さん目的(めど)に
お前と私(わし)と示談(あひたい)喧嘩為(し)やう
喜八「示談(あひたい)喧嘩ツて何様(どない)するのや
源兵「サア喧嘩の事ぢや、頭ポカポカツと擲(どつ)き合ひするの
や、スルと彼(あ)の老爺(おやぢ)さん出て来て、コレ汝等(きさまら)ア朋友(ともだち)
同士で喧嘩すナ、マアマア来いと云うて料理屋へ伴
れて行ツて仲直りに酒飲まして呉れはる、デ、彼(あ)の老(おや)
爺(ぢ)さん目的(めど)に頭擲(どつ)き合ひして酒飲まうか
喜八「ムゝそんな便りない事は廃(やめ)やう、挨拶して呉れて酒
飲まして呉れなかツたら、何にも成らんワ阿房らし
い
源兵「イゝヤ喧嘩したら大丈夫酒飲まして呉れる、過日(こないだ)も
犬が咬(かぶ)り合ひして居(を)ツた、さうしたら彼(あ)の老爺(おやぢ)さん
傍(わき)へ行ツてナ、ヤイヤイ白犬(しろ)も黒犬(くろ)も乃公(おれ)に任して
置けと、云うて鯛の頭アもツて挨拶して居た
喜八「アゝゑらい面白い仁(ひと)やなア、犬の喧嘩に鯛の頭で挨
拶とハ大層(ゑらい)好う出来てる、併(しか)し乃公(おら)ア馴合(あひたい)喧嘩ツて
為(し)た事がないよツて教へてんか
爺(ぢ)さん目的(めど)に頭擲(どつ)き合ひして酒飲まうか
喜八「ムゝそんな便りない事は廃(やめ)やう、挨拶して呉れて酒
飲まして呉れなかツたら、何にも成らんワ阿房らし
い
源兵「イゝヤ喧嘩したら大丈夫酒飲まして呉れる、過日(こないだ)も
犬が咬(かぶ)り合ひして居(を)ツた、さうしたら彼(あ)の老爺(おやぢ)さん
傍(わき)へ行ツてナ、ヤイヤイ白犬(しろ)も黒犬(くろ)も乃公(おれ)に任して
置けと、云うて鯛の頭アもツて挨拶して居た
喜八「アゝゑらい面白い仁(ひと)やなア、犬の喧嘩に鯛の頭で挨
拶とハ大層(ゑらい)好う出来てる、併(しか)し乃公(おら)ア馴合(あひたい)喧嘩ツて
為(し)た事がないよツて教へてんか
【語釈】
・胴乱…薬・印・銭・ 煙草などを入れて腰に下げる革製の袋。
・胴乱…薬・印・銭・ 煙草などを入れて腰に下げる革製の袋。
【解説】
往来に胴乱の幸助を見つけた源兵衛が、その趣味を当てにして、喧嘩を装う事で仲裁の酒にありつこうと喜八に提案するくだりです。
故・桂米朝「胴乱の幸助」と本書古形版との相違は、現行版にある胴乱の幸助の出世譚と他に何の趣味もないという人柄の紹介が、本書古形版には全くない点です。他はほぼ同様ですが、全体に現行版の方が細部の描写に富み、本書古形版の方はずいぶんと簡潔です。
