【翻字】
喜八「ムゝ突当らうか
源兵「早う突当りんかいナ
喜八「こりやアーい
源兵「アーツ……勢ひの可(よ)い突当り様(やう)やナ、コウ気を注(つ)け
ろい箆棒奴(べらんめえ)、何で突当りやアがるんだ……オイ何と
なと云ひんかいナ、ゲラゲラ笑はんと、勘弁為(し)いと
か何(な)んとか……
喜八「ツゝゝゝ、ナニ介意(だん)ない
源兵「便(たより)ない言ひ様(やう)ぢやナ、早く何ぢやとか彼(か)ぢやとか…
…人に突当りやアがツて、汝(てめへ)何所(どこ)だへ
喜八「フムフム一軒おいて隣家(となり)やが
源兵「其様(そん)な事を言ふなへ……サア何が意趣があツて突当
りやアがツたんだ

喜八「酒が飲みたうおますよツてに
源兵「何(ど)うもならん、其様(そん)な事を云うて居たら……エー此(こ)
様(ん)なン喫(くら)ツとけエ
トポカーリツ打擲(はりたふ)す、喜八は痛さに堪えかね
喜八「痛アーイ、サア応対が違ふぞ、私(わ)イ最(も)う廃(お)くワ、然(さ)
うやよツて最初(のツけ)から瘡(くさ)が出来てると云うてるのに此(こ)
様(ん)なに酷く……
源兵「そんな事を云うたら喧嘩が出来んワ……エーツ今一
ツ喫(くら)ツとけエ
喜八「痛アーイ……一ツでも痛くて堪らんのに、二ツも瘡
の所を擲(い)きアがツて、コリヤー……
源兵「一寸(ちよい)と待ちンかいナ、顔つかんで如何(どな)いするのぢや
喜八「格外(あまり)馬鹿にするなへ、温柔(をとな)しうして居ると思ツて、

見い血が出たワイ
源兵「それでは真個(ほんと)の喧嘩になるがナ、一寸(ちよい)と待ちイて事
……
喜八「糞オ喫(くら)ヘツ
片方(かたツはう)は偏屈を起して七分ほど真個(ほんと)の喧嘩になりました、

【語釈】
・偏屈…素直でないこと、他と同調しないこと。

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【解説】
 源兵衛と喜八が偽物の喧嘩をするうちに、本当の喧嘩に変わったくだりです。
 ここのくだりでは、現行版と本書古形版の間に大きな違いはありません。


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