言語構造式註解
詞の組たて上巻
詞の組たて上巻
谷 千生著
い〈言語構造式〔ゲンギヨコウザウシキ〕〉(ことばのつくりかた)
言語をひとつの構造品に擬(なぞ)らへて其れを構へ造るの式と言ふ意にて号(なづ)けたる書目なり。然して本書の総体のたてかたは、始めに『言語を構造する順序を追ひて、其の分派せる系統を示す』と言ひ置きたるに其の大意を知る可きなり【谷千生著『言語構造式』2/41参照】。
一
〈声音〔セイイン〕〉(こゑ) 是を元素に擬(なぞ)らふ
〈称呼〔シヨウコ〕〉(な) 是を天然物に擬らふ
〈言語〔ゲンギヨ〕〉(ことば) 是を構造品に擬らふ
声音は即ち〈五十連音〔ゴジウレンイン〕〉(いつらごゑ)なり。是は本書に図を略せり。さるは大かた人の知りたるものなればなり。さて五十の音あるは五十の元素有るが如く、其の元素即ち五十の音が幾音かつらなりて事物の称呼と成るは、元素が抱合して天然物即ち金石木竹の類と成るが如く、又其の天然物即ち称呼が組み立てられて言語と成るは、天然物が人工を経て構造品即ち衣服器具の類と成るが如き順序なりと知るべし。爰(ここ)に擬らへて言へる事をよく味はひ見ば、言語のなりたてる大旨は容易に心得らる可し。
ろ
〈体言〔タイゲン〕〉(すわりな) 〈用言〔ヨウゲン〕〉(うごきな)
是は称呼の分派せるものにて、体言は物の名にして其の唱へ動かず静座する如きものなれば、これを(すわりな)と言ひ、用言は事の名にして其唱へ居らず立働する如きものなれば、これを(うごきな)と言ふなり。然して爰に動くと言ふは、用言とする称呼は其の尾音が言語を組み立つる時の断続の為に移り変るを動くとは言ふなりと知るべし。さて体言の種類は物名言・形容言・助体言の三品にして、此の外なる時日名言・数量名言は物名言に属し、不定言・指示言は形容言に属するなり。又用言の種類は作用言・助用言・形状言の三品なりと知るべし。
【補説】
谷による用語はおおよそ現在の次の用語に相当する。
・言語構造式:文法
・声音:音素・音韻
・称呼:語・辞
・言語:言語
・五十連音:五十音
・体言:活用のない語
・用言:活用のある語
・物名言:名詞
・形容言:副詞・感動詞など
・助体言:助詞
・作用言:動詞
・助用言:助動詞
・形状言:形容詞
谷は自立語と付属語という概念は持っていなかった。その代わりに活用の有無で単語を大別した。体言は副詞や助詞を含み、接続詞や連体詞・感動詞という品詞は考えていなかった。用言は助動詞を含み、形容動詞は考えなかった。また文法用語は漢語を基本としつつ和語でも表現した。次節以降に登場するが、「格」とは「さだまり」、「活」とは「はたらき」という具合にである。谷は江戸国学の伝統を捨てずにそれを踏襲したのである。

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