〈形容言〔ケイヨウゲン〕〉(さまな)

 形容言は体言三品のひとつにして常の物名言とは一種異なるものなりとす。さるは物名言をはじめとしてそれに属する時日名言・数量名言等はそれぞれにさしあつる物がありての名なるに、是は其等とは違ひて人の詞づかひのさまざまなるありさまを示すものにして、其の詞にさしあつる本体は無きものなり。さるは本書【谷千生著『言語構造式』4/41参照】に出したる〈又〔また〕〉〈猶〔なほ〕〉〈先〔まづ〕〉〈甚〔いと〕〉〈忽〔たちまち〕〉〈必〔かならず〕〉とある詞どもにて、其等へいちいちにさしあつる本体即ち(また)といふ物も(なほ)といふ物も無き類にてさとるべし。さればこの詞どもは〈又〉と言ふべきありさまありて(また)といひ〈猶〉といふべき形容ありて(なほ)といふまでにて、其詞にさしあつる本体は無く、ただ言語を組み立つる時のありさまにさまざまある其の形容の名即ち(さまな)といふものなるなりとしるべし。
 然るに是等にも単称言・複称言の差別はある事にて、それをここに挙げたるものにて言はば(また)(なほ)(まづ)(いと)の如きは単称言にて(たちまち)(かならず)の如きは複称言なる也。さてこの複称といへるかたはいかなるわけにて然(し)か言ふぞとなれば、其の詞の起れるもとは月の出る時によりて名をわけて〈立待月〔たちまちづき〕〉〈居待月〔ゐまちづき〕〉〈寝待月〔ふしまちづき〕〉などいへる事ある、その(たちまちづき)は「立ちて待つ間に出る月ぞ」といふ意なるより、速〔すみ〕やかなる事にとりなして(たちまち)といふ形容言は出来たり。また漢字に書けば不(レ)有(レ)仮とやうに書くべき〈仮〔か〕りならず〉といふ詞は「かりそめならぬ」といふ意なれば、確〔たし〕かなる事にとりなして(かならず)といふ形容言は出来たるなり。かかれば右の二言は其の複称言たるを知るべきなり。ただし此の形容言はその単称・複称をいちいち差別するにも及ばず、又其の語原を委しく解訳せねばならぬと言ふわけもなければ、ただそれぞれの語意を知りわけてそのありさまによくあたるやうにつかふまでにて事足るものとす。
 さてここにことわり置かん、〈仮〔か〕りならず〉を(かならず)といふやうに〈仮里〔かり〕〉の(り)を略(はぶ)きて〈仮〔か〕〉とのみ言ふは、(かり)はもと作用言なれば其処にて示す如く、本言の(か)をつかひて活言の(り)を略きたるものにて、其例は〈宿〔やど〕る〉〈淀〔よど〕む〉の(る)(む)を略きて(やど)(よど)とのみ言へる類なる也。然るにたまたま〈仮〉の字は其字音をも(か)と呼ぶゆゑに(かならず)の(か)は字音にていはゆる〈湯桶〔ゆとう〕〉よみなりなどとはいふべからぬものとしるべし。かくて上に挙げたる詞のうちにてすこし異なる用格なるものは「甚」の字をあてて(いと)と読(よま)せたるものにて、是を(はなはだ)と読みても同じ事にて、これは自余の形容言とは違ひて形状言のみへかかるものとす。さるはたとへば外の詞どもは〈又見〔またみ〕る〉〈猶言〔なほい〕ふ〉などと〈見〔み〕る〉〈言〔い〕ふ〉の類なる作用言へかかる事なるを、かれは〈甚善〔いとよ〕し〉〈甚悪〔はなはだあ〕し〉などと〈善〔よ〕し〉〈悪〔あ〕し〉の類なる形状言のみへかかりて作用言へはかからぬもの也。是れ形状言の形容をいふ一種の詞なりと知るべし。
 さてここの形容言にて本書に出したる語例の外を今すこし挙ぐれば(さすが)(うべ)(もし)(よし)(いざ)(いで)〈専〔もはら〕〉〈頗〔すこぶる〕〉〈寧〔むしろ〕〉の類、なほ幾等もあり。又、助言の(て)を添へていへるは(あへて)(かねて)(なべて)(まして)の類、(に)を添へていへるは(さらに)(ことに)〈密〔ひそか〕に〉〈確〔たしか〕に〉〈愗〔なまじひ〕に〉の類、また詞を重畳して言へるは(いよいよ)(さらさら)(さまざま)(なかなか)(まにまに)の類なりとす。かくて(いと)をかさねて(いといと)といふを又略(はぶ)き約(つづ)めて(いとど)といへるがありて、この二つはかの例にて形状言へのみ続くなど言語の格のおごそかなるを思ふべし。さてここにをさむべき語どもは右の外に幾等もあれど、准(なぞ)らへても知りぬべければことごとくは挙げざる也。さてもこの形容言は体言三品のうちなれども、はじめに言へる如くにて物名言とは詞のなりたちの違ひたるのみならず其のつかひかたにも違ひある事は、間言格の処に解けるを見て知るべし。

〈不定言〔フテイゲン〕〉(うかめな)

 不定言は形容言に属するものにて、事物をそれとさし定めず浮かめて言ふ称呼なりとす。其の基言とするものは本書【谷千生著『言語構造式』4/41参照】に出せる〈何〔なに〕〉〈幾〔いく〕〉〈誰〔たれ〕〉の三言にて、それは本書なるその用格の所【谷千生著『言語構造式』33/41参照】にことわりてある如く、(なに)は物を定めずして言ひ(いく)は数を定めずしていひ(たれ)は人を定めずして言ふものなり。さて此の不定言をばこれまで疑辞なりとして語学家のこれかれとさだめあへりしは委しからぬ事にて、右の詞どもに疑ふ意は更に無きなり。かくてまことの疑辞といふべきものは助体言のうちにある疑問助言なる(か)(や)の二つなりとす。さればそれにて此の不定言を扱ふとき、はじめて疑ふ意ある詞とは成る也と知るべし。さて夫等の事は用格の処にて解き示すべければ略して、ここには本書に出せるもののおほかたを言ふべし。
 (なに)を決定助言の(ぞ)また第七間格助言の(と)に受けて(なにぞ)(なにと)といふ事あるを、或る時はその(に)を略して(なぞ)(など)とも言ふなり。又(いく)は数を定めず言ふ詞なるからに数量名言の本言にたぐふべきものにて、その附言の〈箇〔つ〕〉を添ふるか又は物を合称する詞の〈等〔ら〕〉を添ふるかして〈幾箇〔いくつ〕〉〈幾等〔いくら〕〉とやうに言はざれば語をなさぬものとす。さてまた〈于〔ばく〕〉といふは数量の凡そをさせる詞にして、其実は〈計〔ばかり〕〉の転化せるものならんかと思はる。さるは(ばかり)は(はかる)にて、その(かる)を縮(つづ)むれば(く)となるより(はく)と言へる詞は出来たるなるべければ也。されば其の(ばく)にて(いく)をうけて〈幾于〔いくばく〕〉といふは即ち〈幾等計〔いくらばかり〕〉といふと同意なる事を知るべきなり。又〈幾十〔いくそ〕〉といへる(そ)は数量名言の処にていへる如く〈十〉の(と)を唱へかへたる詞にして数の多きをさせる也。これにまた(ばく)をも添へて〈幾十于〔いくそばく〕〉ともいふは、大数の凡そをいへる也と知るべし。かくておもふに〈等〔ら〕〉〈于〔ばく〕〉の二つは数量名言なる別称附言の類にして、(いくら)(いくばく)といふは〈幾度〔いくたび〕〉〈幾品〔いくしな〕〉などいへるに同じ事なるを知るべし。
 又(たれ)を決定助言の(ぞ)また疑問助言の(か)に受けて(たれぞ)(たれか)と言ふ事あるを、或る時はその(れ)を略して(たぞ)(たが)ともいふなり。さて爰(ここ)にことわり置かん、上にいへるやうに(なにと)を略言すれば(など)となり、ここには(たれか)を略言すれば(たが)となると言へる(と)(か)は清音なるに、然(し)か略言するときは(ど)(が)と濁音になるはいかなるわけぞといふに、その省略するものは即ち奈行音の(に)と良行音の(れ)とにて、五十音中に奈・良・万の三行音は濁りては唱へられぬことながら、おのづから濁りを含みてある奇態なる音どもなるからに、それらの音を略(はぶ)くときはその含みたる濁りが現はれて下言へ移りたる妙理なる事を知るべき也。さてまた略言なる(たが)のかたはなほ心得べきことあり。ここに言へるは疑問助言の(か)が略言せる後に濁りて(たが)と成りたるもの也。然るに(たれ)を主格助言の(が)に受けて(たれが)といふべきとき、これも又(れ)を略して(たが)といふ事あり。かくて見れば同じ詞にして然(し)か両様あるは甚だ紛らはしきものとすべし。然れども此処が語格を知るの術にして、主格助言と疑問助言とにはいちしるきわかちあるゆゑに、古歌などにても(たが)といふ詞あるときはその前後の扱ひによりていづれのかたにつかひたるかは判然として知らるべきなり。
 さてまた(いく)と(なに)とを合せて(いくなに)と成る其の(くな)を約(つづ)むれば(か)となるよりして(いかに)といふ詞が先づ出来たるに、それをまたひとつの助体言なる(て)と疑問助言なる(か)とに受けて(いかにて)(いかにか)となるを、上にいへると同じ事に(に)を略し下言へ濁りをうつして(いかで)(いかが)といふ詞は出来たる也と知るべし。ここにことわり置かん、すべての不定言を疑ひことばにするには疑問助言の(か)にて受けてする事なるが、ここに言へる(いかが)とかの(たれか)の意なる(たが)との二つはもと疑問助言にて受けたるものの転じて成れるなれば、再び疑問助言にては受けざるものとす。かかるは皆語格の厳かなるを知るに足るものにて、その委しき事は助言転置格にて疑問格より成るものを示すを見て知るべし。
 また(いかに)をいたく省略したる(い)といふ詞より〈時〔とき〕〉の略言なる(と)をその同音なる(つ)に通はしたるものへ続けて〈何時〔いつ〕〉として、時を定めずいふ詞とせり。さて(とき)を(と)とのみいへる例は(ときばかり)を(とばかり)といへるにて知るべく、その(と)を(つ)になしたるはいはゆる通音転用の例なりと知るべし。又、右の(いつ)とはすこし違ひて、かの省略なる(い)に補言の(づ)を添へて(いづ)と成るを〈路〔みち〕〉の略なる(ち)また〈方〔かた〕、また〈等〉の字を填(うづ)むべき(ら)(れ)、また〈処〔ところ〕〉にあたる〔く)〔こ)に受けて〈何路〔いづち〕〉〈何方〔いづかた〕〉〈何等〔いづら〕〉〈何等〔いづれ〕〉〈何処〔いづく〕〉〈何処〔いづこ〕〉ともいへり。さてもはじめより是までが本書に出せる詞どものおほかたなりと知るべし。
 されば已上のものをもとにしていろいろにつかふものにてその一つ二つをいはば、(いかに)の(いか)より助体言なる間格第六言中の(ほど)(ばかり)又(さま)などいふへ続けて(いかほど)(いかばかり)(いかさま)といひ、又(いかで)を重ねて(いかでいかで)といへば希求する意になり、又(いつ)を疑問助言の(か)にて受(うけ)たる間へ間称助言の(し)を入れて(いつしか)と言ひたるがひとつの詞となりて、(いつかいつか)と待つ意にもなり(いつのまにやら)とおもひがけぬ意にもなる等の事あり。又(いか)と(いかが)とは助用言なる第二畢言へ活(はたら)かして(いかなら)(いかなり)(いかなる)(いかなれ)と言ひ、(いかがなら)(いかがなり)(いかがなる)(いかがなれ)と続けてもいへるなど、なほさまざまなる変化はある事也としるべし。
 そもそもこの不定言は事物をそれとさし定めずしていふ詞なるが、それを疑問助言にて受くればうたがひことばと成るといふよしは既にいへるを、またその(か)にて受けずしてなほ然(し)か受けたる格になりて不定言がそのままに疑ふ意をもてるものと成る事ありて、いと紛らはしきものあり。是ぞこれまで不定言をば疑辞なりといひ来たりしもとなるめれどそれはわろきよし、又この不定言をつかひたる疑問格にて疑問助言の居処を換ふる助言転置格といふしかたをなすとき、疑問助言の(か)の変化したる(や)ありて、その(か)は必らず不定言より下に置き、その(や)は必らず不定言より上に置くといふさだまりの事など、それぞれの処にて委しくいふを見て知るべし。

【補説】
 ここで谷は形容言一般と不定言を扱っている。形容言は主に今でいう副詞であるが、例中の「いざ」だけは今でいう感動詞であり、末尾に「語例の外(例外)」として挙げている〈密〔ひそか〕に〉〈確〔たしか〕に〉〈愗〔なまじひ〕に〉は今でいう形容動詞である。
 不定言はいわゆる疑問・不定の副詞である。疑問文についてはここでは軽く触れられるにとどまり、本書下巻79/155「助言転置格」および同90/155「不定言用格」で詳説される。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・形容言:副詞
・体言:活用のない語
・物名言:名詞
・数量名言:数詞
・形状言:形容詞
・作用言:動詞
・格:規則性
・不定言:不定語
・称呼:単語
・用格:用法
・疑辞:疑問語
・疑問助言:疑問の係助詞
・決定助言:強意の係助詞
・別称附言:接尾辞
・主格助言:主格(の格)助詞
・語格:語法
・助体言:助詞
・助言転置格:係り結び
・通音:同行音
・補言:接尾辞
・助用言:助動詞
・畢言:完了の助動詞

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