〈決定助言〔ケツテイヂヨゲン〕〉(きはめさだむるてには)〈そ〉 〈第二助言〉〈こそ〉

 この決定助言の(そ)は、次の疑問助言の(か)と相対(あひむか)へて見るべきものにて、これは其事をおし定めて決答する意になすの助言にして、かれは其事を定めかねて疑問する意になすの助言なるなり。然していづれも整言の作用言を続体活になしてそれを受くるものと知るべし。さて此の(そ)は世間おしわたして(ぞ)と濁りて唱ふる習ひなれば、其の実はなほ清(す)みて唱ふべきものなるかわからざれども、先づ世間普通なるにまかせて濁りて唱ふる方に従ひてあるべし。かくてこの(そ)と次の(か)とは既に示したる如く整言の作用言を続体活になしてそれを受くるものなるが、或る時はその居処を離れてその整言なる備言の下または続用せる用言の間等へ居かはる事あり。さればこの時はその整言は続体活にていひとめたる詞と成る事にて、是を助言転置格とは言ふなりと知るべし【本書下巻79/155「助言転置格」参照】。
 さて反動已格助言の所にて示し置きたる助言無しにするもの、即ち反動已然格の前置言を受けてあるべき(ども)を略(はぶ)きたるものの後置言をここの(そ)にて受けて一たび決定格となしたるものを二たび助言転置格とするに、(そ)の居処を前置言へうつすとして、それに指示言の(こ)を冠(かむ)らせていへば後置言は略きてもおのづから聞ゆるものにて、此しかたにて(そ)に(こ)を冠らせたるが第二助言の(こそ)なるなり。さればこれは決定第二助言とはすれども、常の決定格にはつかはずしてそれを転置格にする時のみに用ゐるものにて、しかも反動已然格の半体、即ち前置言を残して後置言を略くものにかぎりてつかふ助言也と知るべし。かかれば此格になしたるものはその整言の用言を第二続体活にていひとめたる一種特別のものとはなれるなり。已上の事どもはそれぞれの格を示す所にてなほ又くはしく解き示すを見るべし【本書下巻83/155「略言転置格」参照】。

〈疑問助言〔ギモンヂヨゲン〕〉(うたがひとふてには)〈か〉 〈第二助言〉〈や〉 〈第三助言〉〈や〉

 この疑問助言の(か)は前條の(そ)と相対(あひむか)ひたるものにて其のつかひかたは既に示せるが如し。然るにこれには第二助言の(や)ありて、そのつかひかたは(か)とは違ひて整言の作用言を切断活にしたるままを(や)と受くるものとす。されば疑問格には(か)とうたがふと(や)と疑ふとの二格あるなりと知るべし。さて(か)を助言転置格にする事も前條にて示したるを、これにはまた然(し)か転置したる上にて(か)を(や)に換ふる事あり。これ即ち第三助言なるなり。かかれば此の疑問助言の(や)には第二助言なると第三助言なるとがありていと紛らはしきやうなれど、その格を知れば判然たるわかちありて見わけ易きものなり。此等の事も此格を示せる処に解きたるを見て知るべし【本書下巻77/155「疑問格」参照】。

〈感慨助言〔カンガイヂヨゲン〕〉(かまけうれたむてには)〈や〉〈な〉〈も〉〈よ〉〈か〉

 この感慨助言どもはこれまでおほかたは〈歎息言〔タンソクゲン〕〉(なげきことば)と言ひ習へるものにて、人は喜ばしきにつき憂はしきにつき其の事にひたとひとの心のよるときは、俗に言ふ〈ためいき〉とて息の長くつかるるものなるからその(ながいき)を約(つづ)めて(なぎき)となるを、同音に通はして(なげき)といふ詞は出来たるなり。然るにその〈なげき〉といふ詞は憂はしき事にのみ用ゐるやうになりて初学の或ひは惑ふべければ、今は喜ぶかたにつきては〔かまけごと〕といひ憂ふるかたにつきては〔うれたみごと〕といひわけて、感慨【原書は「惑慨」。誤記として訂正】の文字をあてたるなりと知るべし。さてそのなげきの声はここに挙げたる如く(や)(な)(も)(よ)(か)の五つありて、それが整言の用言を受けて感慨格といふものになる事なるを、其の(や)(な)(も)の三つは用言の切断活より受け、(よ)(か)の二つは用言の続体活より受くるものとす。かくて此の助言は同類を重ねてたとへば(やな)(もよ)(かも)(かな)とやうにもいふことあり。なほさまざまなるつかひかたある事は感慨格の処に示せるを見て知るべし【本書下巻70/155「感慨格」参照】。

〈雑類助言〔ザツルヰヂヨゲン〕〉(くさぐさのてには)

 助体言のかどだちたるものは名格なる連合助言よりはじめて前條の感慨助言までにて一わたり挙げ尽したるなり。されどそれに漏れたる雑類の助言もある事なれば、それを爰(ここ)には挙げたるなりと知るべし。かくて爰に挙げたる外になほまたもれたるものも無きにあらざれども、それを悉く挙げんは煩はしく紛れやすきかたにおちいりて、言語の組み立てを示すかたにとりてはさのみ緊要なるものどもにもあらず。且つ其等の助言どもはおほかた已上に挙げたるものに附属せる助言なるか或ひはすこし変化して成れるものなるかにて、皆この書に立てたる語格中にをさまるものなるから、悉くは挙げざるなりと知るべし。

〈願望助言〔グハンマウヂヨゲン〕〉(ねがひでには)〈なん〉〈ね〉〈ばや〉〈もが〉〈しが〉〈がに〉

 願望助言は整言の用言を受けて其の事を然(し)かあれかしとねがひのぞむ意になす助言どもにて、それは爰に挙げたる七品なりと知るべし。さてそのつかひかたは(なん)(ね)の二つは作用言の第二続用活を受くるものとし、(ばや)は相動将格助言の(ば)を一種の(や)にて受けたるが願望する助言になれるなり。(もが)(しが)の二つは(もが)のかたは体言を受け(しが)のかたは用言の続用活をうけて其の事がらを願望するなり。(がに)は古格にては作用言の第三続用活を受け、尋常格にては続体活をうくるものなりとす。此の外にも他言より変化し来(きた)りて願望する意になれるものはなほあれども略して出さざるなり。そは用格の処に言ふを見て知るべし【本書下巻71/155「願望格」参照】。

〈重畳竟言〔チヨウデフキヤウゲン〕〉(かさねでには)〈つつ〉

 この(つつ)は元来は助用言にて竟言と号(なづ)けたる(て・つ・つる・つれ・てよ)と活用するうちの(つ)をかさねて(つつ)といへるなれば、ありのままに重畳竟言とは号(なづ)けたるなり。されば然(し)か用言なるからは爰(ここ)の助体言中には出すべきものならねども、世俗にこの(つつ)を(てつつ)(ながらつつ)とわけて「(て)に通ふと(ながら)に通ふとがあり」と言へるは先づよろしきを、その(ながら)は間格第六助言なればそれに因(ちな)みてここには挙げたるなり。委しき事は用格の処に言ふを見て知るべし【本書下巻75/155「重畳竟言格」参照】。

〈間称助言〔カンシヨウヂヨゲン〕〉(はさみでには)〈し〉〈しも〉

 この間称助言の(し)(しも)は、余の助言どもはそれぞれに意義をもちたるものなるを、これには其のもちまへなる意義は無く、ただ体言より用言へいひ続くる間にはさみ、その詞つづきの調(し)らべをよくなすまでにて、此の助言を置きたるも置かざるも言語の旨趣にかはりなきなり。さればこれまでは世俗に(やすめことば)と号(なづ)けてありしものなるぞかし。但しさはいへども聊(いささ)かは意義をもちたるやうに思はるるよしは用格の処にいふを見て知るべし【本書下巻74/155「間称助言格」参照】。

〈略格助言〔リヤクカクヂヨゲン〕〉(ことをはぶきていふてには)〈ねば〉

 これは助用言の不言なる(ず・ぬ・ね)の第二続体活とする(ね)をここの助体言なる相動已格助言の(ば)にて受けたるものにて、常のつかひざまならば別に言ふべき事も無きものなり。然るにこれはひとつの略言法にして、さは(ねば)と受(うけ)たるものはいはゆる相動已然格の前置言にてあるを、その後置言をばすこしく変化して、さてそれに反動する詞をいひつづけたる造語にてその変化したる後置言を略したるが、此の助言をつかひたる格なるなり。略言相動已然格の処にて委しく示すを見て知るべし【本書下巻76/155「略言相動已然格」参照】。

〈転置格別称助言〔テンチカクベツシヨウヂヨゲン〕〉(うつしおくさだまりのことなるてには)〈なん〉

 この(なん)は既に示したる決定助言の(そ)を助言転置格といへるしかたになしたる上にてのみその(そ)にかはるものなりとす。さればこは転置なしたる(そ)の別称なりとみて妨げなきものなりとしるべし【本書下巻83/155「別称言転置格」参照】。

〈転置格随伴助言〔テンチカクズヰハンヂヨゲン〕〉(うつしおくさだまりにともなふてには)〈もぞ〉〈もこそ〉〈もや〉

 この事を示すには既に言ひ置きたる助言転置格の事よりして先づいふべきなり。さるは転置する助言は(そ)(か)の二つにて、それが転置したる後に変じて(こそ)(や)の二つと成り、合せて四つなるを、其うちの(そ)(こそ)(や)の三つは其整言の終るところ、即ちいひとぢむる用法が(そ)(や)ならば続体活、(こそ)ならば第二続体活にてあるべき用言が、此格にては将言の(ん・め)を踏みてあるべきものにて、さあるときは即ち(そ)(や)ならば(ん)ととぢめ、(こそ)ならば(め)ととぢむる格なり。然るにこの格は、その用言が踏むべき(ん・め)の(ん)はもと(む)なれば、その(む・め)の同音なる(も)にうつし、転置せる(そ)(こそ)(や)が同伴して己が上に冠(かむ)るからに(もそ)(もこそ)(もや)となれるにて、然(し)かするゆゑにその用言は(ん・め)を踏まざる常のものを以てするなり。されば此の格は将然格なる整言を決定格または疑問格になし、その助言を転置するにあたりてまたひとつ起(おこ)りたる変化法なりと知るべし。又此の格に(もか)といふ事の無きわけは随伴助言転置格の処にていふを見て知るべし【本書下巻86/155「随伴助言転置格」参照】。
 さて是れ迄にて体言の種類は解き終りたれば、次條より用言の事を解き起すべし。

【補説】
 ここで谷は第三の助体言「整格助言」の残り、今でいう係助詞・副助詞・終助詞・接続助詞を扱っている。ただし「つつ」だけは助体言ではなく助用言「つ」を重ねたものとしながら、用法の類似性を理由として整格助言に含めている。前章の整格助言と同様に、ここでは名称と基本義を列挙するにとどまり、用法(格)の説明は下巻に譲っている。
 ここの翻字で困るのが決定助言の「そ」である。原著者も「そ」は「ぞ」と読むのが一般であり、それに従うとしながら、上巻では「そ」と書いて、濁点を付していない。結局、上巻では「ま 決定助言」から「ゆ 転置格随伴助言」の範囲だけは表記どおりに「そ」と翻字した。それは本書下巻「略言転置格」における「こそ」成立の説明に、濁点のない「そ」が必要となることとの整合性を考慮したためである。実はこの「そ」「ぞ」の問題は翻字だけにとどまらない。原著でも表記に揺れが認められる。ここの「ゆ 転置格随伴助言」では、本文では「もそ」と濁点を付していない一方、見出しでは「もぞ」と濁点が付されている。上巻ではほぼ全て濁点なしの「そ」であるのに対し、下巻では「ぞ」が増え、「丗六 随伴助言転置格」に至っては、「もそ」は全て「もぞ」と濁点付きで表記され、「そ」単独でも「そ」「ぞ」が混在している。
 以上で体言(活用のない語)は終わり、以降、用言(活用のある語)の説明に移る。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・助言:付属語
・作用言:動詞
・続体活:連体形
・続用:連用形接続
・用言:活用(のある)語
・助言転置格:係り結び
・反動已然格:逆接確定条件
・指示言:指示語
・第二続体活:已然形
・切断活:文が終止する場合の終止形
・続体活:連体形
・第二続用活:未然形
・第三続用活:他の語を後に接続させる場合の終止形・助用言:助動詞
・体言:活用のない語
・相動已然格:順接確定条件
・同音:同行音

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