九
〈作用言〔サヨウゲン〕〉(しわざごと)
これは用言三品のひとつなり。即ち本書【『言語構造式』】に用言とあるより線を引き、体言の種類七品を挙げたる下を通りて、この作用言を始めとし次々の用言どもへ続きたるを見るべし。さて此の作用言を解かむとする前に今世つかひ慣れたる仮名文字の用格に二つある事を言はんに、その一つを〈傍仮字〔バウカジ〕〉(つけがな)また(さしがな)といひ、いま一つを〈添仮字〔テンカジ〕〉(おくりがな)また(すてがな)といふのつかひかたなりとす。そのつけがなのしかたは本書なる体言類の語例に挙げたる〈舟〔ふね〕〉〈春〔はる〕〉〈又〔また〕〉〈何〔なに〕〉とやうにしるせる〈ふね〉〈はる〉〈また 〉〈なに〉等の類なるが、これは漢字に其の訓を傍書せるにて、かかるは体言の類にかぎりて施こすしかたなりと知るべし。然るにそれらとは違ひて〈引〔ひ〕く〉〈押〔お〕す〉などと書けるものある、その〈ひ〉〈お〉はつけがなにして、〈く〉〈す〉即ちここにいふすてがななるなりと知るべし。否然(し)かいふまでもなくこの二つのしかたは人皆よくしれる事なれば、ここに作用言といへるは体言とは異なるものなるよしを初学に示すにいと便利なりとおもひて、かくはとり出たるなり。さるは傍仮字と添仮字とをわけて漢字の訓に施こすものは、爰(ここ)の作用言と後に示す形状言とにかぎりたる事なればなり。ただし形容言にても〈忽〔たちま〕ち〉〈必〔かな〕らず〉の如きはすてがなを用ゐる事あれど、こは既にことわり置けるが如く、もと作用言より出たる詞なればなりと知るべし。
さて「作用」は「しわざ」と読ませたれば、しわざなれば動物のうへにつきてのみ言ふならんと思ふ人もあるべけれど、決して然らず。しわざとは物のうごきをいへるなり。されば動物のしわざをさすはもとよりにて、不動物のうごきをも言ふなりと知るべし。しかして其のなりたちはいかにといふに、作用言は〈本言〔ホンゲン〕〉(もとごと)といふものと〈活言〔クワツゲン〕〉(はたらきごと)といふものとが合体してなるものにて、本言は上にありて活言はその下につくものとす。世間普通の書籍どもにかき来(きた)れる跡につきて是れをはやく悟らしめむには、即ち上にとり出たる傍仮字は本言にして添仮字は活言なるなり。語例にていへば〈引〔ひ〕く〉〈押〔お〕す〉の〈ひ〉〈お〉は本言にして〈く〉〈す〉は活言なるなりと知るべし。かくて本言は其の作用言どもの語意をもつものにて、たとへば手してあなたなる物をこなたへ寄せんとする意は〈ひ〉の本言にありて「引〔ひ〕く」といふ詞となり、又、手してこなたなるものをあなたへ遣らんとする意は〈お〉の本言にありて「押〔お〕す」といふ詞となる類なり。
さて「作用」は「しわざ」と読ませたれば、しわざなれば動物のうへにつきてのみ言ふならんと思ふ人もあるべけれど、決して然らず。しわざとは物のうごきをいへるなり。されば動物のしわざをさすはもとよりにて、不動物のうごきをも言ふなりと知るべし。しかして其のなりたちはいかにといふに、作用言は〈本言〔ホンゲン〕〉(もとごと)といふものと〈活言〔クワツゲン〕〉(はたらきごと)といふものとが合体してなるものにて、本言は上にありて活言はその下につくものとす。世間普通の書籍どもにかき来(きた)れる跡につきて是れをはやく悟らしめむには、即ち上にとり出たる傍仮字は本言にして添仮字は活言なるなり。語例にていへば〈引〔ひ〕く〉〈押〔お〕す〉の〈ひ〉〈お〉は本言にして〈く〉〈す〉は活言なるなりと知るべし。かくて本言は其の作用言どもの語意をもつものにて、たとへば手してあなたなる物をこなたへ寄せんとする意は〈ひ〉の本言にありて「引〔ひ〕く」といふ詞となり、又、手してこなたなるものをあなたへ遣らんとする意は〈お〉の本言にありて「押〔お〕す」といふ詞となる類なり。
さて又、活言のかたはいかなるものぞと言ふに、これは言語を構造するとき、作用言のつかひかたに〈断続格〔ダンゾクカク〕〉(きれつづきのさだまり)とて断(き)れたり続きたりする事ある、其のきるるなりつづくなりの格をもちわくるものなりとす。爰(ここ)に「もちわくる」といへるにて、活言はいくつにかはたらき動きて、それぞれの格をもちわくる事なるを知るべし。先づはたらき動くといふ事を語例にて示さば、上に出せる〈引〔ひ〕く〉の〈く〉は〈か・き・け〉とはたらきて〈引〔ひ〕か〉〈引〔ひ〕き〉〈引〔ひ〕け〉ともなり、〈押〔お〕す〉の〈す〉は〈さ・し・せ〉とうごきて〈押〔お〕さ〉〈押〔お〕し〉〈押〔お〕せ〉ともなる類にて、然(し)か(か・き・く・け)(さ・し・す・せ)とやうにひとつの称呼にしてその尾音が活(はた)らき動くから是を(うごきな)といひ、其の活らき動くもの、即ち(すてがな)に書くべきものを(はたらきごと)とは言ふなりと知るべし。かくてその活言即ち作用言の尾音のはたらき動くさだまりにはいつつの別ありて、これを〈五種活〔ゴシユカツ〕〉(いつくさのはたらき)といふ。それは四段活・一段活・中二段活・下二段活・変格活の五つなりとす。これを次々に示すべし。
さて断続格といふは右の如く活(はた)らきに五種あるにも拘はらず、その活言どもが断(き)るると続くとの格をもちわけてあるものにて、断格はそれにあたる活言を〈切断活〔セツダンクワツ〕〉(きるるはたらき)といひて言語が落着してその作用言にて切れ終る処につかひ、続格は二つにわかれて、先づひとつの活言を〈続用活〔ゾクヨウクワツ〕〉(うごきなへつづくはたらき)と言ひて、その作用言を又ひとつの用言、即ち或る(うごきな)へつづくる所につかひ、今ひとつの活言を〈続体活〔ゾクタイクワツ〕〉(すわりなへつづくはたらき)といひて、その作用言をひとつの体言、即ち或る(すわりな)へつづくる処につかふものとす。さても此の続格よりつづく処の体言・用言とさせるものは、いはゆる物名言の類と作用言とをさせるものなるが、爰(ここ)に体言のひとつなる助体言と用言のひとつなる助用言とは世にいふ(てにをは)にして、然(し)か体用両言の性質を備へたるものなるから続格もおほかたおなじ事なるを、またしかすがに常の体言・用言とは異なる方もあるよりして、常の続用活・続体活よりはつづけ難きものありて、続用活には〈第二活〉〈第三活〉といふ二つの別活を設けて助用言の幾分へ続かするにつかひ、続体活には〈第二活〉といふ一つの別活を設けて助体言の幾分へつづかするにつかふものとす。
已上に示す処、続用格に三つ、続体格に二つ、すべて五つのつづけかたあり。この上に切断格ひとつあるを加へて六つのさだまりある、是れを活言の断続格とは言ふなりと知るべし。然るに作用言には已上にいへる断続のさだまりとは別意なるひとつ離れたる活言ありて、それを〈希求活〔キキウクワツ〕〉(ねがひもとむるはたらき)といふなり。これはその作用を起す処、即ち然(し)かする働らきは他物の上にあるを、こなたより希(ね)がひ求むる言ひかたなりとす。さればそれを合せてはすべて七格あるものにて、これをあつべき活言の位置に従ひ次第してつらぬれば左の如し。
め
〈一 続用第二活〉〈二 続用活〉〈三 切断活〉〈四 続用第三活〉〈五 続体活〉〈六 続体第二活〉〈七 希求活〉
右の如き順序にて作用言の活言には五種活ともにおしわたして備へたるものとす。この七活のつかひかたはそれぞれの格を示す処にて委しくいふを見るべし。さて本書【『言語構造式』】には五種活を罫界中へ一列に挙げて断続の七活もその罫界を横に通して見るべく図したれども、なほわかり難きやうにもおもはるれば、爰には五種活をわけて断続格をも悉く附記せんとす。然れども其の活言へひとつひとつに断続の名称をしるしつくるはいと煩はしく且体裁もうるさかるべければ、既に出せる七活の位置につきての順序を示せる所に(一・二・三・四・五・六・七)と肩書したる数量字をもてその名称に換ふるが便宜なりとおもへば次々皆然(し)かせり。また本言にはめじるしも無けれどそれは皆漢字へ傍仮字にしたれば紛れなかるべし。
【補説】
ここからは用言(今でいう活用のある語)の説明に入り、谷は最初に作用言(今でいう動詞)を説明する。谷と現在の文法との最大の相違点は終止形にある。現在活用形は6分類であるが、谷は終止法として使われる文末の終止形と、助動詞を接続させる時に現れる終止形を区別し、後者を「続用第三活」として7分類している。

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