〈四段活〔シダンクワツ〕〉(よきだのはたらき)
加行 〈引〔ひ〕一 か 二 き 三・四・五 く 六・七 け〉
佐行 〈押〔お〕一 さ 二 し 三・四・五・す 六・七 せ〉
太行 〈打〔う〕一 た 二 ち 三・四・五 つ 六・七 て〉
波行 〈言〔い〕一 は 二 ひ 三・四・五 ふ 六・七 へ〉
万行 〈汲〔く〕一 ま 二 み 三・四・五 む 六・七 め〉
良行 〈降〔ふ〕一 ら 二 り 三・四・五 る 六・七 れ〉

 これは五種活のひとつなる四段活なり。さてかく号(なづ)くるゆゑは、作用言の活言はすべて五十連音の竪行によりてはたらくものにて、それを爰(ここ)の加行の活言にて言へば、まづ第一音の(か)といふよりして第二音の(き)第三音の(く)第四音の(け)にいたるまで四段にわたりて(か・き・く・け)とはたらくなり。佐行の(さ・し・す・せ)とはたらき太行の(た・ち・つ・て)とはたらき波行の(は・ひ・ふ・へ)と活(はた)らき万行の(ま・み・む・め)とはたらき良行の(ら・り・る・れ)とはたらける、皆四段にわたる活(はた)らきなるからこれを四段活とは号(なづ)けたるなり。然して此の活(はたら)きは五十連音の十行中にて以上の如く(加・佐・太・波・万・良)の六行にありて(阿・奈・也・和)の四行には無きなりと知るべし。
 又、作用言のすべての名はこの四段活をもとに立てて号(なづ)けたるものにて、然(し)か四段にわたるうちその二つ目の一段にあたる音へのはたらきを一段活といひ、その二つ目三つ目、即ち中の二段にあたる音のはたらきを中二段活と言ひ、その三つ目四つ目、即ち下の二段にあたる音のはたらきを下二段活といひ、已上の四活のいづれにもつかずかれこれ混合したるやうなるはたらきを変格活といひて、ここに五種活の名目は出来たるなりと知るべし。
 さて活言に傍書したる数量字は既にいへる如く断続格の名目に換へたるものなれば、其の意にて見るべきはもとよりなれど、なほいはばたとへば加行活にていへば「(一)とあるから(か)は第二続用活なり。(二)とあるから(き)は続用活なり。(三・四・五)とある(三)は切断活(四)は第三続用活(五)は続体活なるから(く)がその三活を兼ねたるなり。(六・七)とある(六)は第二続体活(七)は希求活なるから(け)がその二活を兼ねたるなり。」とやうに、(一・二・三・四・五・六・七)の数量字にて活言それぞれの名目を知るべきものなるは、佐行活已下も同じ事なるはさらなり、次々の活用も皆同じ事なりと知るべし。
 又、本言は(引〔ひ〕・押〔お〕・打〔う〕・言〔い〕・汲〔く〕・降〔ふ〕)の六言を出したれど、これはなほ外に幾等もあるものにて爰(ここ)にすこし出さば、加行なる(引〔ひ〕)の(引〔ひ〕か・引〔ひ〕き・引〔ひ〕く・引〔ひ〕け)とはたらく類は(飽〔あ〕・置〔お〕・動〔うご〕)などにて、此等皆(飽〔あ〕か・飽〔あ〕き・飽〔あ〕く・飽〔あ〕け)(置〔お〕か・置〔お〕き・置〔お〕く・置〔お〕け)(動〔うご〕か・動〔うご〕き・動〔うご〕く・動〔うご〕け)と活(はたら)くなり。次下の五行も同じ事にて、佐行なる(押〔お〕)の類は(成〔な〕・召〔め〕・記〔しる〕)などあり。太行なる(打〔う〕)の類は(立〔た〕・待〔ま〕・保〔たも〕)などあり。波行なる(言〔い〕【原書は「打〔う〕」。誤記として訂正】)の類は(逢〔あ〕・舞〔ま〕・匂〔にほ〕)などあり。万行なる(汲〔く〕)の類は(忌〔い〕・住〔す〕・勇〔いさ〕)などあり。良行なる(降〔ふ〕)の類は(釣〔つ〕・取〔と〕・走〔はし〕)の類ありて、已上のもの皆それぞれの行なる四段にはたらくものなるぞかし。さて本言は五種活によりて多きと寡きとがあるうちにて此の四段活には殊に多きものなるを、その中の一つ二つを挙げて示したるなれば、なほ洩れたるが頗(すこぶ)る多きなりとしるべし。

〈一段活〔イチダンクワツ〕〉(ひときだのはたらき)
加行 〈着 一・二 き 三・四・五 きる 六 きれ 七 きよ〉
奈行 〈似 一・二 に 三・四・五 にる 六 にれ 七 によ〉
波行 〈干 一・二 ひ 三・四・五 ひる 六 ひれ 七 ひよ〉
万行 〈見 一・二 み 三・四・五 みる 六 みれ 七 みよ〉
也行 〈射 一・二 い 三・四・五 いる 六 いれ 七 いよ〉
和行 〈居 一・二 ゐ 三・四・五 ゐる 六 ゐれ 七 ゐよ〉

 これは五種活のひとつなる一段活なり。かく号(なづ)くるわけは前條にてことわれるが如し。さて其のはたらけるさまははじめなる加行の活言にて言へば、先づ四段活にて(か・き・く・け)と活(はたら)きたる二つ目の一段にあたる(き)をもて爰(ここ)の活(はたら)きとする事なり。然るにただ(き)の一音のみにては活用する規則、即ち断続の別(わか)ちをつけがたし。依(より)て其の(き)をはたらきの本としてそれに〈助活言〔ジヨクワツゲン〕〉(たすくるはたらき)と号(なづ)くる(る・れ・よ)の三言を添へたるもの、即ち(きる)となり(きれ)となり(きよ)となる三つを合せて(き・きる・きれ・きよ)とはたらくものなりとす。奈行の(に・にる・にれ・によ)とはたらき波行の(ひ・ひる・ひれ・ひよ)と活き万行の(み・みる・みれ・みよ)とはたらき也行の(い・いる・いれ・いよ)と活き和行の(ゐ・ゐる・ゐれ・ゐよ)とはたらくも皆同じ事なるなり。かくてこれが五十連音十行のうちにて已上の如く(加・奈・波・万・也・和)の六行にありて(阿・佐・太・良)の四行には無きなりと知るべし。然してその断続格はこれも加行活にて言はんに(き)が(一・二)を兼ね(きる)が(三・四・五)を兼ね(きれ)が(六)にて(きよ)が(七)なるなり。奈行已下も皆同じ事なれば准(なぞ)らへてしるべし。さてかく数量字にて言ひ示すにつきても前條にいへる如く、その数量字がそれぞれに断続格の名目にあたる事を弁知してよく暗記するやうにすべし。さるは此の書中にて用言三類の活言なる断続格を言ひ示す時にはいつも此の数量字をもて其の代名とすべければなり。
 扨(さて)本言の事をいはんに、此の一段活にてはその本言甚だ寡し。さるは上に出したるものとその外なるとを言へば、加行活には(着)ばかりにて外にはなし。奈行活には(似)の外に(煮)あり。波行活には(干)の外に(噴)(簸)あり。万行活には(見)ばかりにて外に無し。也行活には(射)の外に(鋳)あり。和行活には(居)の外に(率)ありて、これらの外にはすべてある事なし。されば此の活用には本言の至(いたり)て寡きを知るべし。ただしこれまでは余の活用なりとしてありしものに、必らずこの一段活なるべしとおもはるるが一つ二つはあれどもそは別に言ふべし。
 かくて爰(ここ)にことわり置かん、本書なる作用言五種活の三十二品へひとつづつ本言をあてたる中に、ここの一段活なる(着・似・干・見・射・居)と下二段活なる(得・寝・経)と変格活なる(来・為)とにて、すべては十一字なる本言の填字には、いはゆる本言の主意とする処の傍仮字なし。さればこれをいかにと言(いふ)に、元来本言には二種ありて、本書【『言語構造式』9/41参照】にも聊(いささ)か示し置(おき)つる如く、その一つを〈尋常本言〔ジンジヤウホンゲン〕〉(つねのもとごと)といひて、それは四段活のにあてたる如き本言の名にして、いまひとつを〈虚辞本言〔キヨジホンゲン〕〉(こゑなきもとごと)といひて、是れが即ち本書【『言語構造式』10/41参照】に挙げたる十一字及び上に加へたる(煮・噴・簸・鋳・率)の五字とを合せてすべて十六字の填字にあてたる本言の名なるなり。さるは漢字を借りて書けば、上に挙げたる如くそれぞれに填(うづ)むる文字はあれども、となへのうへには即ち虚辞とするいはれにて、本言とすべきこゑはなく活言ばかりにてその用言となるなり。それは即ち加行にて(き・きる・きれ・きよ)と言へば活言ばかりなれど(着る)といふ詞になり、奈行にて(に・にる・にれ・によ)といへば同じく活言ばかりなれど(似る)といふ詞にも(煮る)といふ詞にもなるが如し。波・万・也・和の四行も同じ事也。一段活は外の活言とは違ひてかくの如き変態なるものと知るべし。さて添仮字と傍仮字との事につきてもこの活(はたら)きの詞を書きとるには外のとは違ひて、たとへば加行にて言へば(着〔き〕・着〔き〕る・着〔き〕れ・着〔き〕よ)とやうに本活言の(き)を傍仮字にして助活言の(る・れ・よ)を添仮字にするもの也と知るべし。

【補説】
 ここでは四段活と一段活(今でいう上一段活用)を谷は扱っている。四段活では、用言(今でいう活用語)の七つ(今は六つ)の活用形とその漢数字による表記を、一段活では語幹と語尾の区別のない作用言を挙げてその特殊性をそれぞれ説明している。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・作用言:動詞
・五十連音:五十音
・活言:活用語尾
・一段活:上一段活用
・中二段活:上二段活用
・断続格:活用
・第二続用活:未然形
・続用活:連用形
・切断活:終止形
・第三続用活:他の語を後に接続させる場合の終止形
・続体活:連体形
・第二続体活:已然形
・希求活:命令形
・用言:活用(のある)語


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