十
〈自動言〔ジドウゲン〕〉(ひとりするうごきな) 〈他動言〔タドウゲン〕〉(ものにかかるうごきな) 〈第一格〉〈第二格〉〈第三格〉〈第四格〉
作用言のはたらきの事は前條に解きたれども、いまだ其の作用が自他にわたる事あるをいはざれば爰(ここ)に示したる也。さても作用言三十二品は其の一品毎にて必らず自と他との動きを別(わ)けて言はねばならぬものなる事を先づ知るべし。さるは物には必らず動きあり。其の動きを作用と言ふ。さて或る物が作用をなすとき、自(みず)からひとり動くと、又、或る他の物に係はりて動くとの別あるをいひわかつを自他の詞とは言ふなり。いまこれを号(なづ)けて〈自動言〔ジドウゲン〕〉(ひとりするうごきな)〈他動言〔タドウゲン〕〉(ものにかかるうごきな)とす。かくて一つの単純なる作用言あれば、それは必らず此の自動言か他動言かのうちなる也。たとへば前條なる三十二品の活言へひとつづつ本言をつけたるものは、皆ここの両言のうちいづれかにあたる類なりと知るべし。さて作用言の一品毎にて必らず自と他との動きを別(わ)けねばならずといひ置きたるにつきて、其の別けざまをいへば、ひとつの本言に二つの活言をつけ別けて自動言を他動言とを得るものにて、それに四格あり。左の如し。
せ
〈第一格〉
〈解〔と〕 自動言 け く くる くれ けよ 他動言 か き く け〉
〈漬〔ひ〕 自動言 た ち つ て 他動言 ち つ つる つれ ちよ〉
〈延〔の〕 自動言 び ぶ ぶる ぶれ びよ 他動言 べ ぶ ぶる ぶれ べよ〉
是れはひとつの本言より五種活中の同行二活にわたりてわかるものにて、たとへば(解〔と〕)の本言を加行の下二段活になして(解〔と〕け・解〔と〕く・解〔と〕くる・解〔と〕くれ・解〔と〕けよ)といへば自動言となるを、同じ加行の四段活になして(解〔と〕か・解〔と〕き・解〔と〕く・解〔と〕け)といへば他動言となり、(漬〔ひ〕)の本言を太行四段活になして(漬〔ひ〕た・漬〔ひ〕ち・漬〔ひ〕つ・漬〔ひ〕て)といへば自動言となるを、同じ太行の中二段になして(漬〔ひ〕ち・漬〔ひ〕つ・漬〔ひ〕つる・漬〔ひ〕つれ・漬〔ひ〕ちよ)といへば他動言となり、(延〔の〕)の本言を波行の中二段活になして(延〔の〕び・延〔の〕ぶ・延〔の〕ぶる・延〔の〕ぶれ・延〔の〕びよ)といへば自動言となるを、同じ波行の下二段活になして(延〔の〕べ・延〔の〕ぶ・延〔の〕ぶる・延〔の〕ぶれ・延〔の〕べよ)といへば他動言になる類の如し。余は准(なぞ)らへて知るべし。
但し已上に示せる三様のうちに四段活と中二段活とにてわかり、中二段活と下二段活にてわかる類は甚だ稀にして、爰(ここ)に挙げたる(漬〔ひ〕・延〔の〕)の外には先づ無きが如し。然るに(解〔と〕)の類は頗(すこぶ)る多くして、ここの例の如く下二段活の方が自動言にして四段活の方が他動言なるあり、或ひはこれに反して四段活のかたが自動言にして下二段活の方が他動言なるもありて、此の第一格はこの類にてもちきりたるが如し。
さて又、この両言の語意をいますこし委しく示さんに、たとへば或る物たる(氷〔こほ〕り)がみづからひとり或る動きをなすをば(解〔と〕け・解〔と〕くる)と言ふは即ち自動言なるなり。然るに別に或る物たる(日〔ひ〕)が又或る他の物たる(氷〔こほ〕り)に係はりて或る動きをなすをば(解〔と〕き・解〔と〕く)といふは即ち他動言なるなり。これにて或る物が自(みづ)からひとりするを自動言とし、それがまた或る他の物にかかりてするを他動言とすといふ意を会得すべきなり。これは造語中に或る物なる主格を定めてその主格の動きを作用言と言ひ、其の作用言は主格のひとりする意なるあり、或ひはその主格が己と対したる賓格なるまた或る他のものにかかりてする意なるありといふ事をここに一わたりいひ置きて、後に整言を解くにあたりそれに自動格・他動格といふものの出来るは、主格が自動すると他動するとによりて起(おこ)る事を先づ知らせ置く也と知るべし。
す
〈第二格〉
〈寄〔よ〕 自動言 ら り る れ 他動言 せ す する すれ せよ〉
〈余〔あま〕 自動言 ら り る れ 他動言 さ し す せ〉
〈離〔はな〕 自動言 れ る るる るれ れよ 他動言 さ し す せ〉
是れは本言より佐行と良行との四段活と下二段活とにはたらき分けて自動言と他動言とに成るもの也。(寄〔よ〕)の本言より良行四段活になして(寄〔よ〕ら・寄〔よ〕り・寄〔よ〕る・寄〔よ〕れ)といへば自動言なるを、佐行の下二段活になして(寄〔よ〕せ・寄〔よ〕す・寄〔よ〕する・寄〔よ〕すれ・寄〔よ〕せよ)といへば他動言になり、(余〔あま〕)の本言より良行四段活になして(余〔あま〕ら・余〔あま〕り・余〔あま〕る・余〔あま〕れ)といへば自動言なるを、佐行の四段活になして(余〔あま〕さ・余〔あま〕し・余〔あま〕す・余〔あま〕せ)といへば他動言になり、(離〔はな〕)の本言より良行下二段活になして(離〔はな〕れ・離〔はな〕る・離〔はな〕るる・離〔はな〕るれ・離〔はな〕れよ)といへば自動言なるを、佐行の四段活になして(離〔はな〕さ・離〔はな〕し・離〔はな〕す・離〔はな〕せ)といへば他動言になる類の如し。余は准(なぞ)らへて知るべし。
但し已上に示せる三様のうちに良行四段活と佐行下二段活とにて分かるるものは(寄〔よ〕)の外に(乗〔の〕・載〔の〕)の本言より良行四段活になして(乗〔の〕ら・乗〔の〕り・乗〔の〕る・乗〔の〕れ)といひて自動言とし(載〔の〕せ・載〔の〕す・載〔の〕する・載〔の〕すれ・載〔の〕せよ)といひて他動言とするものあるより外にいまだ見あたらず。(余〔あま〕・離〔はな〕)の類にて自他両動言ともに四段活なると自動言のかたが良行下二段活にて他動言のかたが佐行四段活なるものは両様ともあまり多くは無けれどもなほあるなりと知るべし。さて按(おも)ふに自動活のかたは良行活にして他動活の方は佐行活なるは自他の定まりなるものにて、次の第三格・第四格もこの定まりによりて出来たるものなるを見るべし。
イ
〈第三格〉
〈回〔ま〕 自動言 は ひ ふ へ 他動言〈原活履言 は〉さ し す せ〉
〈免〔ゆ〕 自動言 り る るる るれ りよ 他動言〈原活履言 る〉さ し す せ〉
〈冷〔ひ〕 自動言 え(江) ゆ ゆる ゆれ え(江)よ 他動言〈原活履言 や〉さ し す せ〉
これは第一格・第二格の如く本言より直ちに或る活言へはたらき分けて成るものとは違ひ、先づはじめに或るはたらきにて自動言が出来てあるを原活とし、その活言中の或る音を本言が履言として佐行四段活にうつりて他動言と成るものとす。さるは(回〔ま〕)の本言より波行四段活になして(回〔ま〕は・回〔ま〕ひ・回〔ま〕ふ・回〔ま〕へ)といへば自動言なるを、その活言中なる(は)を本言が履言とし(回〔ま〕は)となるより佐行四段活になして(回〔ま〕はさ・回〔ま〕はし・回〔ま〕はす・回〔ま〕はせ)といへば他動言となり、(免〔ゆ〕)の本言より良行中二段活になして(免〔ゆ〕り・免〔ゆ〕る・免〔ゆ〕るる・免〔ゆ〕るれ・免〔ゆ〕りよ)といへば自動言なるを、その活言中なる(る)を本言が履言とし(免〔ゆ〕る)と成るより佐行四段活になして(免〔ゆ〕るさ・免〔ゆ〕るし・免〔ゆ〕るす・免〔ゆ〕るせ)といへば他動言となり、(冷〔ひ〕)の本言より也行下二段活になして(冷〔ひ〕え・冷〔ひ〕ゆ・冷〔ひ〕ゆる・冷〔ひ〕ゆれ・冷〔ひ〕えよ)といへば自動言なり。然るにこれはその活言が也行の活用なるから五十連音より見てその第一音なる(や)にうつし、これを本言が履言とし(冷〔ひ〕や)となるより佐行四段活になして(冷〔ひ〕やさ・冷〔ひ〕やし・冷〔ひ〕やす・冷〔ひ〕やせ)といへば他動言となる類なり。余は准(なぞ)らへて知るべし。
ロ
〈第四格〉
〈塞〔ふさ〕 自動言〈原活履言 が〉ら り る れ 他動言 が ぎ ぐ げ〉
〈居〔す〕 自動言〈原活履言 わ〉ら り る れ 他動言 ゑ う うる うれ ゑよ〉
〈籠〔こ〕 自動言〈原活履言 も〉ら り る れ 他動言 め む むる むれ めよ〉
これは前條なる第三格の反対にして、先づはじめに或るはたらきにて他動言が出来てあるを原活とし、その活言中の或る音を本言が履言として良行四段活にうつりて自動言と成るものとす。さるは(塞〔ふさ〕)の本言より加行四段活になして(塞〔ふさ〕が・塞〔ふさ〕ぎ・塞〔ふさ〕ぐ・塞〔ふさ〕げ)といへば他動言なるを、其の活言中なる(が)を本言が履言とし(塞〔ふさ〕が)となるより良行四段活になして(塞〔ふさ〕がら・塞〔ふさ〕がり・塞〔ふさ〕がる・塞〔ふさ〕がれ)といへば自動言となり、(居〔す〕)の本言より和行下二段活になして(居〔す〕ゑ・居〔す〕う・居〔す〕うる・居〔す〕うれ・居〔す〕ゑよ)といへば他動言なり。然るにこれは其の活言が和行なるから五十連音より見てその第一音なる(わ)にうつし、これを本言が履言とし(居〔す〕わ)となるより良行四段活になして(居〔す〕わら・居〔す〕わり・居〔す〕わる・居〔す〕われ)といへば自動言となり、(籠〔こ〕)の本言より万行下二段活になして(籠〔こ〕め・籠〔こ〕む・籠〔こ〕むる・籠〔こ〕むれ・籠〔こ〕めよ)といへば他動言なり。然るにこれもその活言が万行なるから五十連音の第五音なる(も)にうつし、これを本言が履言とし(籠〔こ〕も)となるより良行四段活になして(籠〔こ〕もら・籠〔こ〕もり・籠〔こ〕もる・籠〔こ〕もれ)といへば自動言なる類なり。余は准(なぞ)らへて知るべし。
さても自動言・他動言の別(わ)かる定まりは爰(ここ)に示せる四格なりと先づ知り置くべし。然るにそれは大体の定まりにて、用言といふものはその変化さだまり無きものなれば、右の四格の外にして自動・他動の別かるもの無きにあらず。さるは(聞〔き〕き・聞〔き〕く)は加行四段活、(見〔み〕・見〔み〕る)は万行一段活にて共に他動言なるを、(聞〔き〕)のかたは転音履言の例によりて(聞〔き〕こ)とし、(見〔み〕)のかたはそのままに(み)を履言とし、いづれも也行下二段活になして(聞〔き〕こえ・聞〔き〕こゆる)(見〔み〕え・見〔み〕ゆる)といへば自動言となる類有るが如し。又、右四格のうちなる例にてはたらきは別(わ)かれども其の両言おほかた同意にて、自動・他動とは別かれぬものあり。さるは太行四段活にて(満〔み〕ち・満〔み〕つ)と言ひ同行中二段活にて(満〔み〕ち・満〔み〕つる)といふは、第一格の例なれども両言共に自動言なり。又、良行四段活にて(渡〔わた〕り・渡〔わた〕る)といひ佐行四段活にて(渡〔わた〕し・渡〔わた〕す)と言ふは第二格の例なれども、両言ともに他動言なる類あるが如し。
又、自動言・他動言といふは主格のうごきを分けていふものとは既にも言ひつる事なるが、然(し)かあるにつきてまた心得べき事あり。さるは其の主格になるものの性質によりて他動言も自動言になる事ありて、(寄〔よ〕せ・寄〔よ〕する)(入〔い〕れ・入〔い〕るる)は他動言なるを、(波〔なみ〕・風〔かぜ〕)の主格になれば(波〔なみ〕が寄〔よ〕する)(風〔かぜ〕が入〔い〕るる)とやうにいはれて自動言になることあるが如し。此の外にも作用言の或る二言が続用するにあたりて、其の一方のものに引かれて今一方のものがその自他の相反したるにもかかはらず熟語となる類のあるなど、なほさまざまなる変化あるものなる事を知るべし。
【補説】
ここで谷は他動言と自動言(今でいう他動詞と自動詞)を扱っている。自他の組み合わせを四つの格(型)に分け、第一格は同じ本言(今でいう語幹)に同行の異なる活言(今でいう活用語尾)が付く型、第二格は良行の活言がつく自動詞と佐行の活言の付く他動詞との型、第三格は他動言の語幹が自動言の活言の同行音一字を加える型、第四格は逆に自動言の語幹が他動言の活言の同行音一字を加える型としている。第二格の末尾で「按(おも)ふに自動活のかたは良行活にして他動活の方は佐行活なるは自他の定まりなるものにて」と本質的な洞察を述べる一方、第四格の末尾では「用言といふものはその変化さだまり無きものなれば、右の四格の外にして自動・他動の別かるもの無きにあらず」と、分類法則化をなかば諦めつつ、上記四格以外の例を列挙している。
以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・作用言:動詞
・活言:活用語尾
・中二段活:上二段活用
・五十連音:五十音
・続用する:用言に接続する

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