十二
〈助用言〔ヂヨヨウゲン〕〉(うごきでには)

 助用言といふは用言三品のひとつにして、是れは体言三品のひとつなる助体言に対したる名なる事は其の所にも言ひ置きたるにて知るべし。かくてこれが性質はいかなるものぞといふに、こは作用言に附きて要用なるものなりとす。さても作用言の事ははじめに本言・活言の二つより成る事を言ひ、次に五種活にわかるる事をいひ、又その活言に断続の七格ある事を言ひ、さて又その五種活のすべてに自動言・他動言の二つある事をいひ、なほまたその両言が被動言・使動言の二つになると言ひたり。此等の事は既に前條までにて示し終りたれば、人皆作用言の大体をば会得したるなるべし。然るになほ一事言ひ残したることあり。それは作用言の時を示す事にぞある。されば作用言の時といふは、その切断・続用・続体なる三活のうちにて、切断活と続体活とにていひたるは、まのあたりに其の作用のある事にて、これを現在時といふなり。然るに続用活にていひたるは、此の現在時を持たずして、その続きたる処の用言がもちたる時に随ふものとす。
 さて時といふものは然(し)か現在時ばかりかといふに、決してしからず。その作用のいまだきたらざるときにいふ未来時あり、その作用の既にすぎさりたる時にいふ過去時あるなり。しかるに此の両時を作用言がみづから持つこと能はざるものなるは、既に現在時を持ちてあるにてよく知られたり。仍(より)てその両時にあつるには別言を作らざる可(べ)からざるわけにて出来たるが、爰(ここ)の助用言なるなりと知るべきなり。ここにことわり置くべし、未来時と同じ時にても、まさにきたらんとするかたよりいへば、これを将来時といふべきなり。かかるは助用言に未来につきていふと将来につきていふとの別ある故なり。然れども此の両名目は相通じてつかふべきものにて、其の時をさしていふには未来時とよびても将来時と呼びても妨げ無きものなりとす。已上に示したる処の作用言が持ちたる〈現在時〔ゲンザイジ〕〉(まのあたりにあるとき)と、ここの作用言が持ちたる〈未来時〔ミライジ〕〉(いまだしからざるとき)〈過去時〔クワコジ〕〉(すぎさりたるとき)との三つを〈作用言三時〔サヨウゲンサンジ〕〉(しわざごとのみつのとき)とはいふなりと知るべし。
 さて助用言のうちにてその将来時をいひあらはすものを将言といひ、未来時を言ひあらはすものを不言といひ、過去時をいひあらはすものを去言といふなり。ここに又ことわり置かん、過去時といふは既に過ぎ去りてある時なる事もとよりなれば、その格なる去言をもて示したる作用は、その事はやく過ぎ去りて跡なき後の言なるなり。然るに過去には深浅ありて、去言はその深きものなれども、その浅きかたのものには竟言・畢言の二つありて、同じ過ぎ去りたる事を言ふ助言なるも、跡なきには至らざるやうなる処につかふものあるなり。さればこれにて将言・不言・去言・竟言・畢言といふ五品のものあるを原言として、将言・不言にはいづれも第二言・第三言・第四言あり、去言・竟言・畢言にはいづれも第二言あるものとなして、合せて十四品あるが助用言のすべての数なるなりと知るべし。
 さて作用言の処にて聊(いささ)か言ひ置きたる如く、この助用言へいひ続くる為に作用言の続用活には第二活・第三活といふ別活を設けてある事なれば、即ち既に言ふ処の十四品を三組にわけて作用言・続用の三活より受け分くる処を示すこと左の如し。

【補説】
 ここで谷は助用言(今でいう助動詞)一般を扱っている。谷は作用言(今でいう助動詞)の時制について「切断活と続体活とにていひたるは、まのあたりに其の作用のある事にてこれを現在時といふなり。然るに続用活にていひたるは此の現在時を持たずしてその続きたる処の用言がもちたる時に随ふものとす」と、切断活(今でいう終止形)と続体活(今でいう連体形)は現在時制であるのに対し、続用活(この用語で注意すべきは、それが第二続用活・第三続用活も含むかどうかの判断である。第二格でこの時に関する議論が展開されるが、それをふまえるとここは含んでいる。つまり連用形だけでなく未然形および助動詞が接続する終止形も含めている。第二格には「常の続用活」という表現があり、それは第二・第三を含まないことを明示するものである。)に時制は無く、後続する助用言の意味する時制に従うとしている。そして、助用言は現在時制以外の時制、未来時制・将来時制・過去時制を作用言に与える働きをするものであると、助用言の基本性格を説明している。その上で、助用言は将来時制を意味する将言(今でいう推量系助動詞)・未来時制を意味する不言(今でいう打消系の助動詞)・過去時制を表現する去言(今でいう過去の助動詞)・竟言・畢言(ともに今でいう完了の助動詞)に分類している。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・助用言:助動詞
・用言:活用(のある)語
・体言:活用のない語
・助体言:助詞
・続格:接続に伴う活用
・切断活:終止形
・続用活:連用形
・続体活:連体形
・将言:推量(系)の助動詞
・不言:打消(系)の助動詞
・去言:過去の助動詞
・竟言:完了の助動詞
・畢言:完了の助動詞
・続用第二活:未然形
・第三続用活:他の語を後に接続させる場合の終止形

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