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〈第三格〉(作用言の続用第三活、即ち(四)を受く)
第三将言〈冠言 べ〉二 べく 三 べし 五 べき 六 べけれ
第四将言〈冠言 め〉一 ら〈是(この)〈ら〉のみ冠言〈め〉を略(はぶ)くなり〉二・三 めり 四・五 める 六 めれ
第四不言〈冠言 ま〉二 まじく 三 まじ 五 まじき 六 まじけれ
第二畢言〈冠言 な〉一 なら 二・三 なり 四・五 なる 六・七 なれ
此の第三格は〈第三将言〉〈第四将言〉〈第四不言〉〈第二畢言〉の四品あるなり。これが例の如く十四品を三組にわけたる終(をはり)の一組なりと知るべし。さて将言は第一格の処にて示せる如く万行活なり。しかして万行音は波行の濁音に通ずるものなるから、爰(ここ)にはその通じたるものの第四音なる(べ)をとりて冠言とし、次條【本書120/133「形状言」参照】に出す処の形状活なる(く・し・き・けれ)につづけて(べく・べし・べき・べけれ)と成るを第三将言とし、又将言の(ん・め)と活用せる(め)を取りて冠言とし、良行変格活になして(ら・めり・める・めれ)となるを第四将言とす。ただし此活言のはじめのものに冠言無きよしは、本書【『言語構造式』17/41参照】にもことわり置き、爰にもなほ上に誌したるとほりなれど、実は冠言をおきて(めら)とせざればその活用が一体裁をなさざるなり。然れどもこはやむを得ざるわけありてなること、下にことわるを見て知るべし。又、第四不言は第二将言の冠言なる(ま)に第二不言なる(じ)の音を結びつけて(まじ)と成るを更に冠言となし、これも第三将言と同じやうに形状活なるものへつづけて(まじく・まじ・まじき・まじけれ)となしたるなり。又、第二畢言は畢言のはじめの活言なる(な)を取りて冠言とし、良行変格活になして(なら・なり・なる・なれ)としたるなり。
さて此等の断続格はしるしてある如くにて、これも他の活言を借りてなれるものなれば、いづれもそのもとの格に随ひたるなり。ただし形状活なるは次條を見て知るべし。かくて第四不言は第二不言へ第二将言の(ま)をかむらせてそれを冠言としてなれる物といひ、又、然(し)かあらずとも第二不言にはもとより将言の意のこもりてあるものなるを、それを冠言にて出来たるものなるゆゑ、全く第二不言と同じ意味ありて反動将然格に応ずるものなるなり。しかしてその断続格なる(三)即ち切断活をもちたるは、ただに(まじ)といふ詞なるゆゑ、冠言ばかりのやうなればこれを怪しむ人もあるべけれど、それは次條の形状活の例にしたがひたるなれば、其の処を見てさとるべし【本書123/133「形状言」参照】。又、この第四不言を本書【『言語構造式』15/41参照】には第三不言として挙げ置きたるを、此の書にて改めたる事は既にも言ひたるが如し。
さて第四将言のはじめなるは(めら)と言はねばならぬやうなるを、さは言はでただ(ら)とのみいふわけは、すべて用言どもの活用のはじめに有るもの、即ち(一)はこの助用言の第一格なる将言・第二将言・不言・第二不言・第三不言の五品にて受くるものなる事は既にいへるが如し。然るに助用言も又、用言のうちなれば、また(一)の格もあらざるべからず。然(し)かありとすれば、其の(一)よりは第一格の助言どもにて受けざるべからざるなり。かくて然(し)か定むるも、第一格の助言どもは自体が自体を受くるといふ理は無き事なれば、これには(一)の入用ならざる事も、又、既にいへるが如し。しかして見れば何が(一)をもちてあるぞといふに、第三将言・第四不言は形状活を借りて成るものなれば、これまた(一)は入用ならず。よりて残りの去言・竟言・畢言・第二去言・第二竟言・第二畢言・第四将言と第一格中のものにても他言を借りてなれる第三不言との八品が(一)をもちて有るものなるなり。さて此等を第一格の助言にて受くるとするも、将言・第二将言はすべておし渡して受くれども、不言・第二不言は受けざるものあり。それは竟言の(一)なる(て)・畢言の(一)なる(な)の二つ也。又(一)のあるものを挙げたるうちに去言をも入れたるが、これは本書には(一)の無き類のうちへ入れて、即ち此の書にも既に(二)のみもちたる事に示してあれど、実は已上の示しかたにては(二)といふよりも(一)といふがよろしきが如し。さるは去言のはじめなる(け)は(二)のもちまへなるすべての用言へつづくる格は一つも無くして、ただ(一)のもちまへなるうちにて纔(わづか)に将言・第二将言の二つへのみつづくものなればなり。されど(一)も(二)も続用活なれば、然(し)か続用せるなりとおほらかに見て、その名目にはなづまであるべし。
さて爰(ここ)にかくいろいろなる事を言へるは、助用言は一種のものにて其の格に常ならぬ例のままあるからに、ついでに示したるなりと知るべし。さても第四将言のはじめを(めら)といふものとして見れば、それが(一)なるから上に言へる如く将言・第二将言に受けて(めらん)(めらまし)とやうにいふべく、然(し)か(ん)(まし)等にてうけざれば用をなさぬものなり。然るにその冠言なる(め)は何ぞといふに、既に示せる如く将言の(め)にてあるなれば、さては冠言も受けたるものも将言にして同言のかさなる事となるからに、これのみは冠言を省きてつかふものと成りたるなりとしるべし。これにつきては(ん)と受けたる助言に(けん)(てん)(なん)(らん)と言ふ四つあるをば誰も知りたるならん。しかして其の(けん)の(け)は去言の(二)、(てん)の(て)は竟言の(一)、(なん)の(な)は畢言の(一)といふ事はこれかれの語格書にもいひてあれど、(らん)の(ら)は何にてあるかといふよしを確かに言ひたるもの、ある事なし。これは(らん)は(めらん)の略言なる事を発明せる人無きゆゑなり。よく思ひ見よ、(らん)と(めり・める)とがこの第三格にて作用言の(四)を受くるが同格なるにても、今己が言ふ如くなる事はさとらるべき也。ただししか略言なりとは定むるも、第二将言にうけて(らまし)とは言はざるにか、聞きつかぬ心地すれば、よくたづぬべし。
又、第二畢言の格につきては別にいふべき事も無けれど、其の性質よりいへばこれは一種特別なるものにて、この格にて作用言の(四)をうくるがもちまへなるの外に、時としては続体活【原書は「言」。誤記として訂正】即ち(五)をも受くる事あるのみならず、又、体言をも受くる事あり。その(五)を受くるよしは本書にもしるし置けり【『言語構造式』16/41参照】。然(し)か(五)をも体言をもうくるにつきては、又ひとつ言はざればならぬ事あり。それはこの第二畢言なる冠言の(な)と第二格中なる第二竟言の冠言なる(た)とは既に示せる如く、其の原言、即ち竟言・畢言より出でたるものなるは論無きを、今ひとつ約言にて出来たりとも解くべきかたあるは、第一格中にて第三不言を二様に解きたると全く同じきもの也とす。さるは良行変格活はもと(あり・ある)といふ詞なるから、それへ竟言の(一)なる(て)と畢言の(二)なる(に)とよりつづけて(てあり・てある)(にあり・にある)と成るを、その(てあ)(にあ)を約(つづ)むれば(た)(な)となるゆゑに、(たり・たる)といふ第二竟言と(なり・なる)といふ第二畢言とは出来たるなりとも解くべければなり。
さて然(し)かありてその第二畢言の冠言なる(な)は、即ち(にあ)の約(つづ)まりにて、その(に)は畢言の(二)なる事またいふまでもなし。然るに体言を受くる(なり・なる)の(な)は、同じやうに(にあり・にある)の約まりなるものにはあれど、其の(に)は助体言中なる第三間格助言にして、畢言の(二)なる(に)には非ざるなりと知るべし。されば(五)なり体言なりを第三間格助言の(に)にてうけて、それをまた(あり・ある)と受けたるが約(つづ)まりて(なり・なる)と成れるものなれば、実は第二畢言とは性質の異なるものなれども、おしこめてそれとなしたるなり。続体活、即ち(五)と体言と同格になるものなる事は、続体格の処を見て知るべし【本書下巻32/155「続体格」参照】。
さてこれまでにて助用言の事は一わたり解き終りたり。この詞どもは作用言にいちしるき関係あるものにて、言語のかたちを正しくあらはすしかた、即ち文字にて書き出す文章上には最も多くつかはねばならぬものなれば、已上に述べたる処をくりかへし味ひ見て、よく会得してよかし。
【補説】
ここで谷は続用第三活(今でいう終止形)に接続する「べし・めり・まじ・なり」を扱っている。第四将言(推定の助動詞)〈めり〉の〈一〉すなわち未然形「ら」は、将言〈む〉に続いて〈らむ〉となる(用例しかない)として、これは実質的に現在推量の助動詞「らむ」を「第四将言〈めり〉+将言〈む〉」として説明したものである。また、助動詞「なり」については実質的に〈四〉の第三続用活(今の終止形)と〈五〉の続体活(今の連体形)の二つの活用形に接続する「一種特別なるもの」としていて、別々に存在する二つの助用言(今でいう助動詞)とは認めていない(「なり」については次の「形状言」で谷の見解の一端が示される)。
以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・作用言:動詞
・続用活:連用形
・去言:過去の助動詞
・竟言:完了の助動詞
・畢言:完了の助動詞
・断続格:活用
・五十連音:五十音
・将言:推量(系)の助動詞
・不言:打消(系)の助動詞
・活言:活用語尾
・虚辞本言:活用語尾との区別のない語幹
・切断活:終止形
・続体活:連体形
・常の続用活:連用形を指す
・続用第二活:未然形
・続用第三活:他の語を後に接続させる場合の終止形
・続用活:狭義には連用形を指すがここでは広義で、続用第二活と続用第三活も含む


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