さて已上の件までにて形状言の活言の事は一わたり解き終りたれば、是より始(はじめ)に挙げ置きたる〈受言〔ジユゲン〕〉(うけごと)のわけを解くべし。この受言といふは活言とはさらに殊なるものにて、それは(さ・み・げ・け・が・か)の六言なるが、いづれも尋常本言と履辞本言の(し)を踏みたるものとを受くる也。かかるはこの両本言どもを(く・し・き・けれ)とは活用させず、一転して或るは体言の格にし、或るは一種なる続用する格につかひ、或るは助体言・助用言にて受くるものとし、或るは作用言中のある活言へはたらき行かする物とするのしかたにつかふ、本言のうけことばなるなりと知るべし。
 さればそのわかちを示さば、六言のうちにて先づはじめの(さ)は体言になるものとす。さるはたとへば(清〔きよ〕さ)(空〔むな〕しさ)といへば、清き事と空しき事とが体言になりたるにて、言語の組み立かたにおきて常の体言のつかひやうと少しもかはり無きなりと知るべし。
 次の(み)は、今或る本言を此の(み)にて形状していふ処の原物に関係ある他物の作用へ続用するもの也とす。この事は形状言のつかひかたを示す処に言へるを見よ【本書下巻95/155「形状言用格」参照】。本言の受けかたは(清〔きよ〕み)(空〔むな〕しみ)とやうにいふまでにて、異なる事もなし。
 次の(げ)は間格助言の(に)に受けて(げに)といひ、また第二畢言の(なら・なり・なる・なれ)にて受けて(げなら・げなり・げなる・げなれ)といふものとす。本言をうけては(清〔きよ〕げに)(空〔むな〕しげなり)などいふ類なりと知るべし。又、この受言にかぎりて作用言なる良行変格活の(二)なる(有〔あ〕り)を受けて(有〔あ〕りげに)などいふ事あり。されば(有〔あ〕り)の類属にては、第二竟言をうけて(たりげに)と言ひ、指示言の(さ)をはたらかしたる物より受けては(さりげなり)などもいへる事あり。されどこの類属も変格活の処にて示し置ける十六品を皆うくるものにはあらず、かへりて受けざるかた多きが如し。其等より受け試みて其の可否を知るべし。又、不言の(ず)よりは受けて(ずげに)とやうにもいふ事あるを知り置くべし。
 次の(け)は将言の(ん・め)にうけて(けん・けめ)となるものとす。本言を受けては(清〔きよ〕けん)(空〔むな〕しけめ)などいふ類なり。しかしてこれはやや古き詞づかひなれども、なほ今も言ふ事なるを、また第二将言の(まく・まし・ましか)にうけて(けまく・けまし・けましか)ともいはるべきは、万葉集にその例見えたれど、此のかたは今はいはぬやうに成りたりとおぼしければ、ただ古言にはさる例ありといふ事を知り置くまでにてよかるべし。
 次の(が)は良行四段活の(ら・り・る・れ)につづきて(がら・がり・がる・がれ)と活用するものとす。されば本言をうけては(清〔きよ〕がり・清〔きよ〕がる)といひ(空〔むな〕しがり・空〔むな〕しがる)といふ類にて、これは他人がさる形状をあらはしたる時、こなたより見て評していふ詞なりと知るべし。
 次の(か)は良行変格活の(ら・り・る・れ)につづきて(から・かり・かる・かれ)と活用するものとす。さればこれも本言を受けて(清〔きよ〕かり・清〔きよ〕かる)と言ひ(空〔むな〕しかり・空〔むな〕しかる)といふ類にて、こは前の(がり・がる)とよく似て、後のはただ(かり・かる)と(か)文字を濁らぬまでの違ひなり。然れども其の活言のかたにつきていへば、前のは(り)が(二)なるを、後のは(り)が(二)と(三)とを兼ねたる違ひあり。これ良行変格活のもちまへなるものと知るべし。されば此の受言の実をいへば形状活の(二)、即ち続用活なる(く)より(あり・ある)と続きて(くあり・くある)といへる、其の(くあ)を約(つづ)むれば(か)となるゆゑ(かり・かる)とはいふにて、この受言の(か)は約言よりなれる物なるを知るべし。
 かくて已上の受言どもを本言が別格履言の(け)を踏みたるものよりうくるはいかにといはんに、(さ)(み)の二つはたとへば(清〔きよ〕けさ)(空〔むな〕しけみ)とやうにも言はるべきに、(げ)(け)(が)(か)は加行音なるを、履言の(け)も加行音なるから、重ぬる時はその唱へのあしくなるゆゑにや、たとへば(清〔きよ〕けげに)とも(空〔むな〕しけけん)とも言はず、また(清〔きよ〕けがる)(空〔むな〕しけかり)ともいはざるなり。此等の事も心得て置くべし。
 さて《い》と誌したるはじめの條より《チ》としるしたるこの條までにて、天然物に擬(なぞ)らへたる称呼(な)といふものの種類を解き終りたるものとす。これを〈分類法〔ブンルヰハフ〕〉(たぐひをわくるしかた)と言ふなり。されば是よりは構造品に擬らへたる言語(ことば)といふもののつくりかた、即ち〈組織法〔ソシヨクハフ〕〉(くみたてのしかた)と言ふ事に解き至るべし。

 此上巻は分類法をのみことわりて、其のつかひかたは解かざるからに、語格につきては心ゆかぬ処多かるべけれど、此巻はただ類ひを分つ事にのみ目をつけ、先づ一わたり読み終りてさて下巻を見よ。さらば組み立てかたにつきてここに分類し置きたる称呼は、それぞれのつかひかたに明らかなる区別ある事のしられて、言語の組織法は竹を破る勢ひにて会得せられぬべし。

詞の組たて上巻畢

【補説】
 ここで谷は形容詞の受言(今でいう接尾語)を扱っている。抽象名詞化する「さ」・名詞化した上に形容動詞化する「げ」・ミ語法の「み」は接尾語であるが、「け」は上代ク語法、「が」は動詞化する接尾語「がる」、「か」は補助活用(カリ活用)のそれぞれ一部である。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・形状言:形容詞
・活言:活用語尾
・体言:活用のない語
・続用する:用言に接続する
・助体言:助詞
・助用言:助動詞
・作用言:動詞
・畢言:完了の助動詞
・竟言:完了の助動詞
・指示言:指示語
・不言:打消(系)の助動詞
・将言:推量(系)の助動詞
・続用活:ここでは狭義で、連用形
・称呼:単語

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