十六
〈助言略称格〔ヂヨゲンリヤクシヤウカク〕〉変化第一格(てにはをはぶくさだまり)
此格は前條に示したるしかたにて出来たる整言中の或る備言の助言を略(はぶ)きて言ふ事もあるよしを示すものにて、其の事は本書【『言語構造式』20/41参照】に『主格の〈が〉と奪格の〈を〉は略(はぶ)く。然るに与格の〈に〉は略(はぶ)く事なし。但し間格の〈に(丹)〉等は略(はぶ)く事あり』と註し置きたるにても知らるべき事にて、その語例をば〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕流〔なが〕す〈三〉〉〈水〔みづ〕舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉と挙げたるは、この註したる意を整言の他動格なる〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉とある中にて、その主格の〈が〉と奪格の〈を〉【原書は「を(傍線なし)」。脱と見て括弧を付す】とを略(はぶ)きたる二例を示せる也。然るにこれは主格と奪格と一つづきなる整言にてその一方の助言を略(はぶ)きたる例なるが、もし甚しく詞の迫りたるいひかたには、両方とも略(はぶ)きて〈水〔みづ〕舟〔ふね〕流〔なが〕す〈三〉〉とやうに言ひてもさしつかへ無き事もとよりなり。
さても已上の事は他動格をもてその例を示したるなれども、此の格には拘(かかは)らず、主格は整言の六品におしわたしてあるものなれば、いづれの格にても主格の〈が〉は略(はぶ)きて言はるる事にて、譬へば自動格にては〈舟〔ふね〕流〔なが〕る〈三〉〉といひ、他被動格にては〈舟〔ふね〕水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉といふ類なりと知るべし。然るに註に言ひ置ける如く、与格の(に)は決して略(はぶ)く事無きものなるはひとつの定格なるを、それとは違ひて間格の(に(丹))等は略(はぶ)く事あれど、それは又一格にて、集合助言・分別助言等にて受くる時にあるものなる事は、それぞれの処にて示すを見て知るべし。さてこれをば変化の第一格とす。
十七
〈備言転置格〔ビゲンテンチカク〕〉変化第二格(そなへごとをおきかふるさだまり)
此格は整言の備言を転置していふ事あるを示すものにて、整言中の備言の位置は既に示せる基格六品の如くなるが定格なるを、言ひつづけのさまによりては自在にその位置を換ふる事も出来るものにて、本書【『言語構造式』20/41参照】に〈舟〔ふね〕を水〔みづ〕が流〔なが〕す〈三〉〉〈水〔みづ〕に舟〔ふね〕が流〔なが〕さる〈三〉〉と挙げたるは、即ち〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉といふべきを、主格と奪格・与格との位置を換へたるを示せるなり。こは基格にていへば自動格には無くて他動格已下にあるものなれども、其等は簡短なる整言なれば、転置したる備言をもとの格にかへして見むとするも容易にして紛らはしき事も無きを、次條の間言格にてさまざまなる間格言をさしはさみていと長くなりたるを此の格になしたるものなどには甚だ紛らはしきがありて、もとの格にかへして見る事のやや難げなるもあるゆゑ、古歌・文章等にてそれをつとめてもとの格にかへしてみるも、初学にして語格を研究するの一助にはなるべし。さてこれを変化の第二格とす。
十八
〈間言格〔カンゲンカク〕〉変化第二格(はさみごとをつかふさだまり)
此格は基格の六品なる整言の中へ備言の処にていへる間格言の十六品と時日名言・数量名言・形容言の三品とをさしはさむ格なり。本書【『言語構造式』21/41参照】に挙げたる語例は基格整言六品の中なる自動格の主格と作用言との間へさしはさみたる例にて、即ち第一言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕を{第一言}流〔なが〕る〈三〉〉、第二言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕に(丹){第二言}流〔なが〕る〈三〉〉、第三助言及びその次言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕に(尓)/に(尓)て{第三言及次言}流〔なが〕る〈三〉〉、第四言及び其の次言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕に{尓}/へ{第四言及次言}流〔なが〕る〈三〉〉、第五言及びその次言をはさめるは〈舟〔ふね〕が橋〔はし〕に[尓]/と{第五言及次言}成〔な〕る〈三〉〉、第六言どもをはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕より/から{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉といふ二つをのみ挙げたれど、なほ其の外を挙ぐれば、〈田舟〔たぶね〕が河〔かは〕まで{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈雨水〔あまみづ〕が河〔かは〕ほど{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈舟〔ふね〕が河〔かは〕ゆゑ{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈大舟〔おほぶね〕が河〔かは〕すら{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈小舟〔こふね〕が河〔かは〕ばかり{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈海〔うみ〕の舟〔ふね〕が河〔かは〕ながら{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉の類なり。時日名言をはさめるは〈舟〔ふね〕が今日〔けふ〕{時日名言}流〔なが〕る〉、数量名言をはさめるは〈舟〔ふね〕が一〔ひと〕つ{数量名言}流〔なが〕る〈三〉〉、形容言をはさめるは〈舟〔ふね〕が又〔また〕{形容言}流〔なが〕る〉等の如し。爰(ここ)に挙げたる時日名言・数量名言・形容言の三つも、間格言の中にかぞふるものなるを知るべし。
さて已上に挙げたるものにてその間格言を略(はぶ)きていひ試みよ。いづれも基格の自動格なる整言になりて、間格言はもとさしはさみたるものなれば、略(はぶ)きてもその組織上に妨げ無くして、同じ備言にても基格備言とは性質の違へるものなる事を悟らるるなるべし。かくて此の間格言の置き処を示さば、基格備言と作用言との上に置くものにて、既に示したるものは皆作用言の上に置きたる例どもにて、備言と作用言との間へさしはさめるものなるを、もし是れを基格備言の上に置く例にする時は、即ち主格言の上へまはす事にて、たとへば〈河〔かは〕を{第一言}舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉〉〈河〔かは〕ほど{第六言}雨水〔あまみづ〕が流〔なが〕る〈三〉〉〈又〔また〕{形容言}舟〔ふね〕が流〔なが〕る〉といふ類にて、その整言が間格言をかむる事になるなり。さればこれを言ひ約(つづ)むれば、冠(かむ)ると挿(はさ)むとの二つなるが、その挿(はさ)むかたにてなほ示さむに、たとへば主格と奪格との間へはさみては〈水〔みづ〕が河下〔かはしも〕へ{第四言}舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉といひ、これを奪格と作用言との間へはさめば〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を河下〔かはしも〕へ{第四言}流〔なが〕す〈三〉〉と成り、主格と与格との間へはさみては〈舟〔ふね〕が河下〔かはしも〕へ{第四言}水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉となる類なれば、此の外は准(なぞら)へて知るべし。
又、間格言のつかひかたは、然(し)か基格整言の一箇処へ置くに限るものにはあらず。二言已上、幾言にても随意に置くべし。たとへば〈河〔かは〕ほど{第六言}雨水〔あまみづ〕が庭〔には〕に{第四言}流〔なが〕る〈三〉〉といひ〈雨〔あめ〕に(尓)て{第三次言}水〔みづ〕が河上〔かはかみ〕より{第六言}舟〔ふね〕を河下〔かはしも〕まで{第六言}流〔なが〕す〈三〉〉と言ふ類ひの如し。又、然(し)か幾言を置きても宜しきにつきては、爰(ここ)に挙げたる如く、先づ一つ冠(かむ)らせて次々一つあてさしはさむとやうに、必らず間配りて置かねばならぬといふにても無く、都合によりては〈雨〔あめ〕に(尓)て{第三次言}河上〔かはかみ〕より{第六言}河下〔かはしも〕まで{第六言}水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉といひ、又は〈雨〔あめ〕に(尓)て{第三次言}水〔みづ〕が舟〔ふね〕を河上〔かはかみ〕より{第六言}河下〔かはしも〕まで{第六言}流〔なが〕す〈三〉〉といひてもよきが如く、その言ひつづくるときのさまによりて間格言を或る一箇処へまとめても置き、又は或る一箇処に幾言かをまとめ置きて、其外なる一・二箇所へ一・二言置くなど、随意になして宜しきなりと知るべし。但し然(し)か随意にして宜しきなりとは言へども、此の間格言の置きやうと助言略称格なる助言の略(はぶ)きかたと備言転置格なる備言の置きかへさまとにて、歌なり文章なりの巧拙は定まるものなれば、よく注意してみだりにはなすべからざるものなるぞ。
さても変化格にて第一格よりこの第三格までは、ただ備言にて基格が変化するものなるを、次條よりはじめて整格助言といふものをつかひて成る変化格に説き至れる也と知るべし。
【補説】
ここから「変化格」についての説明が始まり、ここで谷は第一から第三の変化格を説明している。助言(助詞)を省略するのを助言略称格、文節の位置をかえるのを備言転置格、文節を挿入するのを間言格としている。


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