十九
〈間格第七言〔カンカクダイシチゲン〕〉変化第四格 及(つかひかた)
この間格第七言は、備言の間格第一言より第六言までを挙げたる処へ引き続けて出し置くべき事なるを、こは整言より成れるものにて、備言の処にある間格言どもとはなりたちの違ふものなれば、初学に其の事を心得さする為にわざと引放(ひきはな)ちて示せるなり。さるは備言の間格言は〈河〔かは〕を〉〈河上〔かはかみ〕より〉〈河下〔かはしも〕へ〉などの如く〈河〔かは〕〉〈河上〔かはかみ〕〉〈河下〔かはしも〕〉等の物名言を〈を〉〈より〉〈へ〉の類なる間格助言どもにて受けて成るものなるに、これは其等とは異にて、基格なるにも変化格なるにも拘(かか)はらず一つづきの整言にして、其作用言を切断活になしたるものを第七間格助言の〈と〉にて受けて成るものとす。これを本書【『言語構造式』23/41参照】には、基格にして簡短なる自動格より〈と〉と受けたるを取りて〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉と〉といふを挙げて其の例を示せり。かかれば此の外には他動格にても被使両動の四格にても、又それらがさまざまに変化したるものにても、皆その切断活なる作用言を〈と〉と受くればこの間格第七言に成るなりと知るべし。
さて此の格は、然(し)か作用言を切断活にして〈と〉とうくるが正格なれども、稀には続体活にしたるものを受くる事もあるから、それをば本書には〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るる〈五〉と〉とやうにも誌し置けるなりかし。然れどもこは正格にあらずして、其の実は略言より出たる変格なるなり。さるは第七間格助言を挙げたる所に、この〈と〉は整言の用言を切断したるものと続体活にしたるものとを受くるよしをいひて、又、物名言をもうくる事あるはもと略言格にて、それは其の物名言をまづ助用言なる第二畢言の〈なり〉に受けて、さてそれをば〈と〉にて受くべき処なるを、その〈なり〉を略言したるなりといひ置きたる【本書上巻60/133「第七間格助言」参照】は、たとへば〈舟〔ふね〕なり〈三〉と〉〈筏〔いかだ〕なり〈三〉と〉とやうに言へるはここの正格にて、即ち(なり〈三〉)と切断活を受けたるなり。然るにひとつの略言格にてその(なり)を略して言へば〈舟〔ふね〕と〉〈筏〔いかだ〕と〉とやうにいはれて、〈舟〔ふね〕〉〈筏〔いかだ〕〉等の物名言を直ちに〈と〉にて受くる事になるよしを示したる也。されば爰(ここ)の格にて〈と〉が続体活をうくる事あるも、又、その物名言を直ちに受くる例と同じ事にて、これも先づその続体活を(なり)と受けたるを〈と〉につづけて〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るる〈五〉なり〈三〉と〉といふべき処なるを、その(なり)を略したるから〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るる〈五〉と〉となりたる略言格なる事を知るべし。
さても備言の処にて間格言は第六言まであるよしを示し置きつるが、其外に又この第七間格言といふがあるにて、彼と是とは其のなりたちの違へるものなる事は爰(ここ)のはじめにもいひ、第七間格助言の処【本書上巻60/133「第七間格助言」参照】にもいひ置きたるにて知るべし。
ヌ
さて右の間格第七言のつかひかたは間言格と同じ事にて、なほ整言の基格の内へ挿(はさ)むより外なし。然れども其の整言にはすこしの違ひ無き事を得ざる事あり。さるはこの第七間格言は第六言までの如く簡短なるものにはあらで、整言よりなれるものにて、その趣意に聊(いささ)か入組(いりくみ)たる方ある故、それをさしはさむ基格もおのづから又すこし入組たるものを以てせざるを得ざるなり。その入組たりといふは別の事にてもなし、其の間格にすべきものが整言より成れるものなれば、それを挿(はさ)むべき基格のかたも、その備言どもの幾分かは整言よりなれるものを取りて、再び整言になしたるものをもてするなりかし。さて爰(ここ)に言へる整言より成る備言といふは、次條の続体格の処を見て知るべし。されば本書【『言語構造式』23/41参照】に出したる語例の〈乗〔の〕れる人〔ひと〕が{主格}岸〔きし〕の移〔うつ〕るを{奪格}見て舟〔ふね〕が流〔なが〕る/るると{間格第七言}と知〔し〕る〈三〉〉とある、主格の〈乗〔の〕れる人〔ひと〕が〉と奪格の〈岸〔きし〕の移〔うつ〕るを〉とは、即ち整言より成れる備言なる事を知るべし。此事は次條になほいふを見よ。
さて〈舟が流る/るる〉といふ整言を〈と〉と受けたるすこし入組たる間格第七言を挿(はさ)むには、その基格がさるさまに言へるものならではかなはぬ事なるは、然(し)かいへる全体の語意をよく味ひて知るべきなり。かかれば此の間格第七言をはさむべき基格は、既にいへる如く入組たるものをのみ取るよりして、大かたは他動格か或るは他被動格・他使動格かに限るやうにて、自動格に属するかたには先づなきが如し。然れども決して其の格なしとは言ひ居(す)ゑ難きやうにも思はるれば、よく考ふべき事なりかし。
【補説】
ここで谷は「間格第七言」の「と(今でいう引用の格助詞)」を説明している。他の間格助言と区別した理由として、谷は二つの特性を挙げている。一つは他の間格助言が体言を受けて備言を単純に作るのに対し、この間格第七言が整言(主述を備えた文)を受けて備言を作ること、もう一つはそうした間格第七言が文中にある時、文中の他の備言も整言を受けた備言となることである。
谷は上巻でこの「と」を整格助言に分類し、備格助言である他の間格助言と区別している。文への出し入れが自由であるという間格性即ち備格性と、文中の他の備格に影響を及ぼす整格性を併せ持つということである。

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