〈整言重畳格〉変化第六格(ととのへごとをかさぬるさだまり)

 本書【『言語構造式』25/41参照】には此の格を一條とたてずして、ただ相動格・反動格の末の処に『さて整言を如此(かくのごとく)かさぬるを重畳格といふ』と注し置きたるまでなりしを、爰(ここ)には其の事を挙ぐるなり。整言をかさぬる時は、其の上にあるものを〈前置言〔ゼンチゲン〕〉(まへにおくことば)といひ、その下にあるものを〈後置言〔コウチゲン〕〉(のちにおくことば)といひ、なほ幾つも重ぬる時はその間にあるものを〈間置言〔カンチゲン〕〉(あひだにおくことば)といふなり。然(し)かしてその前置言・間置言なる整言の作用言は切断活にせずして、活言断続格の処に言ひ置きたる続用活、即ち(二)にし、ただ後置言のみは常の整言の如くその作用言を切断活、即ち(三)にするものとす。又、然(し)かかさぬるにつきては皆同格の整言を重ぬるものにて、自動格ならば自動格のみをかさね、他動格ならば他動格のみをかさぬる類なりと知るべし。
 たとへば自動格を二つかさぬるは、〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕が下〔くだ〕る〈三〉{後置言}〉といひ、三つ重ぬるは〈河水〔かはみづ〕が増〔ま〕し〈二〉{前置言}舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉{間置言}筏〔いかだ〕が下〔くだ〕る〈三〉{後置言}〉といはんが如し。即ちはじめのは前置言の作用言を〈流〔なが〕れ〈二〉〉といひ、次のは前置言と間置言との作用言を〈増〔ま〕し〈二〉〉〈流〔なが〕れ〈二〉〉といへる、皆続用活にて、いづれも後置言の作用言を〈下〔くだ〕る〈三〉〉といふ切断活にしたるを見るべし。他動格をかさぬるも同じ事にて、それはたとへば〈谷水〔たにみづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕し〈二〉{前置言}河水〔かはみづ〕が筏〔いかだ〕を下〔くだ〕す〈三〉{後置言}〉といふ類なりと知るべし。此格はすべて語格の対を取りて言ふものなれば、爰(ここ)に出せるものの如く、前置言の主格なる体言を〈谷水〔たにみづ〕〉といふ連合言にとれるから、後置言の主格なる体言をも〈河水〔かはみづ〕〉といふ連合言にとれる等、よく注意して見るべきなり。
 されば対を取るに心すべき事はさまざまありて、一方に助言略称格を用ゐれば、又一方にも同じ処にこれを用ゐ、一方に備言転置格あれば、又一方にも同じ所に之れをあらしめ、間言格にて一方に或る間格言をさしはさめば、又一方にも同じ所に同じ格なる間格言をさしはさむなどは皆注意すべき事にて、たとへば〈谷水〔たにみづ〕岩間〔いはま〕に舟〔ふね〕を流〔なが〕し〈二〉{前置言}河水〔かはみづ〕岸辺〔きしべ〕に筏〔いかだ〕を下〔くだ〕す〈三〉{後置言}〉とやうにいへば、前後両置言ともに、主格には〈谷水〔たにみづ〕〉〈河水〔かはみづ〕〉とばかり言ひて、その助言なる〈が〉を略(はぶ)き、〈岩間〔いはま〕に〉〈岸辺〔きしべ〕に〉と同じ所に同じ格なる間格言を置く等の一例として、見るに足るべし。
 いますこし長く続けて言ふ事あるときに、備言転置格をおもしろく相対(むか)へていふなどは、よろしく准(なぞ)らへて知るべきなり。かかれば初学は右等の格に心をつけて、ゆめ其の対をな誤りそ。これを誤まるときは、甚だ拙く聞こゆる事なるを、これまでかかることども知らざるげにや、をりをりはいとかたはなるも見ゆれば、かくはことわり置くぞかし。但し此の格の事に限りていふにはあらねど、いはゆる上手のしわざには、格を破りて言へる跡もままあるを、それらは初学の見習ふべきものにはあらざるなりと知るべし。

廿一
〈続用格〔ゾクヨウカク〕〉変化第七格(うごきなへつづくさだまり)

 此の格は前條の重畳格に外ならぬものなれども、ただうち見たるさまには其れに二格ある故、それをば続用格なる直接格・間接格として示す事、左の如し。

 〈直接格〔チヨクセツカク〕〉(ただちにつづくさだまり)は、重畳格の如く整言の作用言を続用言にして、それを直ちに今一つ切断活にせる作用言へつづくるものにて、その語例は本書【『言語構造式』24/41参照】に出せる〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕る〈三〉〉といひ、〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕し〈二〉下〔くだ〕す〈三〉〉といへるものの如し。即ち其の〈流〔なが〕れ〈二〉〉〈流〔なが〕し〈二〉〉は続用活にして、〈下〔くだ〕る〈三〉〉〈下〔くだ〕す〈三〉〉は切断活なるを見るべし。又、此の格は然(し)か作用言が二言つづくに限れるにはあらず。そはたとへば爰(ここ)に〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕る〈三〉〉〈流〔なが〕し〈二〉下〔くだ〕す〈三〉〉といへるを、いま一つの作用言〈行〔ゆ〕く〉〈遣〔や〕る〉等へ続けんとおもはば、その〈下〔くだ〕る〈三〉〉〈下〔くだ〕す〈三〉〉の切断活なるを続用活にしてつづくれば、〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕り〈二〉行〔ゆ〕く〈三〉〉〈流〔なが〕し〈二〉下〔くだ〕し〈二〉遣〔や〕る〈三〉〉となるが如し。なほ四言五言を続くる事もあるべし。又、其の中へ助用言を交じへていへば五・六言にも成るは常の事にて、それはたとへば〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕り〈二〉行〔ゆ〕き〈二〉に〈二〉けり〈三〉〉とか、〈流〔なが〕し〈二〉て〈二〉下〔くだ〕し〈二〉遣〔や〕り〈二〉たり〈二〉けり〈三〉〉とかいふ時の〈に〈二〉〉〈て〈二〉〉〈たり〈二〉〉〈けり〈三〉〉は皆助用言なるが、作用言と合せて算(かぞ)ふれば、その五言六言つづきたる事を見るべきなり。第七間格言のさしはさみかたをいへる処にいひのこし置きたる〈見〔み〕て〈二〉知〔し〕る〈三〉【原書は〈二〉。誤記として訂正】〉も此の格にて、三言つづきたるものなるを知るべし【本書下巻37/155「続体格」参照。「第七間格言のさしはさみかたをいへる処」は誤り】。さてこれが前條の重畳格より出でたりといふ事は次條にて示すべし。

 〈間接格〔カンセツカク〕〉(へだててつづくさだまり)は、これは全く重畳格なれば、再びここに出すにも及ばざるが如し。即ち本書【『言語構造式』24/41参照】の語例に〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕が下〔くだ〕る〈三〉{後置言}〉、また〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕に流〔なが〕れられ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕に下〔くだ〕らる〈三〉〉と出したる、はじめのは既に重畳格に挙げたるもの也かし。さらばここに此の格を立つるにも及ばざるかといへば、然らず。前條の〈流〔なが〕れ下〔くだ〕る〉と直接する格に対して、爰(ここ)のは〈流〔なが〕れ〈二〉〉といふ続用活なる作用言より〈下〔くだ〕る〈三〉〉といふ作用言へつづける間に、〈筏〔いかだ〕が〉といへる備言をはさみて間接する格なる事を知らしむる為には、此の格を立てざるを得ざるなり。さて次のは〈流〔なが〕れられ〈二〉〉より〈下〔くだ〕らる〈三〉〉へつづける間に、〈筏〔いかだ〕に〉といへる備言をはさみたるなれば、これも爰(ここ)の格なる事もとよりなれども、重畳格と全く同じといふかたより見れば、〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕に流〔なが〕れられ〈二〉〉といふ前置言はよけれど、〈筏〔いかだ〕に下〔くだ〕らる〈三〉〉といふ後置言は主格無き不都合なるものなりと疑ふ人あるべし。実に然り。しかれども、こは主格言を略(はぶ)けるものにて、その実は〈水〔みづ〕が筏〔いかだ〕に下〔くだ〕らる〉といへる整言なるなり。然るにこれを其ままにて重ぬれば、前置言に〈水〔みづ〕が〉といふ主格言ありて、後置言にも又〈水〔みづ〕が〉といへる主格言ある事になるゆゑに、後置言のかたなるは略(はぶ)きて言はざるなり。すべて前後両置言にて同言のかさなる事あれば、主格には限らず奪格にても与格にても皆、後置言のかたをば略(はぶ)く例なりとしるべし。
 されば此の格よりして前條なる直接格は出来たりといふ事をここに示さん。たとへば〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉〉といひ、〈舟〔ふね〕が下〔くだ〕る〈三〉〉といふ二整言ありて、これを重畳格にせんには、ここにいへる例に随ひ、後置言となるべきかたは主格の〈舟〔ふね〕が〉を略(はぶ)きてかさぬるゆゑ、即ち〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕る〈三〉〉と成り、又〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉といひ、〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を下〔くだ〕す〈三〉〉といふ二整言を同例にして重ぬれば、後置言となるべきかたは主格も奪格も略(はぶ)かりて、〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕し下〔くだ〕す〉と成るべし。これにて直接格といへるは重畳格の略言よりなれるものなるを知るべきなり。かかれば直接格にて続用する作用言どもは重畳格の規則にしたがひ、自動言は自動言へのみつづき、他動言は他動言へのみ続く等の厳かなる事をしるべし。
 然るに被・使両動言に至りては、聊(いささ)か異なる事あり。さるは自被動言の例にて先づこれを示さんか。上に語例に挙げたる如く、間接格にては〈流〔なが〕れられ〈二〉〉とかかれば〈下〔くだ〕らる〈三〉〉と続きて、定格には違はざるも、これを直接格にするとき〈流〔なが〕れられ〈二〉下〔くだ〕らる〈三〉〉とやうには言はず。上に成る自被動言をばその原言なる自動言にして〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕らる〈三〉〉といふ例なり。此の例を推(お)して、他被動言にてする時も、上に成るはその原言なる他動言にして〈流〔なが〕し〈二〉下〔くだ〕さる〈三〉〉とやうにいふべきなり。又、自使動言・他使動言もこれに准(なぞら)ひ、〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕らす〈三〉〉〈流〔なが〕し〈二〉下〔くだ〕さす〈三〉〉など言ふべき事なるを心得置くべし。
 さても直接格の作用言どもは皆、その同類へのみつづくと言ひ置きたれど、作用言にはおのづから自動にも他動にもわたるべきがあり、又さらでも、其のいひざまによりては同類ならぬが続きたるもをりをりはある事なれど、それは又、時にあたりての変格なれば、さるものと見なして一概には泥(なづ)むべからざるなり。
 さても助用言の事を聊(いささ)か言へりしが、その助用言はそれを示せる処にいへるが如く、作用言の時をあらはすものにて、これには自他等の違ひを持たねば、作用言の何類に続用するも妨げ無きものと知るべし。

【補説】
 ここで谷は「整言重畳格(今でいう重文)」と「続用格(今でいう述語動詞が二つある文)」を説明している。谷は続用格は重畳格と同じであるとしながら、わざわざ用語を別にして区別した理由を次のように説明している。続用格には直接格と間接格の二種類があり、間接格が基本である。直接格は間接格を一部省略することで現れる。つまり「作用言」の「重畳」(今でいう述語動詞が複数連結される文)は続用格の間接格の「略格(今でいう省略形)」であるということを説明するために、用語を別に立てて概念を分ける必要があったと説明している。
 谷が文学的修辞である「対を取る(対句構文)」に触れているのは、「略格」による上の説明が対構造を前提としているからである。「略格」による変形は、被・使動言の場合には単語レベルにまで及ぶとしている。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・作用言:動詞
・切断活:終止形
・活言:活用語尾
・断続格:活用
・続用活:連用形
・体言:活用のない語
・助言:付属語
・助用言:助動詞

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