廿二
〈相動格〔サウドウカク〕〉変化第八格(ともにうごくさだまり)
此の格は重畳格中にこもりたる一格なるなり。さるは其の前置言と後置言との作用言が相動とて同じ方向に動く時にある事にて、然(し)かある時はその前後両置言なる備言中の或る同格のものか、又は作用言の直接に続用したるものかを集合していはねばならぬものなる故に、その同格備言、又は直接に続用したる作用言をば両所ともに集合助言の〈も〉に受けて成るものとす。然(し)かしてその〈も〉にて受くるしかたは、一には備言の主格言ならばその主格助言の〈が〉を略(はぶ)きて〈も〉にて受け、二にはもし奪格言・与格言、又は間格言どもならば、其のままに〈も〉にて受け、三には作用言の直接に続用したるものならば、その作用言の上言を〈も〉にて受くる事にて、此の時は〈も〉は続用したる作用言の間にはさむものと成るなりと知るべし。
此の語例を本書【『言語構造式』25/41参照】には、一には〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉といふを出し、二には〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕をも流〔なが〕し〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕をも流〔なが〕す〈三〉{後置言}〉といひ、〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕にも流〔なが〕され〈二〉{前置言}風〔かぜ〕にも流〔なが〕さる〈三〉{後置言}〉といふを出し、三には〈舟〔ふね〕が漕〔こ〕がれ〈二〉も行〔ゆ〕き〈二〉{前置言}流〔なが〕れ〈二〉も下〔くだ〕る〈三〉{後置言}〉と言ふを出したり。即ち一のは〈舟〔ふね〕が〉〈筏〔いかだ〕が〉といはねばならぬ〈が〉を略(はぶ)きて〈も〉と受けたるにて、二のは〈舟〔ふね〕を〉〈筏〔いかだ〕を〉といふ奪格言と〈水〔みづ〕に〉〈風〔かぜ〕に〉といふ与格言とをそのままに〈も〉とうけたるにて、間格言を受けたるは略して出さず、三のは〈漕〔こ〕がれ〈二〉行〔ゆ〕き〈二〉〉〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕る〈三〉〉といふ直接に続用したるものの上言、即ち〈漕〔こ〕がれ〈二〉〉〈流〔なが〕れ〈二〉〉を〈も〉と受けたるにて、それはやがて〈行〔ゆ〕き〈二〉〉〈下〔くだ〕る〈三〉〉へつづきたる間へはさめるものと成れるなり。
さて同じ方向に動くといへる相動の詞をば、一にては〈流〔なが〕れ〈二〉〉〈流〔なが〕る〈三〉〉とし、二にては〈流〔なが〕し〈二〉〉〈流〔なが〕す〈三〉〉、又〈流〔なが〕され〈二〉〉〈流〔なが〕さる〈三〉〉としたるを見て、然(し)か同言なるをのみ相動の詞なりとは思ふべからず。即ち三にては〈漕〔こ〕がれ〈二〉行〔ゆ〕き〈二〉〉〈流〔なが〕れ〈二〉下〔くだ〕る〈三〉〉といへるを相動としたる類にて、すべて同言ならずとも其語意のおのづから同じ方向に動くと聞(きこ)ゆる語を用ゐるときは、それが相動なるにて、なほいはばたとへば〈水〔みづ〕も流〔れ〕〈二〉{前置言}舟〔ふね〕も添〔そ〕ひ〈二〉{間置言}筏〔いかだ〕も随〔したが〕ふ〈三〉{後置言}〉とやうにいふとき、その〈流〔れ〕〈二〉〉〈添〔そ〕ひ〈二〉〉〈随〔したが〕ふ〉は相動の詞となるの類にて知るべし。又、此の格も既にいへる如く重畳格のうちなれば、ひとつの整言毎に集合助言の〈も〉をさへ入るれば、間置言をつかひていくつ重ぬるも自在なる事は、爰(ここ)に挙げたるものに准〔なぞ〕らへてしるべし。
カ
〈反動格〔ハンドウカク〕〉変化第九格(そむきてうごくさだまり)
此の格もまた重畳格中にこもる一格なる事、前條と同格にて、ただこれは其の前置言と後置言との作用言が、反動とて同じからぬ方向に動く時にある事にて、その外は皆前條と同じ定(さだま)りなれば、わづらはしく爰(ここ)には言はず。但し前條にては、その前後両言なる云々の処を集合すといひたるを、此の格にては分別していはねばならぬものなる故に、其等の処をば分別助言の〈は〉にて受けてなるものとす。然(し)かしてその受くるしかたにおきても、すこしも前條と異なる事なし。さればその語例を本書【『言語構造式』25/41参照】には、一には〈舟〔ふね〕は流〔なが〕れ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕は流〔なが〕れず〈三〉{後置言}〉といふを出し、二には〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕をば流〔なが〕し〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕をば流〔なが〕さず〈三〉{後置言}〉といひ、〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕には流〔なが〕され〈二〉{前置言}風〔かぜ〕には流〔なが〕されず〈三〉{後置言}〉といふを出し、三には〈舟〔ふね〕が漕〔こ〕がれ〈二〉は行〔ゆ〕き〈二〉【原書は「行〔ゆ〕き〈三〉」。誤記として訂正】{前置言}流〔なが〕れ〈二〉は下〔くだ〕らず〈三〉{後置言}〉といふを出したり。すべて〈は〉の受けかたは前條の〈も〉の受けかたと同じさまなれば、いちいちにはことわらず。但し二にて奪格を受くる〈は〉は、本書に『〈を〉より受くれば濁る』と注し置きたる如く、これは一種の音便なれば、必らず〈ば〉と濁りてよむものなるを知るべし【『言語構造式』25/41参照】。
さて同じからぬ方向に動くといへる反動の詞を用ゐるとて、その整言が前條のと同じかるよりして、爰(ここ)の格にはすべてその後置言のを助用言なる不言の〈ず〉にて受けたるものにして、
〈流〔なが〕れ〈二〉〉には〈流〔なが〕れず〈三〉〉といひ、〈流〔なが〕し〈二〉〉には〈流〔なが〕さず〈三〉〉といひ、〈流〔なが〕され〈二〉〉には〈流〔なが〕されず〈三〉【原書は「二」。誤記として訂正】〉といひ、〈漕〔こ〕がれ行〔ゆ〕き〈二〉〉には〈流〔なが〕れ下〔くだ〕らず〈三〉〉といひて、反動の詞としたるを見て、「反動といふはいつもさる同言にて、その一方をば不言にて受けたるものぞ」とは思ふべからず。又、或ひは訝(いぶ)かりいはん、「〈流〔なが〕れ〉と〈流〔なが〕れず〉と相対(む)かへては、その〈流〔なが〕れ〉のかたこそ動きにはあれ、〈流〔なが〕れず〉といへるかたは動かぬをいへるなれば、反動といはん事かなひ難し」など思はんは、いよいよわろし。爰(ここ)に相動・反動といひたるは、強(あなが)ちに象の動く事をいふには非ずして、いはゆる用言を(うごきな)と号(なづ)けたる意より出たるにて、ただ作用言をさしたるなり。されば〈流〔なが〕れず〉といひたるは、その不言にて受けたるにも拘はらず、即ち作用言なるから、それをばなほ動きとはいふなりかし。
さて然る同言の一方を不言にてうけたるものならで、実は反動言は作用言におのづから備はりて有るものにて、たとへば〈昇〔のぼ〕る〉に〈降〔くだ〕る〉、〈行〔ゆ〕く〉に〈帰〔かへ〕る〉、〈好〔す〕く〉に〈嫌〔きら〕ふ〉の類をはじめにて、なほさまざまある上に、かの形状言をもていへば、〈長〔なが〕し〉に〈短〔みじか〕し〉、〈強〔つよ〕し〉に〈弱〔よわ〕し〉、〈善〔よ〕し〉に〈悪〔あ〕し〉の類、これにはおほかた反動の対ならぬもの無きが如し。これらにて爰(ここ)の格をつくれば、たとへば〈月〔つき〕は昇〔のぼ〕り{前置言}日〔ひ〕は降〔くだ〕る{後置言}〉といひ、〈夜〔よ〕は長〔なが〕く{前置言}日〔ひ〕は短〔みじか〕し{後置言}〉と言へる類、皆反動格といふべきものなるを知るべし。
さて此の格も又、いくつ重ぬるも自在にして、それはたとへば〈水〔みづ〕は流〔なが〕れ舟〔ふね〕は漂〔ただよ〕ひ筏〔いかだ〕は止〔とど〕まる〉とやうにもいはれて、又その〈流〔なが〕れ〉〈漂〔ただよ〕ひ〉〈止〔とど〕まる〉は反動の詞となる類、全く前條の相動格と同じさまにて、ただ分別助言の〈は〉をつかへるのみが異なるを見るべきなり。かかれば〈は〉と〈も〉とは整言の上にうらうへなる違ひありて、いちじるき差別ある助体言【原書は「助用言」。誤記として訂正】なるを、あるいひなしにていと軽くつかひたるには、〈は〉としても〈も〉としても妨げ無きが如き処も稀にはあるなど、語格の上には甚だ奇妙なる出来事のあるものなれば、何につけかにつけ、よく注意して学ぶべき事なりかし。
さて前條と此條とは已上にいへる如く重畳格より出たるものなれば、〈も〉〈は〉を用ゐたる詞づかひには必らず前置言・後置言を備へたるか、なほ間置言をもつかひたるものかにて、〈も〉〈は〉共に二つ三つか、なほ重ぬれば四つも五つもあるべきものなるを、をりをり一つづきの詞にして〈は〉をただ一つ置きたるあり、一首の歌にして〈も〉をただ一つ置きたるありて、爰(ここ)にいへる規則に背きたるやうなるがあるを、初学或ひは怪しむなるべし。然れどもそは怪しむに足らざる也。さあるは言外にのこしたる詞ありて、其の残したる詞の中に〈も〉或ひは〈は〉ありて、現にいひあらはしあるものと相対したるなりと知るべし。此等の事を知らずして〈も〉〈は〉はただ何と無くつかふものと心得たらんには、いみじき非事も出来(いでく)べければ、よくよく注意すべし。
【補説】
ここで谷は「相動格(今でいう順接の重文)」と「反動格(今でいう逆接の重文)」を説明している。この両格はともに重畳格であり、「相動格」では集合助言(今でいう係助詞)の「も」、「反動格」では分別助言の「は」(今でいう係助詞)の「は」が使用されるとしている。
なお、「動」の語は単に「(前置言と後置言で対置される)動詞」を意味し、必ずしも「動的な象(事象)が対置されている」という意味ではないとしている。また、単独で「は」「も」が使用されている場合でもこの両格は成立しており、対置は言外にあるとしている。

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