〈相動第二格〉変化第十一格 〈相動第三格〉変化第十二格

 これは相動格に属するものにて、先づその第二格は集合助言の処にて第二助言(さへ)と挙げ置きたるものを以て、常の相動格にては後置言とするものにある〈も〉に換ふるなり。即ち本書【『言語構造式』26/41参照】に出したる語例の〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕さへ流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉といへるが如く、後置言は〈筏〔いかだ〕も〉とあるべき処を〈筏〔いかだ〕さへ〉と換へたるにて知るべし。
 此の格は然(し)か前置言の〈も〉はそのままに置きて、後置言の〈も〉をのみ換ふるものなるを、時として〈舟〔ふね〕さへ筏〔いかだ〕さへ流〔なが〕る〈三〉〉とやうにもいへるがあるを見て、「さはいかなるいひかたにか」と思ひ惑ふ人もあるべし。これを言ひあかすには、もとの相動格にひとつのいひかたあるより言はざるべからず。さるは常の相動格にて〈水〔みづ〕も流〔なが〕れ〈二〉{前置言}舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈二〉{間置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉といふとき、その前置言はもとのままに置き、間置言と後置言とはその作用言が同じき故に、間置言の〈流〔なが〕れ〈二〉〉といふかたを略(はぶ)きていへば、〈水〔みづ〕も流〔なが〕れ〈二〉{前置言}舟〔ふね〕も筏〔いかだ〕も流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉とやうに、後置言のかたは間置言を畳み込みたるものと成るを爰(ここ)の格にすれば、先づ〈水〔みづ〕も流〔なが〕れ〈二〉{前置言}舟〔ふね〕さへ筏〔いかだ〕さへ流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉といふつづきとなるべし。此の時その前置言は略(はぶ)きても聞(きこ)ゆるやうなる場合にて、上件のいひざまは出来たるなりと知るべし。
 さてもこの〈さへ〉といふ詞が普通なるよりして〈そへ〉となり、それが〈そふ〉〈そふる〉〈そふれ〉〈そへよ〉ともなりて、波行下二段活なる作用言は出来たりとおもはれて、万葉集には〈さへ〉の詞に「副」の字をあてたり。さるは此の詞は集合助言に属するものにて、物を添へ加ふる意ある故なるべし。
 さて又、第三格はこれも集合助言の処に第三言(だに)と挙げ置きたるものを以て〈も〉に換ふる事、第二格の如し。然るにこれは助体言の処にて一名を「不格助言(ずのあつかひにするてには)」ともいふよしを示し置きたるものなり【本書上巻57/133「集合助言」参照】。又、さあるにつきては本書【『言語構造式』26/41参照】にて此の第三格を挙げたる所の傍に『不言相動格とも言ふ』と注し置きたるわけを示すべし。相動格は既にいへる如く、前置言の作用言と後置言の作用言とが相動する格なるを、その一方の作用言を世俗に「打消し詞」ともいへる不言にて受くれば、もと同じ意の動きにてありしものがうち消されてうらうへなる意となる故、それを反動格のうちのひとつとするよしも既にいへり。然るにそれは作用言の一方を不言にてうち消すから然(し)か成るものなるを、爰(ここ)に「前後両置言の作用言ともに不言にて扱はばいかに」といふに、然(し)かすれば相動にてありし両作用言が相供(あひとも)にもとの意をうち消されて、然(し)かうち消されたる上にての同じ意なる動(うごき)となる故、これを不言相動格とはいふなりかし。然(し)かして此のとき第二格と同様なるしかたにて、その後置言とするものにある〈も〉に換ふるに(だに)を以てしたるが、本書に出せる語例の〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れず〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕だに流〔なが〕れず〈三〉{後置言}〉といへる如く、後置言は〈筏〔も〕〉とあるべき処を〈筏〔いかだ〕だに〉と換へたるものなりと知るべし。かかれば〈だに〉をつかへるいひつづけは、その前後に不言の扱ひある時に限るものなるを、さは見えぬさまなるが折々あるは、不言の扱ひある詞が必らず言外にこもりてあるものなり。さもなくて此の格に背きたるは、たとへそれがいにしへの名高き人のいひたるにもせよ、そは誤りなる事を知るべし。
 又、不言にたとひては、形状言の〈無〔な〕し〉といふ詞もおほかた同じ意なれば、それにて言ひたるも同格なり。さるはたとへば〈舟〔ふね〕も無〔な〕く〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕だに無〔な〕し〈三〉{後置言}〉といふ類なるなり。かくいひもてゆけば、作用言を〈難〔かた〕し〉と受けたるも又同じさまにて、さるはたとへば〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れ難〔がた〕く〈二〉筏〔いかだ〕だに流〔なが〕れ難〔がた〕し〈三〉〉といへる類なるなり。かかるは〈無〔な〕し〉も〈難〔かた〕し〉も不言に似て、そのことがらをうち消す詞なる故なりと知るべし。
 さても然(し)か前後両置言中なる或る備言を〈も〉と〈だに〉にて受けわくるにつきて、その意味を委しくいへば、〈も〉にて受くるかたは其の場合に有る事の難き意味あるものにて、〈だに〉にて受くるかたは、その場合に有る事の易き意味あるものなりといふ事に注意すべし。さるはたとへば舟をありがたきものとし、筏を有り易きものとして、其の有り難き舟の無きはもとよりにて、有り易き筏も無しといふ意にて〈舟〔ふね〕も無〔な〕く〈二〉筏〔いかだ〕だに無〔な〕し〈三〉〉とはいふなり。
 第二格はこれとはかへさまになりて、舟のかたを有り易きものとし、筏のかたを有りがたきものとして、そのあり易き舟の有るはもとよりにて、有り難き筏もありといふ意にて〈舟〔ふね〕も有〔あ〕り〈二〉筏〔いかだ〕さへ有〔あ〕り〈三〉〉とやうには言ふなりかし。これ〈有〔あ〕り〉と〈無〔な〕し〉とはうらうへなる違ひあるよりして、かく反対の意味には成るなりと知るべし。
 爰(ここ)にまた有り難きものが思ひの外にある時は、それを有りとは言ひながらも無かるべきものなるにといふ意を含ませて〈有〔あ〕るものを〉といへるあり。さてさる詞づかひある時には、反動格にして〈だに〉をつかふ事あり。それはたとへば〈無〔な〕かるべき筏〔いかだ〕は有〔あ〕り〈二〉有〔あ〕るべき舟〔ふね〕は無〔な〕し〈三〉〉とやうに言へば、〈筏〔いかだ〕は〉〈舟〔ふね〕は〉といひ〈有〔あ〕り〈二〉〈無〔な〕し〈三〉〉といへるにて、反動格なる事はいちじるきを、その意より取りて、〈有〔あ〕り〉と〈有〔あ〕るべき〉とを相対(むか)はせ、〈無〔な〕かるべき〉と〈無〔な〕し〉とを相対(むか)はせて見る時は、おのづから相動せる意もこもりてあるゆゑ、さるかたにひき直す特別なる例にて、〈筏〔いかだ〕は〉の〈は〉を〈だに〉に換へ、〈有〔あ〕り〉を〈有〔あ〕るものを〉とし、〈無〔な〕かるべき〉〈有〔あ〕るべき〉は意味をのみ含みたる詞なるゆゑ之れを略(はぶ)き、〈筏〔いかだ〕だに有〔あ〕るものを舟〔ふね〕は無〔な〕し〉といへば、然(し)か略言したるにも拘はらず、はじめに言ひたるものとすこしも変りなく聞こゆる妙用はあるなりかし。かかれば〈ものを〉といひ或ひはその意にて〈を〉といひたるには、反動格にて〈だに〉をつかふ例もある事なるを知るべし。
 又、これとは少し違ひて反動将然格の処にて示すべき〈舟〔ふね〕は無〔な〕く〈二〉とも筏〔いかだ〕は有〔あ〕らん〈三〉【原書は〈二〉。誤記として訂正】〉とやうにいふ時の〈有〔あ〕らん〈三〉〉は、〈無〔な〕からじ〈三〉〉といひてもよき処なり。然(し)かいひても妨げなしとすれば、〈有〔あ〕らん〈三〉〉〈無〔な〕からじ〈三〉〉は同意なるべく、さてはそれを〈無〔な〕く〈二〉〉〈無〔な〕からじ〈三〉〉と相対して見ればなほ反動格にてはあれど、その詞はおのづから相動するかたにも通ふべし。又、然らずとも〈有〔あ〕らん〉といふはいまだそのものはあらぬ処にていふ詞づかひなれば、いづれにしてもおのづから相動する意はこもるべし。さてその後置言なる〈有〔あ〕らん〉は、然(し)かいまだそのもののあらぬ処にていふ詞なれば、これを転じては、又、同じくいまだそのもののあらぬ処にていふ希求活、即ち(七)に【原書に「に」はない。脱として補う】換へてもいふべし。それは〈舟〔ふね〕は無〔な〕く〈二〉とも筏〔いかだ〕は有〔あ〕れ〈七〉〉といはむが如し。
 さてここに於きて又、かの特別なる例を用ゐて〈筏〔いかだ〕は〉の〈は〉を〈だに〉に換ふれば、〈舟〔ふね〕は無〔な〕く〈二〉とも筏〔いかだ〕だに有〔あ〕れ〈七〉〉と成りて、これもまた反動格にて〈だに〉をつかふ一例なるなり。但しこれは、然(し)か希求活にするのみには限らず、願望助言の類にてするも同じ事にて、たとへば〈筏〔いかだ〕だに有〔あ〕らなん〉〈筏〔いかだ〕だに有〔あ〕らばや〉などともいはるる事なるを知り置くべし。
 已上に示せる〈さへ〉〈だに〉のわかちは、むかしより歌よみたちのいとむづかしきものにせらるる詞どもなれば、くりかへし読み味ひてよく覚え置くべし。

〈反動第二格〉変化第十三格

 これは反動格に属して、そのしかたは相動第二格にて常の相動格の後置言なる〈も〉を〈さへ〉と換ふると同じ理にて、これは常の反動格の後置言なる〈は〉を分別助言の処にて第二言(のみ)と挙げたるものに換ふるなり。語例は本書【『言語構造式』26/41参照】に出したる〈舟〔ふね〕は流〔なが〕れ〈二〉{前置言}筏〔いかだ〕のみ流〔なが〕れず〈三〉{後置言}〉とある如くにて、後置言は〈筏〔いかだ〕は〉とあるべき処なるを〈筏〔いかだ〕のみ〉と換へたるにて知るべし。此の格はここにいへる如く、〈は〉を〈のみ〉に換ふるまでにて、外にいりくみたるしかたも無ければ、別にことわるべき事もなし。
 但しその語意につきて考ふるに、形容言のうちにかぞふべき〈みな〉といふ詞ありて、これを今世は物名言の上につけて、たとへば〈みな人〔ひと〕の〉とやうにいふを、やや古(いにし)へはかへさまにて〈人〔ひと〕みなの〉とやうにのみいへり。仍(より)て按ずるに、この〈みな〉は〈み〉の下に奈行第一音の〈な〉を置きたるなり。然るにここにいふ〈のみ〉は、〈み〉の上に奈行第五音の〈の〉を置きたるなり。さればこれをくらべて見るに、〈み〉を主にして奈行の第一音と第五音とを上下に置きてなれるより思へば、〈のみ〉と〈みな〉とは反対したる詞にて、〈みな〉は集合していひ〈のみ〉は分別していふものにて、〈ひとみな〉といへるは〈われのみ〉といふに対したるなるべし。こはこの二言のなりたちにつきて考へたるにて、試みにいふなり。なほよく考ふべし。
 さて已上に示す処の相反両動格の助言どもは、然(し)かいちじるき差別あるものなるを、是までの諸書には〈も〉〈は〉を主格助言の〈が〉にたぐへるものとし、〈さへ〉〈だに〉〈のみ〉を間格第六助言の〈より〉〈まで〉〈から〉〈ほど〉〈ゆゑ〉などにたぐへるものとしたるは、いと麁漏(そろう)なりといふべし。但し間格第六助言のうちなる〈すら〉をば〈さへ〉〈だに〉〈すら〉とならべていへるもあれど、くはしくいへば〈さへ〉〈だに〉と〈すら〉とはおのづから違ひあるものなることは別にいふべし。

【補説】
 ここで谷は「相動第二格」「同第三格」「反動第二格」として、集合助言(今でいう副助詞)の「さへ」「だに」「のみ」を使った表現を扱っている。但し「だに」は不格助言(今でいう打消を含意する助詞)でもあることから、反動格(今でいう逆接の重文)の用法もあることを実例とともに詳説している。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・助言:付属語
・作用言:動詞
・助体言:助詞
・不言:打消(系)の助動詞
・形状言:形容詞
・反動将然格:逆接仮定条件
・希求活:命令形
・形容言:副詞・感動詞など
・物名言:名詞

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