廿三
〈相動将然格〔サウドウシヤウゼンカク〕〉変化第十四格(ともにうごく、まさにしからんとするさだまり)
〈反動将然格〔ハンドウシヤウゼンカク〕〉変化第十五格(そむきてうごく、まさにしからんとするさだまり)
この将然の両格と次の已然の両格とは、既に示せる相反両動格の前置言の作用言を一種の助言にて受けて、将然格は後置言の作用言を未然格になし、已然格は後置言の作用言をそのままになし置くものなること、次々に示すが如し。
レ
相動将然格は相動格の前置言なる作用言を助体言の処に挙げ置きたる相動将格助言の(ば)にて受け、後置言なる作用言を助用言なる将言の〈ん〉にて受けて成るものとす。さて相動将格助言の〈ば〉にて受くる作用言は、その断続格をいへる所にて示し置きつる続用第二活【原書は「第一活」。誤記として訂正】、即ち(一)より受くるなり。この受けかたと、次の反動将格助言なる(とも)の受けかたとは一種特別なるわけあるものなりと、まづ心にとめおくべし。又、将言の〈ん〉にて受くる作用言も続用第二活(一)なれど、こは助用言第一格のしかたにして、定例なれば仔細もなし。されば已上にいへるしかたによりたるが、本書【『言語構造式』26/41参照】の例に挙げたる〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈一〉ば{前置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉{後置言}〉といふ言ひかたなりと知るべし。
然るにこの語例につきては見る人の訝(いぶか)るべき事のあるならん。さるは「此の格は相動格の前置言を〈ば〉と受け後置言を〈ん〉と受けて成るといひたる、それにはかなひたれど、いま語例に挙げたるものを見るに、前置言の主格は「舟〔ふね〕が」といひ、後置言の主格は「筏〔いかだ〕も」といひてあるは、相動格の例に違へるにあらずや」といはんか。実に然り。しかれどもこは変例のかたを挙げたるなり。此の格をはじめにて、次の反動将然格も、又、相反両格の已然格も、前置言を一種の助言にて受くるが定例なるにつきては、その助言どもはいといちじるきものなれば、そのいちじるきにうちまかせて、前置言は〈も〉或ひは〈は〉を置かざるも、その相動たり反動たるの意はたしかに聞こゆるゆゑに、おのづから然(し)かいはるる事あるにて、これひとつの変例なるなり。されば正しくいはんには、〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈一〉ば{前置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉{後置言}〉といふべきこと、もとよりなりと知るべし。然れども変例のかたが聞きよきもの多ければ、その聞きよきを取りて語例にはそれを挙げたるなり。反動将然格も相反両動の已然格もみな同じおもむきにて語例を挙げたるなれば、その意にて見るべし。
ソ
反動将然格は反動格の前置言なる作用言を助体言の処に挙げ置きたる反動将格助言の(とも)にて受け、後置言なる作用言を助用言なる第二不言の〈じ〉にて受けてなるものとす。さて反動将格助言の〈とも〉にて受くる作用言は、これもその断続格をいへる処にて示し置きつる続用第三活【原書では「第三格」。誤記として訂正】、即ち(四)より受くる事にて、これ前條にいへる一種特別なるものなるなり。又、第二不言の〈じ〉にて受くる作用言は続用第二活(一)にて、こは助用言第一格の定例なれば、また仔細もなし。かくてこれも已上にいへるしかたによりたるが、本書【『言語構造式』26/41参照】の語例に挙げたる〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈四〉とも{前置言}筏〔いかだ〕は流〔なが〕れ〈一〉じ〈三〉{後置言}〉といふ言ひかたなりとしるべし。
又、本書の此の格の処に註して『此〈とも〉を略称して〈と〉とばかりも言ふ』といひ置きしは、反動将格助言の〈とも〉の〈も〉を略(はぶ)きて〈と〉とする事にて、この略言をつかひたる例を示さば、たとへば前の語例をとりも直さず〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈四〉と{前置言}筏〔いかだ〕は流〔なが〕れ〈一〉じ〈三〉{後置言}〉ともいはるる事なるなり。然れどもこはふとは聞きにくきやうなる詞づかひなるから、常に多くはつかはざれども、古歌などにもその例ある事なりとしるべし。
さて爰(ここ)に前條の〈ば〉と此の條の〈とも〉とが作用言をうくるさまの一種特別なるよしを示し置かん。作用言の続用活(二)はあらゆる作用言へ続き、続用第二活(一)と続用第三活(四)とは或る助用言へつづくといへる事は、それぞれの所にことわり置きたるが如し。されば(一)なるにも(二)(四)なるにも拘(かか)はらず、続用活といへる名目なる活言なるからに、用言類へ続くものなる事は、人みな会得したるなるべし。然るにいま(一)と(四)とにして、助体言とて体言の部類中に挙げたる〈ば〉〈とも〉へつづけるは、これを一種特別なりといはざるを得ざるにあらずや。仍(より)て倩(つらつら)按ずるに、この〈ば〉〈とも〉のなりたちは、分別助言の〈は〉が変じて〈ば〉となり、集合助言の〈も〉が変じて〈とも〉となれるならんとは考へなりぬ。
まづ〈ば〉のかたより解き起してん。たとへば〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉には{前置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉{後置言}〉とは、いはるべき詞つづきなり。爰(ここ)におきて、いかにしてしかいはるるぞといふ事を研究せざるべからず。按(おも)ふに〈舟〔ふね〕も筏〔いかだ〕も〉といひ、前後に〈流〔なが〕れん〉といへるは相動格なり。さるうちにして、〈には〉とある反動格の〈は〉を置くべきの理なし。仍(より)てよくよくおもひみれば、こは今ひとつ〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈一〉ざらん〈五〉には{前置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕れ〈一〉ざらん〈三〉{後置言}〉といひて、前置言にも後置言にも、〈流〔なが〕れざらん〉と言へる不言をあつかひたる作用言をむかへて、〈舟〔ふね〕も筏〔いかだ〕も〉といふ相動格のうちに〈には〉と反動格の〈は〉を置き、さてこの一つづきを後置言とし、まへの一つづきを前置言とすれば、〈流〔なが〕れ〈一〉ん〉といひ〈流〔なが〕れ〈一〉ざらん〉といへるにて反動格になり、はじめて前後の〈には〉が用をなすものには成るなりけり。さればこの反動格は大対にして、その大対中に相動格の小対を二対たもてるものなる事をしるべし。かくてその大対なる反動格の前置言なるものには、〈んには〉といへるつづきあり。このつづきなる〈んに〉を略(はぶ)きて唱ふれば、その余韻が〈は〉へうつりて濁音となりて〈ば〉と唱へらる、この〈ば〉が即ち相動将格助言なるなり。かかればこの〈ば〉が作用言の(一)を受くるをあやしむには及ばざるべく、さは(一)をうくべき〈ん〉を略(はぶ)きて成りたるものなればなり。
さてもかく分解してそのもとをただして見れば、相動将然格といふものは、其の助言の〈ば〉が〈んには〉の略言なるはさらにて、それにむかへてから、うへにいふ処の後置言を略したるものにて、いはゆる大対とするものの半体なる事をしるべし。
又、〈とも〉のかたを解かんに、これもおほかた同じさまにて、まづ大対の前置言に〈舟〔ふね〕は流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉とも{前置言}筏〔いかだ〕は流〔なが〕れ〈一〉ざらん〈三〉{後置言}〉といひ置きて、その大対の後置言には〈舟〔ふね〕〉と〈筏〔いかだ〕〉との位置を換へて〈筏〔いかだ〕は流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉とも{前置言}舟〔ふね〕は流〔なが〕れ〈一〉ざらん〈三〉{後置言}〉といへば、その小対は、舟と筏とが前置言にては〈流〔なが〕れ〈一〉んとも〉と相むかひ、後置言にては〈流〔なが〕れ〈一〉ざらん〉と相対(むか)ひて相動格になり、はじめて前後に〈とも〉とある〈も〉が用をなすものには成るべし。さればこの大対の半体なる前置言が反動将然格なる事は、相動将然格に准(なぞ)らへて知るべし。
さて作用言の(一)より〈ん〉とつづきたるを〈と〉とうくるもの、即ち〈流〔なが〕れ〈一〉ん〈三〉と〉とやうにいふを転(うつ)して、作用言の(四)を直ちに〈と〉と受くるもの、即ち〈流〔なが〕る〈四〉と〉と換へていふは語格中の一例なれば、此例によるを反動将然格の定法とはしたるなり。これにて又、作用言の(四)を〈とも〉にて受くる事も怪しむべからざるわけなるを知るべし。
又、第三不言の(一)なる〈ざら〉を将言の〈ん〉にて受けたる〈ざらん〉は、第二不言の〈じ〉と全く同意の詞と聞(きこ)ゆるからに、〈じ〉は〈ざらん〉の約(つづま)りなりといふ説さへありて、それも悪しからじと思はるるは、〈ん〉も(二・三・五)を兼ね、〈じ〉もまた(二・三・五)を兼ぬること、助用言の所に出し置きつる如くなるにて然(し)か思ふなり。ただし〈ざらん〉を約(つづ)むれば〈ず〉となれども、同音に通はして〈じ〉とはせるなりとぞ。此説の当否はしばらく置き、已上の二件の旨をとりて本書【『言語構造式』26/41参照】の語例には挙げたるなり。ここにはじめより〈じ〉を用ゐず、〈ざらん〉にて示したるは、相動する例と反動する例とを示すにつきて、同じ〈ん〉をむかへて見するに便りよければなりと知るべし。
さても爰(ここ)に大対といひたるものの意よりして考ふれば、相動将然格は、甲が或る動きを示さば乙もまたそれにならへる動きをなさん、もし甲がその動きをなさざらば乙もまたそれにならへる動きをなさざらんといふ意味ありて、動くも動かざるも双方ともに【原書は「とにに」。誤記として訂正】する時にいひ、反動将然格は、甲が或る動きをなすとも乙はそれにならへる動きをなさじ、さればもし乙がある動きをなすとも甲はそれにならへる動きをなさじといふ意味ありて、動くと動かざるとにて双方ともにせざるときにいふものなりとは知られぬ。その半体にて然(し)か聞(きこ)ゆるは、ただつかひたる助言の妙用によるものなりとしるべし。
さて此の両格につきて今ひとつの心得を示し置くべし。作用言にしていまだ助用言のたすけを得ざるものは、みな現在の意をもてりとは、作用言の処にて示し置きたるが如し【正しくは「十二 助用言」の冒頭。本書上巻104/133「助用言」参照】。然るにその現在なる作用言をここの〈ば〉〈とも〉にて受くれば、翻〈ひるがへ〉りて将然となるは、此の両格のもちまへなり。さるはたとへば〈咲〔さ〕く〉といふ現在を〈咲〔さ〕かば〉〈咲〔さ〕くとも〉といへば将然と成るが如し。かくて助用言の不言も又、現在を将然にするものなるは、〈咲〔さ〕く〉の現在を〈咲〔さ〕かず〉といへば将然に成るにて知るべし。この二事をたとへていはば、現在は表にして将然は裏の如し。仍(より)て〈ば〉〈とも〉、表を裏にかへすの助言とすべし。然るに又別に、表を裏にかへす助言なる不言ありて、一たびかへしたるものを再び〈ば〉〈とも〉にて受くれば、ひとたびかへして裏の出たるものが、又かへされてもとの表の出るわけにて、不言にて受けたるものを又〈ば〉〈とも〉にて受くれば、その事は必らず現在にあるなりと知るべし。此の事をなほくはしくいはば、たとへば〈咲〔さ〕かば〉〈咲〔さ〕くとも〉といへば将然なる事もとよりなるを、〈咲〔さ〕かずば〉〈咲〔さ〕かずとも〉といへば現在なるなり。されば現在に咲きてある処にて〈咲〔さ〕かずば〉といひ〈咲〔さ〕かずとも〉といひ、将然にいまだ咲かざる所にて〈咲〔さ〕かば〉といひ〈咲〔さ〕くとも〉といふなり。此のさかひ、いと紛らはしければ、表裏のうちかへしを再びするといふ処に、よくこころをつけて会得すべし。
又、不言の「ず」にたぐひては、形状言の〈無〔な〕く〉といふも、其の意の相通ふゆゑに、〈無〔な〕くば〉〈無〔な〕くとも〉といふ詞づかひも〈ずば〉〈ずとも〉と同意なれば、その事の現在、即ち(無〔な〕し)の反対なる(有〔あ〕る)うへにていふもの也と知るべし。
【補説】
ここで谷は「相動将然格(今でいう順接仮定条件の構文)」「反動将然格(今でいう(今でいう逆接仮定条件の構文)の構文)」を説明している。考察の過半は接続について、続用第二活(未然形)や続用第三活(終止形)に助体言(助詞)である「ば」「とも」が接続する理由の考察にあてられており、谷はそれを対構造と助用言(助動詞)の略言(省略)によるとしている。

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