廿四
〈相動已然格〔サウドウイゼンカク〕〉変化第十六格(ともにうごく、すでにしかるさだまり)
〈反動已然格〔ハンドウイゼンカク〕〉変化第十七格(そむきてうごく、すでにしかるさだまり)
この両格のおほかたの事は前條に合せていひ置けるが如し。
ツ
相動已然格は相動格の前置言なる作用言を助体言の処に挙げ置きたる相動已格助言の(ば)にて受け、後置言なる作用言はそのままに置くものなりとす。さて爰(ここ)にいふ相動已格助言の〈ば〉と、次條なる反動已格助言の〈ども〉にて受くる作用言は、その断続格をいへる処にて示し置きつる続体第二活、即ち(六)より受くるなり。此の〈ば〉〈ども〉の受けかたもまた一種特別なりといふべし。然れどもこは前條なる〈ば〉〈とも〉の受けかたの如く、困難なる解釈をなすに及ばず。さるはここの〈ば〉〈ども〉は助体言中に出す所にして、いはゆる助言にして体言なるものなり。さて然(し)か体言なるからに、常の続体活(五)より受くべきを、ただすこし異さまにて続体第二活(六)より受くるまでの違ひにて、その続体といへる名義には背かざるなり。さればこの続体第二活、即ち(六)といふは、爰(ここ)の〈ば〉〈ども〉なる二言へつづくる為に設けたるものにして、しかも、続用第二活として別音あるは四段活と変格活とに限る類にはあらで、作用言・助用言・形状言ともにおしわたして、いと厳重に備へたるものなる事をしるべし。
さて已上にいへるかたによりて、本書【『言語構造式』27/41参照】に挙げたる語例の〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るれ〈六〉ば{前置言}筏〔いかだ〕も流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉といふは出来たるなり。これにて後置言の作用言は将然格とは違ひて、もとの相動格のままなることをしるべし。
ネ【原書は「ツ」。誤記として訂正】
反動已然格は反動格の前置言なる作用言を助体言の処に挙げ置きたる反動已格助言の(ども)にて受け、後置言の作用言はそのままに置くものなりとす。さて〈ども〉の受けかたは前條にいへる如くしてなりたるが、本書【『言語構造式』27/41参照】に挙げたる語例の〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るれ〈六〉ども{前置言}筏〔いかだ〕は流〔なが〕れず〈三〉{後置言}〉といふいひかたなりと知るべし。後置言の作用言を不言にて受くる処も、将然格とは違ひてもとの反動格のままなるは、これまた前條と同じことなるなり。又、本書なる爰(ここ)の註に『此〈ども〉を略称して〈ど〉といひ、なほそれをも略して助言無しにする事もあり』といひ置けるを見よ。さるは先づ〈ども〉を〈ど〉と略していふは、語例に出したるままの詞にて〈舟〈ふね〉が流〈なが〉るれ〈六〉ど{前置言}筏〈いかだ〉は流〈なが〉れず〈三〉{後置言}〉といひ、またそれをも略していふは、〈舟〈ふね〉が流〈なが〉るれ〈六〉{前置言}筏〈いかだ〉は流〈なが〉れず〈三〉{後置言}〉と助言なしにいふ類なりとす。この両様の略格にして、〈ど〉とするかたは常にいへる事なれど、助言なしにするかたは常にいはざれば、聞きつかぬここちすべけれども、これもたしかにある格なるなり。この格にてただひとつつかひ馴れたるは、「さはいへ〈六〉ども」といふべきを「さはいへ〈六〉ど」とするはことも無きを、ここにいふ助言なしにして「さはいへ〈六〉」とのみいへるがをりをりあり。これ、然(し)かいひて〈ども〉を略したるものなること、その文詞の意を味ひ見るべし。此の助言無しの一格よりして〈こそ〉といふ詞づかひの出来たる事は、その所にいふを見て知るべし。
かくてこの已然の両格も、助言の〈ば〉〈ども〉より出たるものなるべく、将然格の処にていへると同じさまにて、反動格の小対をかさねたる大対の半体なるべし。然れども〈ば〉〈ども〉が作用言を受くるさまは、将然格の如く略言なりとも見えざれば、こは略言にてはなく、続体活を転音せるならむと思はる。さるは用言の三品をおしわたしてある続体第二活、即ち(六)は、みな五十連音中の第三音を続体活、即ち(五)にしたるものを、其の行の第四音に転じたるものなればなり。ただし助用言の第二将言と去言とは、(五)が〈まし〉と〈し〉とにて、第三音にあらざるゆゑ、転音せずして補言の〈か〉を加へて、(六)を〈ましか〉〈しか〉とはせるなるべし。
廿五
〈希求格〔キキウカク〕〉変化第十八格(こひもとむるさだまり) 〈第二格〉変化第十九格 〈第三格〉変化第廿格
希求格は整言の変化中にてもいちじるき変化にして、此格にすれば整言は其性質をかへて、いと異なるものに成るなり。その異なるよしを言はんに、ただおほらかに言語といへば、此の書にて構造品に准(なぞ)らへたる、物名言を助言に受けて作用言にてとぢめたるもの、即ち整言をさせるなり。然るにくはしくいふときは、然(し)かしたてたるものを二品にわかつべくして、其の一を文言といひ、其の二を口語といふ。文言は常の整言にして、口語は即ちここにいへる希求格の類なり。されば文言といふは、その事文をなして義理のととのひたる所謂なり。然るに口語といふは、全く人の口に唱ふるの語にして、ひとくさ異なるものなりとす。かかればこの異なるもの、即ちここにいふ希求格等を文章中へ書き入るるには、これを間格第七言にせざるべからざるは、文法の定則なるを知るべし。
さて又、此口語に属するものは、整言の変化中にても次々示さんとする加勢格・感慨格・願望格・決定格・疑問格等なれば、心得置くべし。又いふ、文章の或るいひかたにては、そのまま口語の格にしていふ時あり。さるをりは爰(ここ)に挙げたる格どもを間格第七言にせずしてつかふ事もあれば、然(し)か心得てみだりに訝るべからず。さても此のさかひいと紛らはしくて、吾得たりと思ふめる先生家の歌・文章にも、をりをりこの格を誤るものあるを見る事なれば、初学の人はよくよく注意すべき事なりかし。
ナ
希求格は整言の主格助言を助体言の処に挙げ置きたる喚起助言の(よ)に換へ、その作用言を希求活にして成るものとす。その語例は〈水〔みづ〕よ{主格}舟〔ふね〕を{奪格}流〔なが〕せ〈七〉〉と挙げたるものの如し。これはもとは他動格にて〈水〔みづ〕が{主格}舟〔ふね〕を{奪格}流〔なが〕す〈三〉〉といへる詞なりしを、その〈が〉を〈よ〉に換へ、〈流〔なが〕す〈三〉〉といふ作用言の切断活を希求活の〈流〔なが〕せ〈七〉〉に成したるなり。すべて語例はひとつを挙ぐる事としたるははじめにもことわりたるが、爰(ここ)もたとへば自動格にて〈水〔みづ〕が{主格}流〔なが〕る〈三〉〉といふを、この格にすれば〈水〔みづ〕よ{主格}流〔なが〕れよ〈七〉〉となる類、整言の六格ともにみな然るなりとしるべし。
さて作用言の断続格を示せる処にていへる如く、希求活は一種特別なるものなるからに、それにてなせば変化にも又いちじるき事あるはもとよりなれば、この希求格のとにかく異やうなるものなるをさとるべし。また此の格を間格第七言にしてつかふ一例を示さば、〈人〔ひと〕が{主格}水〔みづ〕よ流〔なが〕れよと{間格第七言}言〔い〕ふ〈三〉〉とやうに言ひて、爰(ここ)にいふ文言、即ち常の整言に成るなりと知るべし。
ラ
第二格はこれを禁止格ともいひて、そのしかたは希求格と同じやうに、主格の〈が〉を〈よ〉に換へて、さて作用言を希求活にはせず、これも助体言の処に出し置きつる禁止助言の〈な〉にて受けて禁止言となして成るものとす。その語例は本書【『言語構造式』27/41参照】に挙げたる〈水〔みづ〕よ{主格}舟〔ふね〕を{奪格}流〔なが〕す〈四〉な〉といへるものの如し。かくて此の禁止助言の〈な〉にて受くる作用言は断続格中の続用第三活、即ち(四)なる事は既にいひ置きたるを、そはいかなるわけぞといふに、此の〈な〉は「無」の字にあたる形状言の本言にして、それを受言の〈か〉に受けて良行変格活にはたらかせたる希求言、即ち〈無〔な〕かれ〈七〉〉といへる略言なるなり。されば普通にはこれを〈勿〔なかれ〕の〈な〉〉といへるなり。かく用言なるゆゑに、作用言の続用活のうちなる(四)を受くるなりと見れば、其の理あきらかなるべし。
さて此の禁止格を希求格の第二格としたるを怪しむ人あらん。さるは希求と禁止とはうらうへなる意なりと、ふとは思はるるゆゑなり。然れどもよく思へばさにはあらず。希求は「しか有れよ」と願ひ、禁止は「しか無かれよ」とねがふにて、詞に有無の違ひこそあれ、いづれも希(ねが)ひ求むる意は同じかれば、同類としたるなり。なほいはば、ここにいふ〈な〉の意とする〈勿〔なかれ〕〉といふ詞は、とりもなほさず希求言ならずや。よりてこれを希求格に入れたるは至当の事なるをしるべし。
ム
第三格はこれを第二禁止格ともいひて、そのしかたは第二格と同じやうなれど、ただ作用言を禁止言にする処に違ひあるにて、これは作用言の続用活、即ち(二)を助体言の所に挙げたる第二禁止助言なる(な―そ)の間にはさむなり。語例は本書【『言語構造式』27/41参照】に挙げたる〈水〔みづ〕よ{主格}舟〔ふね〕を{奪格}な流〔なが〕しそ〉といふ類なりとしるべし。ついでに心得置くべき事を示してん。此の助言の間にはさむものは皆作用言の(二)なる中に、変格活なる加行の〈来(く)〉と佐行の〈為(す)〉とは、(二)なる〈き〉〈し〉をもてはせず、(一)なる〈こ〉〈せ〉をもてするにて、〈なこそ〉〈なせそ〉といひて、〈なきそ〉〈なしそ〉とは言はざるなりと知るべし。又、此の格を略言していふとき、たとへば〈な流〔なが〕しそ〉といふべきを、〈そ〉を略して〈な流〔なが〕し〉とやうに言ふべく、〈な〉を略して〈流〔なが〕しそ〉とはいはぬ事なるなり。然るを今世はあやまりて、〈な〉を略(はぶ)きていふかたのややもすればみゆめるは、いみじき非事なりかし。
【補説】
ここで谷は「相動已然格(今でいう順接確定条件の構文)」「反動已然格(今でいう逆接確定条件の構文)」「希求格(命令・禁止の構文)」を扱っている。
両已然格では同将然格と同様、前置言(条件節)の作用言(動詞)の断続格(活用)が続体第二活(已然形)となる理由を考察しているが、「ば」が助体言(活用のない語)であるところから広義の続体活(連体形と已然形)で受けるのは自然だとした上で、続体第二活で受けるのは狭義の続体活(連体形)からの転音によるものだとしている。
希求格については、加勢格から疑問格までと同じ口語表現であるとしている。

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