廿六
〈加勢格〔カセイカク〕〉変化第廿一格(いきほひをくはふるさだまり)
此の格は整言の作用言を切断活にしたるものを助体言の処に挙げたる加勢助言の〈かし〉にて受けて、その詞に勢ひを加ふるものとす。語例は本書【『言語構造式』28/41参照】に出せる〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉かし〉といへる類にて、こはことも無きいひざまなれば、別にことわるべき事もなし。然るに此の〈かし〉より出て、〈らし〉といへるひとつの助言に似たるものの出来たる事は、助体言の処にて示し置けるが如し。語例は本書に出せる〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈四〉らし〉といへる類とす。〈流〔なが〕る〉といふ作用言を〈かし〉と〈らし〉とにて受けたる、同じやうなれどその断続格には(三)と(四)との違ひあるなど、其の処にいひ置きたるやうを見てしるべし。
又、これも其の処にいひ置きたる、助言の(ける〈四〉)(たる〈四〉)(なる〈四〉)と作用言の(ある〈四〉)とを〈らし〉と受けたるが約(つづ)まりて、(けらし)(たらし)【原書に(たらし)はない。脱として補う】(ならし)(あらし)と成りたるものの語例は、本書に〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉けらし〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れ〈二〉たらし〉〈舟〔ふね〕が/の流〔なが〕る〈四〉/るる〈五〉ならし〉〈舟〔ふね〕が有〔あ〕らし〉と挙げたるが如し。〈けらし〉〈たらし〉は第二去言・第二竟言よりなれるなれば〈流〔なが〕れ〈二〉〉を受け、〈ならし〉は第二畢言よりなれるなれば、常の格にて〈流〔なが〕る〈四〉〉を受け、また続体格にて体言にしたるかたより〈流〔なが〕るる〈五〉〉を受け、(ある〈四〉)を受けたる約(つづ)まりは、本言の〈有〔あ〕〉を受くるやうに成りたる【原書は「成るたる」。誤記として訂正】など、皆さだまりある事なり。また本書に洩れたるものとて、助体言の処に挙げたる(かるらし)を(からし)といひ、(ざるらし)を(ざらし)といひ、(べかるらし)を(べけらし)と言へるなどの語例は挙ぐるまでもなけれど、たとへば〈舟〔ふね〕が早〔はや〕からし〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕れざらし〉〈舟〔ふね〕が早〔はや〕かるべけらし〉といふ類なる事を、ここに示し置くになむ。
廿七
〈感慨格〔カンガイカク〕〉変化第廿二格(かまけうれたむさだまり)
此の格は助体言の処に挙げたる感慨助言の(や)(な)(も)(よ)(か)の五つにて整言の作用言をうけて成るものとす。その作用言の受けかたは、(や)(な)(も)の三つは切断活、即ち〈三〉をうけ、(よ)(か)の二つは続体活、即ち(五)を受くるなり。その(三)をうくるものは前條なる〈かし〉の類にて、此等は整言の切断したるものを、或ひは加勢し或ひは感慨するとて助言をいひ添ふる格なるなり。(五)をうくるは即ち助体言なるから続体活を受くるにて、もとより怪しむべき事無きをしるべし。
さてその語例どもは本書【『言語構造式』28/41参照】に出せる〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉や〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉な〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉も〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るる〈五〉よ〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るる〈五〉か〉といふ類の如し。又、助体言の処【本書上巻64/133「決定助言」参照】に『此の助言は同類を重ねて、たとへば(やな)(もよ)(かも)(かな)とやうにもいふことあり』と言ひ置きたるは、然(し)か重なりたる上の助言のさだまりに随ひて整言をうくるにて、たとへば〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉やな〉〈舟〔ふね〕が流〔なが〕るる〈五〉かな〉といふ類なりと知るべし。
また此の助言どもは、しか同類重なるのみならず、他の助言とも重なることありて、加勢の〈かし〉に重なりては〈かしや〉〈かしな〉といひ、集合・分別の〈も〉〈は〉にかさなりては〈もや〉〈もな〉〈はや〉〈はも〉といひ、後に示す決定の〈ぞ〉に重なりては〈ぞや〉〈ぞな〉〈ぞも〉と言ひ、願望の〈ばや〉にかさなりては〈ばやな〉といへる類、なほあるべし。又、形容言類に重なりては〈あはれや〉〈まことや〉といひ、〈いとも〉〈さても〉といへり。これらには〈な〉はつけざるが如し。又、作用言の希求活は切断する詞なるゆゑ、〈や〉〈な〉にて受けて〈行〔ゆ〕け〈七〉や〉〈帰〔かへ〕れ〈七〉や〉といひ、〈咲〔さ〕けな〉〈散〔ち〕れな〉といへり。これには〈も〉はつけざるが如し。ただし〈な〉〈も〉等のつかぬものあるも、尋常の詞にてこそさはあれ、古言などにはその例もあるべければ、よくたづぬべし。
さて歎息の声なる〈あ〉に〈な〉をつけて〈あな〉といへる形容言あり。これをつかひたる下は必らず〈や〉にて受くべし。たとへば〈あな尊〔たふと〕しや〉〈あな恐〔かしこ〕しや〉などの如し。此の「あな」をつかひて〈や〉と受けざるは誤り也と知るべし。
【補説】
ここで谷は「加勢格(今でいう「念押しの終助詞」を使う構文)」「感慨格(今でいう「詠嘆の終助詞」を使う構文)」を扱っている。
以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・作用言:動詞
・切断活:終止形
・助体言:助詞
・助言:付属語
・断続格:活用
・去言:過去の助動詞
・竟言:完了の助動詞
・畢言:完了の助動詞
・体言:活用のない語
・続体活:連体形
・形容言:副詞・感動詞など
・希求活:命令形

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