丗一
〈略言相動已然格〔リヤクゲンサウドウイゼンカク〕〉変化第廿六格(はぶきごとのともにうごく、すでにしかるさだまり)
此の格はややいり組みたるものにて、初学には先づ不急のものなれども、詠歌にてひとつの習ひとなれれば、ここに示すなり。さて本書【『言語構造式』30/41参照】の註に『不言の相動已然格なる後置言を将格にうつし、打ちかへす意の〈に〉にて受けたるを略(はぶ)きて、更に反動格とするなり』と言ひ置きたるを見て、此の格のなりたちをさとるべし。
まづ不言の相動格といふは、たとへば〈風〔かぜ〕も吹〔ふ〕か〈一〉ね〈六〉ば{前置言}舟〔ふね〕も流〔なが〕れ〈一〉ず〈三〉{後置言}〉といふ類なり。然(し)かしてその後置言を将格に移せば〈風〔かぜ〕も吹〔ふ〕か〈一〉ね〈六〉ば{前置言}舟〔ふね〕も流〔なが〕る〈四〉まじ〈三〉{後置言}〉となるべし。されどもかかる詞づかひは有る事なし。さるは前置言が已然格にして、その後置言の将然格となる理なければ也。されば爰(ここ)に於きて打(うち)かへす意の〈に〉といふもの、即ち間格第二助言の或るつかひかたなるものにてその将格を受けて〈風〔かぜ〕も吹〔ふ〕か〈一〉ね〈六〉ば{前置言}舟〔ふね〕も流〔なが〕る〈四〉まじき〈五〉に{後置言}〉となせば、〈に〉の為に後置言の将然なる意はうちかへされて、前置言の已然の意と相ひ背かぬ詞となり、なほ語の残りたるものと成るなり。此時その残りたる語は〈に〉のうちかへしにて、〈流〔なが〕るまじ〉といふ反対なる〈流〔なが〕る〉といふ詞を置かざればならぬ格となるからに、更に主格を置きて反動格となして残る語を補へば、〈風〔かぜ〕も吹〔ふ〕か〈一〉ね〈六〉ば{前置言}舟〔ふね〕も流〔なが〕る〈四〉まじき〈五〉に{間置言}舟〔ふね〕は流〔なが〕る〈三〉【原書は〈二〉。誤記として訂正】{後置言}〉といへる、前後両置言のあいだに間置言を入れたる重畳格と成る。かくなりたるものの間置言を略(はぶ)きていふが此の格なれば、即ち本書【『言語構造式』30/41参照】に〈風〔かぜ〕も吹〔ふ〕か〈一〉ね〈六〉ば{前置言}流〔なが〕る〈四〉まじき〈五〉に舟〔ふね〕は流〔なが〕る{後置言}〉といふべきを、〈風〔かぜ〕も吹〔ふ〕か〈一〉ね〈六〉ば舟〔ふね〕は流〔なが〕る〈三〉{後置言}〉となるやうに、ことばを略(はぶ)きて出せる也。されば此の格は必らず変格したる【原書は「ししたる」。誤記と見て削除】間置言ありて、それを略(はぶ)きたるものなりと知るべし。
丗二
〈決定格〉変化第廿七格(きはめさだむるさだまり)
〈疑問格〉変化第廿八格(うたがひとふさだまり) 〈第二格〉変化第廿九格
この両格は事を決定して答ふると、物を疑惑して問ふとの二対なりとす。然れども必らず問ひと答へとにかぎりてこれを用ゐるにはあらず。みづから決定の意をあらはす時にも、ひとり心中に疑惑する時にも、この格をもていふものなりと知るべし。
ウ
決定格は助体言の処に挙げたる決定助言の(ぞ)にて整言の作用言を受けてなるものとす。(ぞ)にての受けかたは、作用言の活言を(五)にしてうくるものにて、その語例は本書【『言語構造式』30/41参照】に〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕に流〔なが〕さるる〈五〉ぞ〉と挙げたるものの如し。余は准(なぞ)らへてしるべし。
ヰ
疑問格は助体言の処に挙げたる疑問助言の(か)にて整言の作用言を受けてなるものとす。〈か〉にての受けかたは作用言の活言を(五)にして受くるものにて、語例は本書に〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕に流〔なが〕さるる〈五〉か〉と挙げたるものの如し。すべて決定格とかはる事なし。余は准(なぞ)らへて知るべし。
ノ
第二格は助体言の処にて疑問助言より線を引きて第二助言として出せる(や)にて整言の作用言を受けて成るものとす。その〈や〉にての受けかたは、作用言の活言を(三)にしてうくるものにて、その語例は本書に〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉や〉と挙げたるものの如し。これも余は准(なぞ)らへてしるべし。
【補説】
ここで谷は「略言相動已然格」「決定格(今でいう係助詞「ぞ」の文末用法)」「疑問格(今でいう係助詞「か」「や」の文末用法)」を扱っている。「略言相動已然格」は「相動已然格(今でいう順接確定条件の構文)」のうち、意味上で反動格(今でいう逆接の構文)となるものを、省略があって生じたと説明する内容である。
以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・不言:打消(系)の助動詞
・助体言:助詞
・助言:付属語
・作用言:動詞
・活言:活用語尾
・〈一〉:続用第二活。未然形を指す
・〈三〉:切断活。終止形を指す
・〈四〉:続用第三活。終止形を指す
・〈六〉:続体第二活。已然形を指す
・〈五〉:続体活。連体形を指す

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