四十一
〈用言 比較表〔ヒカウヒヤウ〕〉(うごきな くらべのあらはし)
用言の事は上巻に作用言・助用言・形状言の三別にして説き置きたれば、爰(ここ)に改めて言ふにも及ばざれど、本書【『言語構造式』35/41参照】に『此表にて用言の断続の別ちを見合すべし』と言ひたる如くにて、その断続につきてはとにかくに初学の思ひ惑ふふしも多かるべしとて、かく比較表を出して見合の便にしたるなり。されば既に説きたる事をくりかへしつつ示すやうなるものなれども、同じ用言にて彼と是とを見くらべて定格を知る為には又益なくしもあらじとてなむ。表は目録中に挙げたるを見るべし。
さて表には作用言の五種活と形状言との或る一例を挙げて、其れに七格ある事を示せるなり。ただし爰(ここ)に七格とは約(つづ)めたれど、其実は作用言断続の七格に用体言を加へて、すべては八格なるなり。さるは将然格の処にて第二続用言即ち(一)、第三続用言即ち(四)の或るつかひかたを一つに約(つづ)めたれば、然(し)かなれるなりと知るべし。又、爰(ここ)に示せる七格は、続用言・用体言・切断言・続体言・希求言とやうに、それぞれの格を挙げ示したる中に、第二・第三の両続用言と第二続体言との三つは、其名目を挙げずして将然格・已然格といふ異なる唱へにしてあげたるは、その三つの言どもを将然の〈ば〉〈とも〉、已然の〈ば〉〈ども〉にて受けたる方を専らとして示したるなりと知るべし。
又、本書には四段活の次へ変格活を出したれど、既に作用言の処にて其の順序を正したれば、此比較表もそれに従ひて変格活は末へ廻したり。又、その五種活の一つ宛(づつ)を爰(ここ)に出したる、それは皆はじめに挙げたるものを出したるなりと知るべし。
ク
四段活は加行にて示し、その将然格は〈引〔ひ〕か〈一〉ば〉〈引〔ひ〕く〈四〉とも〉にして、続用言は〈引〔ひ〕き〈二〉出〔だ〕す〈三〉〉なり。かくて此下言なる〈出〔だ〕す〈三〉〉を用体言にして〈出〔だ〕し〈二〉〉とすれば、上言の〈引〔ひ〕き〈二〉〉も体言、下言の〈出〔だ〕し〈二〉〉も体言なれば、体言二つをあはせたる連合言の格にて、次の用体言なる〈引〔ひ〕き〈二〉出〔だ〕し〈二〉〉とは成れるなり。已下皆これにならひて、用体言は続用言の例に挙げたるものの下言を用体言にして、連合言の格にしたるものを以て示せるなりと知るべし。
かかれば此用体言といふものは、五種活ともにその続用言を言ひ居(す)ゑて成る事にて、爰(ここ)に示せる〈引〔ひ〕き〈二〉〉としたるものの如きは既に体言に成りたるものにて、もとの用言には非ざるなり。されば同じしかたにて、〈出〔だ〕し〈二〉〉といふが体言なれば、それと連合すれば即ち〈引〔ひ〕き〈二〉出〔だ〕し〈二〉〉とはなるなりかし。然れどもこはその〈引〔ひ〕き〈二〉〉といひ〈出〔だ〕し〈二〉〉といふ如き用体言にしたるもののみが連合言に成るにはあらず。既に示せる如く、〈引〔ひ〕き〈二〉〉といへるは体言になりたるなれば、それを連合言にせむと思はば、上言になり下言になり常の体言をもてするも自在なる事にて、たとへば常の体言を上言にしたるは、車ひく人を〈車〔くるま〕引〔ひ〕き〈二〉〉といひ、常の体言を下言にしたるは、綱してひく舟を〈引〔ひ〕き〈二〉船〔ふね〕といへる類なるなり。又、この〈引〔ひ〕〈二〉き〉といふ類は体言なるから、然(し)か連合せずしてもまれにはつかふ事にて、さるは麻苧のよきを言ふとて、〈此〔この〕苧〔を〕は引〔ひ〕き〈二〉が強〔つよ〕し〉などと主格助言の「が」等にて受くるは、〈引〔ひ〕き〈二〉〉が体言なる故なりと知るべし。
さて切断言は〈引〔ひ〕く〈三〉〉、続体言は〈引〔ひ〕く〈五〉弓〔ゆみ〕〉、已然格は〈引〔ひ〕け〈六〉ば〉〈引〔ひ〕け〈六〉ども〉、希求言は〈引〔ひ〕け〈七〉〉といふ類は、別にいふべき事も無ければ、それぞれの格の処を見てそのつかひかたを知るべし。因(ちなみ)に言ひ置かむ、用体言二つを連合したるものと、その用言を続用したるものとは、〈引〔ひ〕き〈二〉出〔だ〕す〈三〉〉〈引〔ひ〕き〈二〉出〔だ〕し〈二〉〉の如くよく似たるに比(たぐ)ひては、用体言を上言にし常の体言を下言にしたるものと続体言より体言へつづけたるものとも、又、よく似たるがあり。さるは〈引〔ひ〕き〈二〉船〔ふね〕〉〈引〔ひ〕く〈五〉船〔ふね〕〉などの如し。これらも初学にしては紛らかす事無きにしもあらねば、その差別ある事を知り置くべし。
ヤ
一段活も又加行にて示し、将然格は〈着〔き〕ば〉〈着〔き〕る〈四〉とも〉、続用言は〈着〔き〕〈二〉旧〔ふる〕す〈三〉〉、用体言は〈着〔き〕〈二〉旧〔ふる〕し〈二〉〉、切断言は〈着〔き〕る〈三〉〉、続体言は〈着〔き〕る〈五〉物〔もの〕〉、已然格は〈着〔き〕れ〈六〉ば〉〈着〔き〕れ〈六〉ども〉、希求言は〈着〔き〕よ〈七〉〉なり。これも用体言にて〈着〔き〕物〔もの〕〉といへるが続体言に似たるなど、同じ例なるなり。その外は四段活の処にて示したるに比(たぐ)ひて知るべく、別にことわるほどの事もなし。已下かはりたる事無きは皆准(なぞ)らへてしるべし。
マ
中二段活も又加行にて示し、将然格は〈起〔お〕き〈一〉ば〉〈起〔お〕く〈四〉とも〉、続用言は〈起〔お〕き〈二〉上〔あが〕る〈三〉〉、用体言は〈起〔お〕き〈二〉上〔あが〕り〈二〉〉、切断言は〈起〔お〕く〈三〉〉、続体言は〈起〔お〕くる〈五〉朝〔あさ〕〉、已然格は〈起〔お〕くれ〈六〉ば〉〈起〔お〕くれ〈六〉ども〉、希求言は〈起〔お〕きよ〈七〉〉なり。これも別にかはりたる事なし。但し用体言の例に出せるは「起倒翁」とて、今世に「達磨」といひ習へる「おきやがり小法師〔こばふし〕」といふものを「おきやがり」とのみもいふは、即ち〈起〔お〕き上〔あが〕り〉といふ用体言の急語なるなりとしるべし。
ケ
下二段活は阿行にて示し、将然格は〈得〔え〕ば〉〈得〔う〕〈四〉とも〉なり。さて作用言は五十音の各行に活用するものとはすれど、その阿行に活用するものは先づ無きが如し。然るに下二段活にしてただこの阿行の一活あり。然れどもその本言とすべきものは、〈得〉といふ虚辞本言の外は此活用に充(あ)つべきものなし。されば此の〈得〔え〕〉〈得〔う〕〉〈得〔う〕る〉〈得〔う〕れ〉〈得〔え〕よ〉といふ作用言は一種特別なるものと思はれて、他の作用言とはおのづから異なる処あるが如し。さるは先づその続用言にて他の例にならひ、〈引〔ひ〕き〈二〉出〔だ〕す〈三〉〉〈着〔き〕〈二〉旧〔ふる〕す〈三〉〉〈起〔お〕き〈二〉上〔あが〕る〈三〉〉とやうに、同類の作用言へつづくかと思ひて言ひ試みるに、〈得〔え〕出〔いだ〕す〈三〉〉〈得〔え〕旧〔ふる〕す〈三〉〉〈得〔え〕〈二〉上〔あが〕る〈三〉〉などとは大かたいはれざるは怪しむべし。
然るに変例はなほあり。さるはすべての作用言より形状言へ言ひ続くる例はなき事なるを、その形状言中にて〈難〔かた〕〉〈易〔やす〕〉といふ反対なる二本言にて成るもの、即ち〈難〔かた〕く〈二〉〉〈難〔かた〕し〈三〉〉〈難〔かた〕き〈五〉〉〈難〔かた〕けれ〈六〉〉と言ひ、〈易〔やす〕く〈二〉〉〈易〔やす〕し〈三〉〉〈易〔やす〕き〈五〉〉〈易〔やす〕けれ〈六〉〉といふ詞のみへはすべての作用言の続用言よりつづきて、たとへば〈引〔ひ〕き〈二〉難〔がた〕し〈三〉〉〈起〔お〕き易〔やす〕し〈三〉〉などもいはるるなり。これを一種の変例なりとす。因(ちなみ)にいふ、この〈難〔かた〕し〈三〉〉に比(たぐ)ひて〈憂〔う〕し〈三〉【原書は〈二〉。誤記として訂正】〉と言ふ詞と、又、俗言にいふ、〈難〔かた〕し〈三〉〉に比(たぐ)ひて〈にくし〈三〉〉といひ、〈易〔やす〕し〈三〉〉に比(たぐ)ひて〈よし〈三〉〉といへる詞とは、又、然(し)かつづくる事ありて、〈生〔い〕き〈二〉憂〔う〕し〈三〉〉〈言〔い〕ひ〈二〉にくし〈三〉〉〈見〔み〕よし〈三〉〉などもいふ事あるを知り置くべし。
かくて爰(ここ)の〈得〔え〕〈二〉〉といへる続用言は一種特別にて、同類の作用言へはつづかずと思ふを、ただ一種の変例なるこの〈難〔かた〕し〈三〉〉〈易〔やす〕し〈三〉〉へのみは続きて、〈得〔え〕〈二〉難〔がた〕し〈三〉〉〈得〔え〕〈二〉易〔やす〕し〈三〉〉といはるるは、また怪しむべき事にはあらずや。さてもこれが然(し)か怪しむべきものなるにも拘(かかは)らず、その活用のはじめの詞を出す例にて〈得〔え〕〉を挙げ、その続用言の例には即ち〈得〔え〕〈二〉難〔がた〕し〈三〉〉といふを出したるなりと知るべし。又〈難〔かた〕し〈三〉〉といふ詞は、〈甚〔はなはだ〕難〔かた〕し〈三〉〉とか〈為〔な〕すは難〔かた〕し〈三〉〉とかいふ時は、その本言の〔かた〕は清(す)みて唱ふる事なるを、作用言より続用していふ時は〈がた〉と濁りて言ふも又、ひとつの変例なるなり。さるは体言の連合格なる第二言、即ち迎称濁音格にて下言の首音を濁る例ある外には、作用言の続用格などにてその下言を濁る例は大かたなければなりかし。
さて用体言の処に〈得〔え〕〈二〉難〔がて〕〉と出せるはこれまた変例にして、四段活より中二段活までの例とは違へるなり。此の詞にはこれまでつかひ熟(な)れたる処にては〈がてに〉とやうにいひて、その〈に〉は体言を受くる定まりのものなれば、〈がて〉は〈がた〉の転化せる詞にて体言なりと思はるれば、然(し)か定めたるなりと知るべし。按(あんず)るに〈難〔かた〕〉は形状言の尋常本言なれば、それより受言の〈げ〉にてうけて〈かたげ〉と成るを、その〈たげ〉を約(つづ)むれば〈で〉と成るよりして〈かで〉といふ詞は出来たるべく、それが既にいへる変例にて首音を濁るから、一言の中に濁音を重ねぬ例なるより下言の濁りは失せて、〈がて〉といふ詞とはなれりしなるべし。かく論じつめて見れば、これは続用言が用体言に成る例ならざれども、此の詞は既にいへる如く一種特別にして、同類へ続用する例だに無ければ、もとより用体言の他例の如きものは無き事なるゆゑに、暫く別法にて体言になれるものを挙げ置きたるなり。ただし此詞も体言へつづけては、たとへば〈得〔え〕〈二〉物〔もの〕〉といふが如く、また常の用体言の格にも言はるる事なるを知るべし。
さて切断言は〈得〔う〕〈三〉〉、続体言は〈得〔う〕る〈五〉宝〔たから〕〉、已然格は〈得〔う〕れ〈六〉ば〉〈得〔う〕れ〈六〉ども〉、希求言は〈得〔え〕よ〈七〉〉にて、これらは又、別にいふべき事もなし。
又、此の詞を特別なるものとするにつきて、今ひとつこれに特別なるつかひかた有る事を示し置くべし。そは既にいへる如くにて、これが同類へ続用する事は先づ無しと思はるるを、ただ不言の扱ひある作用言へは続けていふ格あり。さるはたとへば〈え言〔い〕はず〉〈え為〔せ〕ぬ〉〈え読〔よ〕まねば〉などの如し。而してその〈言〔い〕ふ〉〈為〔す〕〉〈読〔よ〕む〉の類は皆他動詞なるを、しかいへるうへにてはいづれも能動言の格になりて、〈言〔い〕はれず〉〈為〔せ〕られぬ〉〈読〔よ〕まれねば〉といふ意になるなり。これいと異なるつかひざまなりといふべし。
フ
変格活は又加行にて示し、将然格は〈来〔こ〕〈一〉ば〉〈来〔く〕〈四〉とも〉、続用言は〈来〔き〕〈二〉始〔はじ〕む〈三〉〉、用体言〈来〔き〕始〔はじ〕め〈二〉〉、切断言は〈来〔く〕〉、続体言は〈来〔く〕る〈五〉人〔ひと〕〉、已然格は〈来〔く〕れ〈六〉ば〉〈来〔く〕れ〈六〉ども〉、希求言は〈来〔こ〕〉にて、これも又、別に言ふべき事なし。ただし希求言の〈来〔こ〕〉は助活言の〈よ〉を添へて〈来〔こ〕よ〈七〉〉ともいふなり。此の事は希求言にして助活言の〈よ〉を添へざるもの、即ち同活なる奈行の〈往〔い〕ね〈七〉〉、良行の〈有〔あ〕れ〈七〉〉、四段活なる〈引〔ひ〕け〈七〉〉〈押〔お〕せ〈七〉〉〈打〔う〕て〈七〉〉〈言〔い〕へ〈七〉〉〈汲〔く〕め〈七〉〉〈降〔ふ〕れ〈七〉〉等は、其のままにて希求する詞なれど、又〈よ〉を添へて〈往〔い〕ねよ〈七〉〉〈有〔あ〕れよ〈七〉〉〈引〔ひ〕けよ〈七〉〉〈押〔お〕せよ〈七〉〉〈打〔う〕てよ〈七〉〉〈言〔い〕へよ〈七〉〉〈汲〔く〕めよ〈七〉〉〈降〔ふ〕れよ〈七〉〉ともいはるる事なるを知り置くべし。
かくて爰(ここ)に論じ置かむとするは将然格の〈とも〉にて、同活なる〈有〔あ〕り〈三〉〉を受くる事の定めなり。〈とも〉は作用言すべての続用第三活、即ち(四)より受くるものとせり。さらば〈有〔あ〕り〈三〉〉の詞にては、〈有〔あ〕る〈四〉〉よりうけて〈有〔あ〕る〈四〉とも〉といはねばならぬ格なり。然るにさは受けずして〈有〔あ〕りとも〉といふ例なり。しかしてその〈有〔あ〕り〉は〈二〉と〈三〉とを兼ねたり。「そのいづれなりや」と問はば、答へて「〈三〉には非(あ)らずして〈二〉なるなり」と言はん。〈とも〉はすべての続用第三活を受くるものなるを、これはたまたまその同類なる常の続用活より受くる変例なる也とせんのみ。さるは外はすべて続用第三活より受けて、これのみ切断活より受くるといふ理はあるべからざればなりかし。
已上の事にて作用言の断続格を比較せるものは説き畢(をは)りたれば、爰(ここ)には作用言の活用するさまにつきて、既に示せる事どもに言ひ足らざりし事のあるを聊(いささ)か補ひ置くべし。さて作用言の活用の変化を示さんとするにつきては、作用言に自動言と他動言との別(わか)ちある事を示したる処の第四格の末にいひ置きたる事より始めむとす。然して爰(ここ)にことわり置くべき事あり。其の所に作用言の例を示すとて、(聞〔き〕き・聞〔き〕く)は加行四段活、(見〔み〕・見〔み〕る)は万行一段活とやうに挙げ置きたり。こは四段活ならば四段活のすべてを挙げ、下二段活ならば下二段活のすべてを挙げて示すべき事なるを、略して其の続用活と続体活との二つのみを挙げて示したるなり。かくするは簡略にして、しかも紛るる事無くて便利なれば、爰(ここ)にも其の例に習ひてものすべし。
さても活用の変化する大かたを示さば、一段活の本言なる(着・似・見)の三つは、その活言の〈き〉〈に〉〈み〉が佐行下二段活にゆきて(着〔き〕せ〈二〉・着〔き〕する〈五〉)(似〔に〕せ〈二〉・似〔に〕する〈五〉)(見〔み〕せ〈二〉・見〔み〕する〈五〉)と成り、又(煮・見)の二つは也行下二段活にゆきて(煮〔に〕え〈二〉・煮〔に〕ゆる〈五〉)(見〔み〕え〈二〉・見〔み〕ゆる〈五〉)ともなるなり。此の也行にゆくかたは、四段活の(聞〔き〕く・思〔おも〕ふ)なども、その活言の同音、即ち〈く〉は〈こ〉、〈ふ〉は〈ほ〉が履言と成りて、(聞〔き〕こえ〈二〉・聞〔き〕こゆる〈五〉)(思〔おも〕ほえ〈二〉・思〔おも〕ほゆる〈五〉)とやうにも成るなり。
かく活用を換ふるは、その大かたは自動・他動の別(わか)ちにつきてなるを、中には活用をかへて、其の意は異なるも自動・他動のわかち無きもあり。さるは既にいへる良行四段活の(渡〔わた〕り〈二〉・渡〔わた〕る〈五〉)と佐行四段活の(渡〔わた〕し・渡〔わた〕す〈五〉)とが、いづれも他動言なるが如し。又、同行別活にて意の同じきは、是も既にいへる太行四段活の(満〔み〕ち〈二〉・満〔み〕つ〈五〉)と、同行中二段活の(満〔み〕ち〈二〉・満〔み〕つる〈五〉)とが、いづれも自動言なるあり。然してこれを他動言にすれば、又、同行の下二段活にゆきて(満〔み〕て〈二〉・満〔み〕つる〈五〉)と成りて、これは同行活にて三品あるものなり。然るにおなじく同行活にて三品あるものにても、加行四段活の(除〔よ〕き〈二〉・除〔よ〕く〈五〉)、同行中二段活の(除〔よ〕き〈二〉・除〔よ〕くる〈五〉)、同行下二段活の(防〔よ〕け〈二〉・防〔よ〕くる〈五〉)は、皆他動言なるなり。されば作用言の活用を換ふる意味は、区々にして定まらぬものなるを知るべし。さて自動・他動をわくる中にてもめづらしき例は、加行下二段活にて(白〔しら〕け〈二〉・白〔しら〕くる〈五〉)は自動言にして、同じ活用ながら(精〔しら〕げ〈二〉・精〔しら〕ぐる〈五〉)と濁音に唱ふれば他動言となるがあり。此の外にも穿鑿せば、なほいろいろなるがあるべし。
又、自動・他動には拘(かかは)らずして活用のさまざまなる変化を言へば、佐行四段活にて(脅【原書は「立心偏+脅」】〔おび〕やし〈二〉・脅〔おび〕やす〈五〉)と言ひ波行下二段活にて(准〔なぞ〕へ〈二〉・准〔なぞ〕ふる〈五〉)といへるは、その活言へ上なるは〈か〉を冠(かむ)らせ、下なるは〈ら〉を冠らせて、(脅〔おび〕やかし〈二〉・脅〔おび〕やかす)と成り(准〔なぞ〕らへ〈二〉・准〔なぞ〕らふる〈五〉)と成るあり。此の類にて本言が踏む処の履言を重畳しても言ふは、良行下二段活にて(結〔むす〕ぼれ〈二〉・結〔むす〕ぼるる〈五〉)といふを、又(結〔むす〕ぼほれ〈二〉・結〔むす〕ぼほるる)ともいへるがあり。又、四段活の波行の濁音と万行との二方に活用して、(択〔えら〕び〈二〉・択〔えら〕ぶ〈五〉)(択〔えら〕み〈二〉・択〔えら〕む〈五〉)といひ、(進〔すさ〕び〈二〉・進〔すさ〕ぶ〈五〉)(進〔すさ〕み〈二〉・進〔すさ〕む〈五〉)と言ひて同意なるあり。又、四段活にて佐行と太行とに活用して同意なる(放〔はな〕し〈二〉・放〔はな〕す〈五〉)といひ(放〔はな〕ち〈二〉・放〔はな〕つ〈五〉)ともいふがあり。
これは活言ならで本言の尾音にもさる例ありて、佐行四段活に(塞〔ふさ〕ぎ〈二〉・塞〔ふさ〕ぐ〈五〉)といひ(塞〔ふた〕ぎ〈二〉・塞〔ふた〕ぐ〈五〉)といへるもあり。又〈食〉といふ詞は佐行四段活にて(食〔め〕し〈二〉・食〔め〕す〈五〉)とも(食〔を〕し〈二〉・食〔を〕す〈五〉)ともいふよりして、これを(聞〔き〕こす)といふ詞に重ねては、(聞〔き〕こし食〔め〕し〈二〉・聞〔き〕こし食〔め〕す)とも(聞〔き〕こし食〔を〕し〈二〉・聞〔き〕こし食〔を〕す〈五〉)とも言へり。又、然(し)か詞を重畳していふ時はその活用を転ずるものあり。さるは一段活の(見〔み〕る)といふ詞も、(後〔うしろ〕)(かいま)といふ詞を重ねていへば、(後〔うしろ〕み〈二〉・後〔うしろ〕む〈五〉【原書は「後むる」。誤記として訂正】)(かいまみ〈二〉・かいまむ〈五〉【原書は「かいまむる」。誤記として訂正】)と四段活に成るものなり。然るにおなじ事にても(心〔こころ〕)といふ詞を重ねていへば、(試〔こころ〕み〈二〉・試〔こころ〕みる〈五〉)と、もとのままに一段活にていふがありて、例の一定せざる事なるを知るべし。因(ちなみ)にいふ、(かいまみ)を(垣間見)なりとするは世上一般の説なれども、そはよろしからじと思ふにつき、己は(かいまみ考)といふをものすべくて、その稿は既に成れれば、折もあらば公にして世の批評を乞ふべし。
さて又、体言が転じては活言に成る事あり。さるは(仮言〔かごと〕)(独言〔ひとりごと〕)(後言〔しりうごと〕)などは、その尾音の〈と〉が太行四段活になりて(かこち〈二〉・かこつ〈五〉)(ひとりごち〈二〉・ひとりごつ〈五〉)(しりうごち〈二〉・しりうごつ〈五〉)と言へり。これに比(たぐ)ひては(政事〔まつりごと〕)を(まつりごち〈二〉・まつりごつ〈五〉)ともいふなり。此類は(速〔すみやか〕)といふ詞の〈か〉が加行四段活になりて(すみやぎ〈二〉・すみやぐ〈五〉)といふあり。
然るにこれに似て(清〔さやか〕)といふ詞が(さやぎ〈二〉・さやぐ〈五〉)と成ると思ふは違へり。さるは然(し)か(ぎ・ぐ)とやうに濁音になるは、(清〔さやか〕)といへる尾音の〈か〉が活(はたら)きたるにはあらで、別に添ひたる活言なるなり。そはいかにといふに、もと也行下二段活にて(清〔さ〕え〈二〉・清〔さ〕ゆる〈五〉)といふ詞ありて、それが同行音なる〈や〉を原活履言として濁音なる加行四段活にゆきて、(さやぎ〈二〉・さやぐ〈五〉)と成れるは、(若〔わか〕え〈二〉・若〔わか〕ゆる〈五〉)といふ詞ありて、それが(わかやぎ〈二〉・わかやぐ〈五〉)となれると同例なりと知るべし。
さても体言の尾音が転じて活言に成る事あるにつきて、甚(はなはだ)しきは字音さへ活言になして、(装束〔さうぞく〕)を(さうぞき〈二〉・さうぞく〈五〉)といふ事に成れり。此例は外に無きやうなれど、俗音にては(乞食〔こじき〕)を(こじき〈二〉・こじく〈五〉)といひ、(料理〔りやうり〕)を(りやうり〈二〉・りやうる〈五〉)といへるなどのあるを見るべし。又、常の体言を本言として活用するは、(宿〔やど〕)を良行四段活にして(宿〔やど〕り〈二〉【原書は〈一〉。誤記として訂正】・宿〔やど〕る〈五〉)といひ、(淀〔よど〕)を万行四段活にして(淀〔よど〕み〈二〉・淀〔よど〕む〈五〉)と言ふ類なりとす。此類も俗言にて(汐〔しほ〕の底〔そこ〕り〈二〉)といふは汐が底になるといふ意にて、(底〔そこ〕)といふ体言を(底〔そこ〕り〈二〉・底〔そこ〕る〈五〉)と良行四段活になしたるなり。物の滞る事を(渋〔しぶ〕【原書は〔ぶ〕。脱字として補う】る〈三〉)といふは、(渋〔しぶ〕)といふ体言を(渋〔しぶ〕り〈二〉・渋〔しぶ〕る〈五〉)と活(はたら)かしたるにて、同例なるなり。
又、一言が数言になる例を挙ぐれば、(交〔ま〕)といふ本言を佐行下二段活にして(交〔ま〕ぜ〈二〉・交〔ま〕ずる〈五〉)と成るをもとにし、その活言の(ぜ・ず)の同音なる(じ)が原活履言となりて波行下二段活にゆき(交〔ま〕じへ〈二〉・交〔ま〕じふる〈五〉)と成り、又、良行四段活にゆきては(交〔ま〕じり〈二〉・交〔ま〕じる〈五〉)となるなり。然るにその波行にゆきたるかたは、活言の(へ・ふ)の同音なる(は)が再び原活履言となりて良行四段活にゆき(交〔ま〕じはり〈二〉・交〔ま〕じはる〈五〉)と成り、良行にゆきたるかたはその活言の(ら)が再び原活履言となりて波行四段活にゆき(交〔ま〕じらひ〈二〉・交〔ま〕じらふ〈五〉)と成るなり。然るにこれに止まらずして、すこし意は変はれども、もと此詞より出たるものにて(じ)の履言より(な)を冠(かむ)りたる波行四段活と(こ)を冠りたる良行四段活とにゆきて(蠱〔ま〕じこり〈二〉・蠱〔ま〕じこる〈五〉)と成り(咒〔ま〕じなひ〈二〉・咒〔ま〕じなふ〈五〉)と成るものあり。これにてひとつの用言が別れていろいろに成るさまを見るに足るべし。
此外なほさまざまなるしかたありて、爰(ここ)には尽しがたければ、上件にいへる処を見て、用言が変化するありさまの凡そを悟るべきなり。
【補説】
ここから谷は「用言比較表」として、用言(今でいう活用語)の断続(今でいう活用)を「附録」として説明していく。今までは七つの断続格(続用第二・続用・切断・続用第三・続体・続体第二・希求)で示してきたのを、ここでは用体言(動詞連用形からの転成名詞)を加えた八格とし、続用第二・第三格を「将然格」としてまとめ、続体第二格を「已然格」とする新たな表として提示している。後半では作用言のさまざまな派生の事例を説明している。
以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・用言:活用(のある)語


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