エ
本書【『言語構造式』36/41参照】に『此次より助用言を挙ぐ』と誌し置きたる将言より第四将言までをひとつひとつに別(わ)けていふべし。但し本書には此の書にて第三不言といふものを洩(もら)したれば十三言なりしを、今は十四言に成りたる事、既に言へる如くにて、目録に挙げたる比較表の如し。
さて助用言にては此の表なる七品の例どもに詞の無きもある故に、さる処には〇印をつけたり。又、助用言は作用言を受くるがもちまへなる故、それぞれに或る作用言を受けたるものにて示せるなりと知るべし。先(まづ)将言より説きはじむべし。
将言には将然格・続用言【原書は「連用言」。誤記として訂正】・希求言の三つ無し。先づ将然格の無きはいかなるわけぞと言ふに、将然格といへるは既に示せる如く、作用言・形状言の続用言どもを将格助言の〈ば・とも〉にて受けて将然の詞とするもの也。然るにこれは自体が将言とさへ号(なづ)けられたる将然の詞なるから、又、更にこの詞を将格助言どもに受けて将然の詞とするの必用なければなり。否、さる格になさんとする時には、作用言を此の将言にて受くる事はせずして、直ちに将格助言にて受くるものなればなりかし。
さらば此の将言はいかなる時につかふものぞといふに、これは整言の前置言を然(し)か将然格にしたるとき、それに応ずる為に其の後置言の作用言を受くると、さあらぬ時も其の事を将然にいはむとする時に作用言を受くるものなるなりと知るべし。
次に続用言の無きは人の殊更に怪しむならむ。さるは助用言の処【本書上巻107/133「む・まし・ず・じ」参照】に(ん〈二・三・五〉)としるしたるを見れば、「(二)とあるにて続用言にもなるべき事の知られたるはいかに」といふべければなり。然るにこれを実用せる跡を見れば、続用したるものはある事無し。さは甚だ奇態なる助言ならずや。然れどもこれを〈二〉につかひたりと言はざるを得ざるは、たとへば〈舟〔ふね〕も流〔なが〕れん〈二〉筏〔いかだ〕も流〔なが〕るべし〈三〉〉とやうにいひたるは、〈筏〔いかだ〕も〉と備言を隔てて〈流〔なが〕れん〈二〉流〔なが〕るべし〈三〉〉と、いはゆる間接に続用したりとはたしかに聞(きこ)ゆ。これ、「(ん〈二〉)は続用活なり」といはではえあらぬさまなるを思ふべし。按(おも)ふにこは、然(し)か直接に続用するつかひ方は無くて、間に或る詞を入れたる間接に続用するつかひ方はありとしられて、さる例はをりをり見る事なり。されば一種異やうなるつかひさまの助言なりと言ふべし。
かくて希求言の無きは助用言のもとよりにて、又、いふべきこともなし。仍(より)て次條よりしてこれが無きは其事をいちいちことわらず。さて上にいへる事にて異例ながらも続用言はありとして、其れを言ひ居(す)ゑたるが〈引〔ひ〕かん〈二〉の〉といへる如き、(ん〈二〉)を、即ち体言を受くる〈の〉にてうけたれば用体言になれるなりとは知らるるなり。これもかの直接に続用する事のなきに比(たぐ)ひてにや、直ちに連合言にする例も又、無きが如し。然れども併列言にして〈行〔ゆ〕かん〈二〉行〔ゆ〕かじ〈二〉は〉とやうに言ふ例はまたあるが如し。(じ〈二〉)の用体言なる事は、第二不言の処にて見るべし。
切断言は〈引〔ひ〕かん〈三〉〉にして、続体言は〈引〔ひ〕かん〈五〉弓〔ゆみ〕〉といふ類なりとす。已然格は〈引〔ひ〕かめ〈六〉ば〉〈引〔ひ〕かめ〈六〉ども〉なり。ただし〈引〔ひ〕かめば〉は次の第二将言なる〈見〔み〕ましか〈六〉ども〉といふべきものと合せて論ぜる処を見て、すこし仔細ある事を知るべし。
テ
第二将言には将然格・用体言・希求言の三つ無し。この第二将言も将然の詞なるから、将然格の無き事は前條の将言と同じ理なる也。然るに将言とはかへさまにて、続用言は〈見〔み〕まく〈二〉欲〔ほ〕し〈三〉〉とやうに言ふ例あれども、用体言にして言ふ例は無きが如し。但し〈見〔み〕まく〈二〉の欲〔ほ〕しき〈五〉〉とやうには言はるる事にて、さては〈見〔み〕まく〈二〉の〉といふ〈の〉が前條の〈引〔ひ〕かん〈二〉の〉といへる〈の〉と同じ事なりと聞(きこ)えて、用体言の例なりとも言ふべきに似たれど、よく思へばこれはすこし違ふ処ありて、〈見〔み〕まく〈二〉欲〔ほ〕しき〈五〉〉と続用したる間へ〈の〉をはさみたるものにて、(まく〈二〉)を用体言にして〈の〉と受けたるものにはあらじと見たるなり。然れども、もしは〈の〉にて受け、又はその外の格にて用体言にしたる例あるかも知られねば、よく考ふべし。
第二将言には将然格・用体言・希求言の三つ無し。この第二将言も将然の詞なるから、将然格の無き事は前條の将言と同じ理なる也。然るに将言とはかへさまにて、続用言は〈見〔み〕まく〈二〉欲〔ほ〕し〈三〉〉とやうに言ふ例あれども、用体言にして言ふ例は無きが如し。但し〈見〔み〕まく〈二〉の欲〔ほ〕しき〈五〉〉とやうには言はるる事にて、さては〈見〔み〕まく〈二〉の〉といふ〈の〉が前條の〈引〔ひ〕かん〈二〉の〉といへる〈の〉と同じ事なりと聞(きこ)えて、用体言の例なりとも言ふべきに似たれど、よく思へばこれはすこし違ふ処ありて、〈見〔み〕まく〈二〉欲〔ほ〕しき〈五〉〉と続用したる間へ〈の〉をはさみたるものにて、(まく〈二〉)を用体言にして〈の〉と受けたるものにはあらじと見たるなり。然れども、もしは〈の〉にて受け、又はその外の格にて用体言にしたる例あるかも知られねば、よく考ふべし。
さてもこの助言をば助用言の処【本書上巻107/133「む・まし・ず・じ」参照】にて、形状活の変体なる(く・し・しか)なるものへ(ま)の冠言をかむらせて(まく・まし・ましか)と成ると言ひ置きしが、活用の似たるのみならず、其の意までも形状言に似たるかたありて、続用活の(まく〈二〉)は形状言の続用活なる(く〈二〉)と同じさまにて、〈見〔み〕まく〈二〉欲〔ほ〕し〈三〉〉とか〈散〔ち〕らまく〈二〉愛〔を〕し〈三〉〉とかいふやうに、〈欲〔ほ〕し〉〈愛〔を〕し〉等の形状言へのみ続く事なるを知り置くべし。
かくて切断言を〈見〔み〕まし〈三〉〉とやうに言ふは、別にことわるべき事もなし。続体言は〈見〔み〕まし〈五〉を〉の類なり。さるは〈を〉は体言なればなり。実の体言へつづきたるは〈言〔い〕はまし〈五〉物〔もの〕を〉といへる類、なほ幾等もあるべし。
さて已然格は〈見〔み〕ましか〈六〉ば〉〈見〔み〕ましか〈六〉ども〉にて、仔細も無きやうなれども、(ましか〈六〉)を〈ば〉にて受けたるかたは多く見ゆるを、〈ども〉にて受けたるかたはおほかたは見及ばず。仍(より)て按(おも)ふに、前條なる将言の(め〈六〉)はこれとかへさまにて、(ども)にて受けたるは多く見ゆるも、(ば)にて受けたるは、又、見及ばざるが如し。これ自(おのづ)からなる口調によりてさる事に成り来たりたるなめれど、今にては、この差別あるにつきて、将言あるうへに又第二将言を設けたるならむとさへ思はる。さるは初心の歌よみが「(ん)といひて詞の足らぬ時には(まし)といふべし。かかる為にこの第二言は設けたるなり」など思はんは非事なるべきからに、然(し)か考へて試にいへるなり。
ア
不言は希求言無きのみにて、余は皆あり。将然格は〈問〔と〕はず〈二〉ば〉〈問〔と〕はず〈二〉とも〉の類なり。この(ず)を〈ば〉〈とも〉にて受けたる〈ず〈二〉ば〉〈ず〈二〉とも〉は将然格とは言ひながら、現在にていふものなる特別なるわけある事は、反動将然格の処にていひ置きたるを忘るべからず。
さて続用言は〈問〔と〕はず〈二〉知〔し〕る〈三〉〉、用体言は〈問〔と〕はず〈二〉語〔がた〕り〈二〉〉、切断言は〈問〔と〕はず〈三〉〉、続体言は〈問〔と〕はぬ〈五〉人〔ひと〕〉、已然格は〈問〔と〕はね〈六〉ば〉〈問〔と〕はね〈六〉ども〉といふ類にて、此等は別にいふべき事もなし。かくてこれには希求言無き事なれども、本書の希求言の処に〈問〔と〕はざれ〈七〉〉と出せるは、形状言にて受言の〈か〉より(れ)と受けたるものを出せる例と同じ事にて、〈ざ〉を(れ)とうけたるをば出し、△〇印をつけ置きたるなり。然るにその(ざれ)は、今は第三不言と号(なづ)けて別に挙ぐる事になりたれば、目録の比較表には略(はぶ)きて〇としたる也と知るべし。
サ
第二不言は将然格・続用言・已然格・希求言の四つ無し。このうち将然格と続用言との無きは、将言にその二つの無きに比(たぐ)へるなるべし。さるは此の助言は将言の(ん)といとよく似たる事あればなり。その似たりといふは、此の助言の(じ〈二・三・五〉)とあると、将言にて(ん〈二・三・五〉)とあるとがよく似たる上に、(二)とはあれど続用したる例は無くて、即ち用体言の例に〈忘〔わす〕れじ〈二〉の〉と挙げたる如き用体言にのみ成るは、(ん)が(二)とはあれど、又、続用したる例は無くて、用体言に〈引〔ひ〕かん〈二〉の〉とやうにいふのみなると全(もは)ら同じければ也かし。なほいはば、この二つ続用する例は無しといふものの、二つ重ねてつかふとき、たとへば〈言〔い〕はん〈二〉語〔かた〕らん〈三〉〉といひ、〈言〔い〕はじ〈二〉語〔かた〕らじ〈三〉〉といふ時の、上なるかたの(ん〈二〉)(じ〈二〉)は、もしは続用活ならむかとも思はるるなど、とにかくによく似たるものなる事を思ふべし。かかれば反動将然格の処にて、(じ)は(ざらん)の約(つづ)まりなりといふ説を挙げたる、それわろからじとさへ思はるるなりかし。
さてこの助言はただ(じ)といへる一言なれば、活(はたら)き動くとはいはれぬさましたれど、既にいへる(二)の一格なる用体言にいへるものありて、なほまた切断言には〈忘〔わす〕れじ〈三〉〉といひ、続体言には〈忘〔わす〕れじ〈五〉を〉といへるやうの例あるを見れば、(二・三・五)の格はたしかに備へたるにて、さては一つの用言なりといはざる可(べ)からざるなり。然れども将言には第二続体活の(め〈六〉)あるを、これにその活用無きは、又(ん)と同じとも言はれざるが如し。さるは(じ)が(ざらん)の約(つづ)まりなる(ず)の転じたるならば、(ざらめ)の約(つづ)まりたる(ぜ)とか、それが転じたる(ざ・ず・ぞ)の中とかに活(はたら)かざればならぬわけなればなり。又、それが(二)になるよしは、正面より見る例は無けれど、一方より見て其れとすべきものある事、上にいへるが如し。然して(三)にはたしかに成れり。又(五)に成る事もたしかなるは、表に挙げたる如く(を)と受くるはもとよりにて、或るは〈じ物を〉とやうに〈物〉なる体言へ明らかにかかりたるがあり。然るにこれが然(し)か続体言になりはすれど、〈ぞ〉〈や〉〈か〉等の転置したるものより係りて結びと成れるものは有る事なし。これ他の用言の続体活とは違へるなり。されどなほ言はば、疑問助言の〈か〉と疑問第二助言の〈や〉とは(三)(五)より受けわくるもの、感慨助言の〈か〉と〈や〉とも又(三)(五)より受けわくるものなるに、此の(じ)を受けては疑問にて〈じ〈五〉か〉〈じ〈三〉や〉と言ひ、感慨にて〈じ〈五〉か〉〈じ〈三〉や〉と言へるを見るに、(じ)は(三・五)をかねたるものなる事あきらかなるが知らるべし。かくて既にいへる如く、これに(六)の無きゆゑに、已然格のなきよしはことわるにも及ばざらむ。希求言の無きも助用言の通例なれば、又、あやしむに足らざるべし。
【補説】
ここで谷は「助用言(今でいう助動詞)」の「第一将言(む)」「第二将言(まし)」「第一不言(ず)」「第二不言(じ)」について説明している。(む)(まし)の相補的、(じ)(む)の相反的な性質を指摘している。

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