キ
第三将言は将然格・用体言・希求言なし。これも将言のうちなるからに、将然格の無き事はまた既に言へると同じ理と知るべし。用体言は先づ無しとはしたれど、例の〈の〉にてうけて〈受〔う〕くべく〈二〉の〉とやうには或は言はるべしとも思はる。さて希求言の無きは形状活の常なれば、又、いふにも及ばざるべし。かくてその続用言は〈受〔う〕くべく〈二〉思〔おも〕ふ〉、切断言は〈受〔う〕くべし〈三〉〉、続体言は〈受〔う〕くべき〈五〉賜物〔たまもの〕〉、已然格は〈受〔う〕くべけれ〈六〉ば〉〈受〔う〕くべけれ〈六〉ども〉の類にして、これらもまた別に言ふべき事なし。
さても此の第三将言は、将言の(ん)第二将言の(まし)などの、ただ物の将に然らんずる事をいふ時につかふ詞なるとはすこし違ひて、其の意やや重し。さるはたとへば〈花〔はな〕咲〔さ〕かん〉〈月〔つき〕出〔いで〕まし〉とやうに言ふ(ん)(まし)は、ただ花が咲かんとし月が出んとするとき、そのいまだ然らぬほどにて「咲かん」「出まし」と想像したるまでなるなり。然るにそれを〈花〔はな〕咲〔さ〕くべし〉〈月〔つき〕出〔い〕づべし〉とやうに(べし)といへば、同じくいまだ然らぬほどにて「咲くべし」「出づべし」と想像していへるなれど、これは「後には月と花とが必定咲きもし出(い)でもするに違ひなし」と見究めたるやうなる処にていふ詞なりとす。これにて(ん)(まし)よりは(べし)のやや重き事を知るべし。
ユ
第四不言は用体言・希求言なし。其の無きわけは前條と同じ。然れども爰(ここ)の用体言もまた、もしは〈の〉にて受けて〈為〔す〕まじく〈二〉の〉とやうにはいはるるかも知らず。よく考ふべし。
かくてその将然格は〈為〔す〕まじく〈二〉ば〉〈為〔す〕まじく〈二〉とも〉、続用言は〈為〔す〕まじく〈二〉禁〔いまし〕む〉、切断言は〈為〔す〕まじ〈三〉〉、続体言は〈為〔す〕まじき〈五〉所行〔わざ〕〉、已然格は〈為〔す〕まじけれ〈六〉ば〉〈為〔す〕まじけれ〈六〉ども〉の類にして、これも又別に言ふべき事なし。
さて昨日今日はじめて歌よみ習ふとする初心の人はさる事もあるべきを、すこしは詞のあつかひを心得ためる人さへ、ややもすればこの切断活の(まじ)と第二将言の切断活なる(まし)とを紛らかす事あるは、いとうたてきわざぞかし。さるはかれとこれとは〈し〉文字の清濁も違ひたる上に、助用言の処にていへる第一格と第三格との違ひありて、作用言の受け方に差別あるは、たとへば〈為〔せ〕まし〉といひ〈為〔す〕まじ〉といふべきたがひなどにても明らかなるべければ、さる拙(つた)なき惑ひにおちいらざるやうにすべし。
メ
去言は将然格・用体言・希求言なし。これはいはゆる過去の詞なれば、将然格の無きはさる事として、人も疑はざるならん。用体言の無きはこの類の助用言の通例なりともいふべく、そは次々のを見て知るべし。希求言の無きはたびたびいへる事なれば、又言はず。
さても此の去言よりして已下の助用言どもは、その続用活より続用する処は、同類なる助用言のうちの一つ二つ或るはやや多くへ続用するのみにて、それも是れと彼れとは一定せず甚だ不規則なるものにして、作用言へは先づ続く事無しとするも宜しかるべきものなるが如し。
さればこの去言にては、続用活の(け)が同類中の将言なる(ん・め)にのみつづきて、即ち表に出せる〈有〔あ〕りけ〈二〉ん〉とあるに比(たぐ)ひて〈有〔あ〕りけ〈二〉め〉とやうにいふより外には無きなり。但し、古くは第二将言へも続きて〈けまく・けまし〉などもいひけんと覚えて、「万葉集」には例あれども、今世は大かた言はぬ事となりたれば、古風なる長歌など作らん外にはあまり用なしとして略したるなり。されど助用言の処にはこれに拘(かかは)らず、将言・第二将言の二つへのみ続くものぞといひ置きたれば、ここにことわり置くなり。さて切断言は〈有〔あ〕りき〈三〉〉、続体言は〈有〔あ〕りし〈五〉昔〔むかし〕〉、已然格は〈有〔あ〕りしか〈六〉ば〉〈有〔あ〕りしか〈六〉ども〉といふ類にて、此等につきては別に示すべきことも無し。
かくて爰(ここ)に示し置かん。諸用言の活言は幾品あるかと言へば、作用言の三十二品と形状言の一品と、助用言中にては将言・第二将言・不言の三品と此の去言とを合せて、すべて三十七品あるものなりとす。さるは此の助用言十四品のうちにて、第二不言はただ一言にして、その断続格にのみ活言の意を備へたるものなればこれを別物とし、第三将言・第四不言は冠言を置きて形状活を仮りたるもの、次々に示す処の竟言・畢言は太行下二段活と奈行変格活とをそのままに仮りたるもの、第三不言・第二去言・第二竟言・第二畢言・第四将言は冠言を置きて良行変格活を仮りたるものにて別に異なる活言ならねば、皆その原活に属するものとして総数には算(かぞ)へざれば也と知るべし。
ミ
竟言は太行下二段活を仮りて成れるものなれば、この比較の七格はのこさず備へたり。その将然格は〈流〔なが〕して〈二〉ば〉〈流〔なが〕しつ〈四〉とも〉と言ひ、続用言は将言にて受けて〈流〔なが〕して〈一〉ん〉といふより〈て〈一〉め〉ともいふをはじめにて、第二将言にて受けては〈流〔なが〕して〈一〉まし〉といふに比(たぐ)ひて〈て〈一〉まく〉〈てましか〉とも言ふべく、去言にてうけては〈流〔なが〕して〈二〉き〉といふに比(たぐ)ひて〈て〈二〉けん〉〈て〈二〉し〉〈て〈二〉しか〉ともいふべく、第二去言にて受けては〈流〔なが〕してけり〉と言ふに比(たぐ)ひて〈て〈二〉けらん〉〈て〈二〉ける〉〈て〈二〉けれ〉ともいふべし。又、第三将言にて受けては〈流〔なが〕しつ〈四〉べし〉といふに比(たぐ)ひて〈つ〈四〉べく〉〈つ〈四〉べき〉〈つ〈四〉べけれ〉ともいふべく、第二畢言にて受けては〈流〔なが〕しつ〈四〉なり〉といふに比(たぐ)ひて〈つ〈四〉ならん〉〈つ〈四〉なる〉〈つ〈四〉なれ〉ともいふべく、第四将言にて受けては〈流〔なが〕しつ〈四〉めり〉と言ふに比(たぐ)ひて〈つ〈四〉らん〉〈つ〈四〉める〉〈つ〈四〉めれ〉ともいふべし。このうちにて〈つ〈四〉らん〉は〈つ〈四〉めらん〉とやうにいふべき事なるを、第四将言のもちまへにて(ん)とつづくるには(め)を略(はぶ)ける特別の例なるを忘るべからず。次の畢言の処も又同じ。
さて已上はこの竟言の続用活、即ち(て〈一〉・つ〈四〉)の二つよりは将言・第二将言・去言・第二去言・第三将言・第二畢言・第四将言の七品へつづける例を示せるなり。右の外にはもしは第四不言にて受けて〈流〔なが〕しつ〈四〉まじき〉なども言はるるかと思へど、なほいかがなれば略(はぶ)けるなり。かくて其の外なるものにて受くまじき事は、不言にて〈て〈一〉ず〉〈て〈一〉ぬ〉とも、第二不言にて〈て〈一〉じ〉とも、第三不言にて〈て〈一〉ざり〉〈て〈一〉ざる〉とも、畢言にて〈て〈二〉に〉〈て〈二〉ぬる〉とも、もとより己が属言なる第二竟言にて〈て〈二〉たり〉〈て〈二〉たる〉とも言はれぬにて明らかなるべし。又按(おも)ふに、已(すで)に受くべき格として出せる第二畢言にてうくる〈つ〈四〉なり〉などは、もしはさは言はざるものなるか、よく考ふべし。ここにことわり置かむ、さは受くまじきものとして出したる〈て〈二〉ぬ〉と、次の畢言のうへにて同じさまなる〈なぬ〉とにつきて、古歌を引きてもさもいはるべきものなるやうに言へる説の非事なるよしは、別にいふべし。
前條に去言より已下は続用活より作用言へつづく事は先づ無しと言ひ置きたれど、この竟言にかぎりて作用言へつづくものなる事、表に〈流〔なが〕して〈二〉見〔み〕る〉と出せるが如し。この(て〈二〉)はかく作用言へ続くる事がいと多し。さるは外には無くて、これのみが作用言へつづく事なるに、しかもさるつかひかたの多きは怪しむべき事なり。仍(より)て按(おも)ふに、この(て)は、ここの続用活にては無くて、かの指示言の(かく)(さ)、不言の(ず〈二〉)、形状言の(く〈二〉)等を受けて、〈かくて〉〈さて〉〈ず〈二〉て〉〈く〈二〉て〉といひて作用言へいひ続くる事ある一種の(て)にはあらじかとも思へど、しばらく爰(ここ)の続用活なりとして挙げたるなり。よく考ふべし。
さて用体言【原書は「作用言」。誤記として訂正】は例の〈の〉にて受けたる〈流〔なが〕して〈二〉の〉といふを出せり。然れどもこれも例の外にて、次の畢言などにはさるいひなしかたは無きなり。切断言は〈流〔なが〕しつ〈三〉〉、続体言は〈流〔なが〕しつる〈五〉水〔みづ〕〉、已然格は〈流〔なが〕しつれ〈六〉ば〉〈流〔なが〕しつれ〈六〉ども〉、希求言は〈流〔なが〕してよ〈七〉〉といふ類にて、此等には言ふべき事もなし。
シ
畢言は用体言なきのみにて、余の六格は皆あり。将然格は〈流〔なが〕れな〈一〉ば〉〈流〔なが〕れぬ〈四〉とも〉と言ひ、続用言は将言にて受けて〈流〔なが〕れな〈一〉ん〉といふより〈な〈一〉め〉ともいふをはじめにて、第二将言をうけて〈流〔なが〕れな〈一〉まし〉といふに比(たぐ)ひて〈な〈一〉まく〉〈な〈一〉ましか〉とも言ふべく、去言にて受けては〈流〔なが〕れに〈二〉き〉といふに比(たぐ)ひて〈に〈二〉けん〉〈に〈二〉し〉〈に〈二〉しか〉ともいふべく、第二去言にてうけては〈流〔なが〕れに〈二〉けり〉といふに比(たぐ)ひて〈に〈二〉けらん〉〈に〈二〉ける〉〈に〈二〉けれ〉ともいふべく、第二竟言にて受けては〈流〔なが〕れに〈二〉たり〉といふに比(たぐ)ひて〈に〈二〉たらん〉〈に〈二〉たる〉〈に〈二〉たれ〉ともいふべく、第三将言にて受けて〈流〔なが〕れぬ〈四〉べし〉といふに比(たぐ)ひて〈ぬ〈四〉べく〉〈ぬ〈四〉べき〉〈ぬ〈四〉べけれ〉ともいふべく、第二畢言にてうけては〈流〔なが〕れぬ〈四〉なり〉といふに比(たぐ)ひて〈ぬ〈四〉ならん〉〈ぬ〈四〉なる〉〈ぬ〈四〉なれ〉とも言ふべく、第四将言にて受けては〈流〔なが〕れぬ〈四〉めり〉といふに比(たぐ)ひて〈ぬ〈四〉らん〉〈ぬ〈四〉める〉〈ぬ〈四〉めれ〉とも言ふべし。此のうちの〈ぬ〈四〉らん〉は(め)を略(はぶ)きたるものなる事、前條にいへるが如し。
さて已上はこの畢言の続用活、即ち(な〈一〉・に〈二〉・ぬ〈四〉)の三つより、将言・第二将言・去言・第二去言・第二竟言・第三将言・第二畢言・第四将言の八品へ続ける例を示せるなり。右の外にはもしは第四不言【原書は「第四将言」。誤記として訂正】にて受けて〈流〔なが〕れぬ〈四〉まじき〉なども言はるるかと思へど、なほいかがなれば、前條なる竟言のと同じく略せるなり。かくて其の外なるものにて受くまじき事は、又、前條と同じくて、不言にて〈な〈一〉ず〉〈な〈一〉ぬ〉とも、第二不言にて〈な〈一〉じ〉とも、第三不言にて〈な〈一〉ざり〉〈な〈一〉ざる〉とも、竟言にて〈に〈二〉て〉〈に〈二〉つる〉とも言はれぬにて明らかなるべし。〈なぬ〉といふもありげにいふはわろき事、前條の如し。
さて前條の竟言なる続用第三活の(つ〈四〉)を第二畢言の(なり)にて受けたる〈つ〈四〉なり〉といふを、もしはさはいはざるものかと言ひ置きしが、ここの畢言なる(ぬ〈四〉)を第二畢言なる(なり)にて受くるは、同属にてつづくものなるからなほさらにさは言ふまじきかとも思はるれど、これはかへりて然(し)かいはるるやうなれば挙げたるなり。又、竟言にて〈に〈二〉て〉〈に〈二〉つる〉とは言はれぬよしを示したる、其の〈に〈二〉つる〉のかたは、さはいはれぬ事もとよりなれど、〈に〈二〉て〉のかたは、さもいはるるやうなれば、これをよく考へ見るに、其の言はるるといふは、此類の助用言の例にてその同類の中へ続用する事は無くて、たとへば〈流〔なが〕れに〈二〉て有〔あ〕るなり〉とやうに作用言へつづくる事があるのみなり。仍(より)て按(あん)ずるに、この(て)は前條にいへる一種とすべきものにして、竟言の続用活にては非ざるなるべし。さるはかの一種の(て)が不言・形状言を受けて(ず〈二〉て)(く〈二〉て)といへるに比(たぐ)ひて、ここにては(に〈二〉て)といふならん。かくて思へば、作用言へかかる(て)はいよいよ竟言の(て〈二〉)にはあらずと定めてよろしからむか、なほよく考ふべし。因(ちなみ)にいふ、上の例に出したる〈流〔なが〕れに〈二〉て有〔あ〕るなり〉といへる、その〈流〔なが〕れに〈二〉て〉の〈流〔なが〕れ〈二〉〉は続用言にして、〈に〈二〉〉は畢言の続用活にてうけたるを、又、いはゆる一種の(て)といふものにて受けたる也。然るに用体言にしたる〈流〔なが〕れ〈二〉〉を間格第三次助言の(にて)もて受くれば、又〈流〔なが〕れ〈二〉にて〉となりて、これもまた或る時は〈流〔なが〕れにて有〔あ〕るなり〉ともいはるるなり。いと紛らはしき事なりと言ふべし。されば我がいふときも人の文を見る時も、よく心しらひすべき事なりかし。
かくて切断言は〈流〔なが〕れぬ〈三〉〉、続体言は〈流〔なが〕れぬる〈五〉水〔みづ〕〉、已然格は〈流〔なが〕れぬれ〈六〉ば〉〈流〔なが〕れぬれ〈六〉ども〉、希求言は〈流〔なが〕れね〈七〉〉といふ類にて、此等も又いふべき事なし。さても前條と此條とに、作用言の他動言なる〈流〔なが〕し〉と自動言なる〈流〔なが〕れ〉とをもてせるは、竟言・畢言にて受くべき先づの定まりによりたるなりと知るべし。
【補説】
ここで谷は「助用言(今でいう助動詞)」の「第三将言(べし)」「第四不言(まじ)」「去言(き)」「竟言(つ)」「畢言(ぬ)」について説明している。
「去言(き)」「竟言(つ)」「畢言(ぬ)」で続用活(今でいう連用形)が現在と大きく異なるのは、谷が「用言」を「助用言」(今でいう助動詞)を含めた「活用する語全て」と定義したことによるものである。
ここに示された谷の所説が現在の通説と大きく異なる点を挙げると、「けむ」を「き+む」とした点、接続助詞「て」を「つ」の続用活(連用形)とした点(但し強く疑っている)、「らん」を「めり」の将然活(未然形)とした点などである。
以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・将言:推量(系)の助動詞
・用体言:動詞連用形からの転成名詞
・希求言:命令形(希求活も同じ)
・〈二〉:続用活。連用形を指す
・続用言:連用形(続用活も同じ)
・切断言:終止形(切断活も同じ)
・続体言:連体形(続体活も同じ)
・〈三〉:切断活。終止形を指す
・〈五〉:続体活。連体形を指す
・〈六〉:続体第二活。已然形を指す
・不言:打消(系)の助動詞
・作用言:動詞
・助用言:助動詞
・去言:過去の助動詞
・活言:活用語尾
・形状言:形容詞
・竟言:完了の助動詞
・畢言:完了の助動詞
・〈一〉:続用第二活。未然形を指す
・〈四〉:続用第三活。終止形を指す
・〈七〉:希求活。命令形を指す

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