【翻字】
何人のかき留めをきしや菴主も来由をしらず是を 無下に紙魚の餅となさむも本意なきに似たればあるじの 僧に乞求めて猶近世の知識あるは参学の居士等のよみ 捨をましおぎなひ一人に一首となし画を加へ伝を付して 桜木にものし侍るされどひがめる眼をもてさらに名哥 秀逸をゑらみたるにもあらず只見るにまかせ筆にまかせて 書つけしものなれば人口に膾炙せる名哥を漏らし はた何がしの高僧のよく哥よみ給ひしをのせざるもあらんそれ はそれにして後人の補ひにゆづりこれはこれにして世に弘ふし 吾宗雲水の衲子の学に倦坐につかれたる心を慰めいよいよ 道を原む便ともなさんとみだりにこゝろの策とは名づけ侍りぬ
沙羅樹下参徒 無染居士しるす
【校訂本文】
何人(なんぴと)の書き留め置きしや、菴主も来由(らいゆ)を知らず。これを無下に紙魚(しみ)の餅となさむも本意(ほい)なきに似たれば、あるじの僧に乞ひ求めて、なお近世の知識、或は、参学の居士(こじ)等の詠み捨てを増し補ひ、一人に一首となし、画(え)を加へ、伝を付して、桜木にものし侍る。
されど、僻める眼をもて、さらに名歌・秀逸を撰みたるにもあらず。ただ、見るに任せ、筆に任せて書き付けしものなれば、人口に膾炙(かいしゃ)せる名歌を漏らし、はた、某の高僧のよく歌詠み給ひしを載せざるもあらん。それはそれにして、後人の補ひに譲り、これはこれにして世に弘(ひろ)ふし、吾宗雲水の、衲子(のっす)の、学に倦(う)み、坐に疲れたる心を慰め、いよいよ道を原(もと)む便りともなさんと、みだりに『心の策(むち)』とは名付け侍りぬ。
沙羅樹下参徒、無染居士記す。
されど、僻める眼をもて、さらに名歌・秀逸を撰みたるにもあらず。ただ、見るに任せ、筆に任せて書き付けしものなれば、人口に膾炙(かいしゃ)せる名歌を漏らし、はた、某の高僧のよく歌詠み給ひしを載せざるもあらん。それはそれにして、後人の補ひに譲り、これはこれにして世に弘(ひろ)ふし、吾宗雲水の、衲子(のっす)の、学に倦(う)み、坐に疲れたる心を慰め、いよいよ道を原(もと)む便りともなさんと、みだりに『心の策(むち)』とは名付け侍りぬ。
沙羅樹下参徒、無染居士記す。
【語釈】
来由:物事の現在に至った理由。いわれ。由来。
知識:仏道に教え導く指導者。導師。善知識。
あるは:または。もしくは。
参学:座禅して仏道を学ぶこと
居士:近世以後の禅宗で、在家の座禅修行者
桜木:桜材は江戸時代、版木に使用した。「桜木にものす」で「出版する」意。
膾炙:広く世の人々に知れわたっていること
雲水:広く諸国を巡る行脚僧
衲子:衲衣を着ている者の意で、主として禅宗の僧をさす
沙羅樹:娑羅双樹。ナツツバキの通称。釈迦の病床の四方に二本ずつ相対して生えていた木。釈迦が入滅した時、鶴のように白く枯れ変じたという。
知識:仏道に教え導く指導者。導師。善知識。
あるは:または。もしくは。
参学:座禅して仏道を学ぶこと
居士:近世以後の禅宗で、在家の座禅修行者
桜木:桜材は江戸時代、版木に使用した。「桜木にものす」で「出版する」意。
膾炙:広く世の人々に知れわたっていること
雲水:広く諸国を巡る行脚僧
衲子:衲衣を着ている者の意で、主として禅宗の僧をさす
沙羅樹:娑羅双樹。ナツツバキの通称。釈迦の病床の四方に二本ずつ相対して生えていた木。釈迦が入滅した時、鶴のように白く枯れ変じたという。
【解説】
序は内容的に三つの部分に分けられ、校訂本文は三段構成にしました。第一段は、和歌と禅仏教が根本で通じ合う、とありますが、かなり強引な立論です。第二段は、本書の出版経緯を述べています。編者が偶然に原本を発見し、それを編者が増補し体裁を整えた、とありますが、これは江戸期の出版物にしばしば見られる類型的表現です。第三段は編集意図と命名理由、および編者の儀礼的な謙辞です。
序は内容的に三つの部分に分けられ、校訂本文は三段構成にしました。第一段は、和歌と禅仏教が根本で通じ合う、とありますが、かなり強引な立論です。第二段は、本書の出版経緯を述べています。編者が偶然に原本を発見し、それを編者が増補し体裁を整えた、とありますが、これは江戸期の出版物にしばしば見られる類型的表現です。第三段は編集意図と命名理由、および編者の儀礼的な謙辞です。

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