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【翻字】
法灯国師(ほつとうこくし)
何事(なにごと)も 夢(ゆめ)まぼ ろしと さとりては 現(うつゝ)なき世(よ)の 住居(すまゐ)也けり
〇師名は覚心(かくしん)号は心地(しんち)初め東大寺 の檀(だん)に登(のぼ)り又高野(かうや)に密法(みつはふ)を学ぶ 后宋国に入て無門開(むもんのかい)公に印記(いんき)を 受(うけ)帰朝(きちう)して紀州鷲峯(じゆほう)西芳寺を 開(ひら)く其地元(もと)より妖魅(ようみ)有て人を悩(なや) ます師悉く之(これ)を降伏す又宋国に 有時五台(だい)山に登(のぼ)るに文殊(もんじゆ)出現して藕(はす) 糸(いと)の袈裟(けさ)を授(さづく)帰朝の後いせの神祠(やしろ)に 詣す太神宮来現して其けさを求め 給ふ師則(すなはち)之を献ず其余平日の霊(れい) 感(かん)しるすにいとまあらず永仁六年十月 十二日寿九十三にして化す 勅して法灯国師と諡す

【校訂本文】
 法灯国師
 何事も 夢幻と 悟りては 現なき世の 住居なりけり
 〇師、名は覚心、号は心地。初め東大寺の檀に登り、又、高野に密法を学ぶ。後、宋国に入りて、無門開公に印記を受け、帰朝して、紀州鷲峯西芳寺を開く。その地、元より妖魅有りて、人を悩ます。師、悉くこれを降伏す。
 又、宋国に有る時、五台山に登るに、文殊出現して、藕糸の袈裟を授く。帰朝の後、伊勢の神祠に詣す。太神宮来現して、その袈裟を求め給ふ。師、則ちこれを献ず。その余、平日の霊感、記すに暇あらず。
 永仁六年十月十二日、寿九十三にして化す。勅して法灯国師と諡す。

【語釈】
無門開公:無門慧開。中国の臨済宗の僧。
印記:ここでは、禅宗で師僧が弟子に法を授けて悟りを得たことを証明・認可する印可状を書くこと
鷲峯西芳寺:鷲峯山西方寺。正嘉2年(1258年)、心地覚心を開山として創建。
妖魅:あやしいばけもの。妖怪。
降伏(ごうぶく):神仏の力や法力によって悪魔や敵を防ぎおさえること。調伏。
五台山:中国山西省にあり、5・6世紀に多数の仏教寺院が建立された。文殊菩薩の聖地とされる。
藕:はす(蓮)。「藕糸」はハスの茎や根の繊維。ハスの茎や根を折ったときに出る糸。
いせの神祠:伊勢神宮
平日:ふだん。平生。平素。
霊感:神仏が示す霊妙な感応
勅して法灯国師と諡す:亀山上皇、後醍醐天皇によりなされた

【解説】
 5人目は心地覚心、日本禅宗の一派・普化宗の祖とされる臨済宗の禅僧です。紹介文の前半は華厳宗・真言宗を学んだ後、渡宋して臨済禅の印可を受けたことをまとめ、後半は一転してその霊異譚をまとめています。
 歌は意味が取りにくいのですが、下の句が現生を詠んだものと考えると、「こうして生きているのはかりそめである」という、無常を詠んだ歌意であるとほぼ了解できます。