【翻字】
世中の 親に 孝ある 人はたゞ 何に つけても たのもしきかな
孝行の道きはめてひ ろし千変万化のこと ありて逐一にしるしがたし 孝経論語礼記などに 委(くはし)くしるし侍りき爰に 親に孝をなす内に子 をあはれむ道もこもり 侍る也又は人のうへはいふに 及ばず千里をはしる 虎狼(とらおほかみ)やけのにあさる 雉(きゞす)まで子ゆゑに命を 捨(すつ)るはいきとしいける ものゝなさけにやもし又 爰にいへる親に孝を なし兄に悌の道をつ くししたかふ心をもつて 君主につかへ弟をはご くみ子をあはれむ心を もつて民をつかひ侍らは
たとひ天下ををさめ 侍る共何のなしがたき 事のあらん是則何に つけてもたのもしく 誰もかくこそ有べき 世中の大綱領(こうれい)也
【通釈】
世の中で親孝行な人というものは、何につけても頼りになることだなあ
孝行の道はきわめて広く、千変万化であり、一々書きがたい。『孝経』『論語』『礼記』などに詳しく書かれている。親孝行の中に、子を慈しむ道も含まれている。又このことは、人間は言うまでもなく、千里を走る虎狼や焼野に漁る雉まで、子のために命を捨てるのは、生き物すべての情愛であろうか。かりに又以上のような、親孝行をし、兄に悌の道を尽くして従う心で、君主に仕え弟を育み子を慈しむ心で民衆を従わせるならば、たとえ天下を治めましょうとも、何の困難なことがあろうか。これがすなわち、何につけても頼りになる、誰もこのようであるべき、世の中の一大規範である。
【語釈】
・孝経・論語・礼記…いずれも儒教の経典。
・焼け野の雉…親が子を思う情の深いことのたとえ。
・悌(てい)…年長者に柔順に仕えること。
・綱領…物事の最も大切なところ。要点。眼目。
・焼け野の雉…親が子を思う情の深いことのたとえ。
・悌(てい)…年長者に柔順に仕えること。
・綱領…物事の最も大切なところ。要点。眼目。
【解説】
第一首目は「孝」の重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、川のそばで瓢箪を持つ人物と、家の中で空を見ている人物が描かれています。「養老の滝」の伝説を描いたもののようです。