【翻字】
世中はとくして人に ほめられて そんして人に わらはるるあり
己を利するものは 人のにくみあり己を 減するものは人を救ふ の理あればほめらるゝ 事のあるは是常なり 然るに叓によりては 己とく分ある上に ほまれ来り己損失 する上にそしりを招く 事もあればこの処を 考へしりて智愚の 跡得失の分をも 弁(わきま)へ愚者のしわざ に效(なら)ふ事なかれ
【通釈】
世の中は、得した上に人に褒められ、損した上に人に笑われることがあるものだ。
自分が得をするように振る舞う者は人に憎まれる。(逆に)自分が損をするように振る舞う者は、(それが間接的に)人を助ける理屈になるから、褒められる事があるのが世の常である。ところが場合によっては、自分に得となる上に名誉まで得たり、自分が損をした上に非難を受ける、そんな事もあるから、この点をよく考えて、(過去の)知者や愚者の先例や、損得の分かれ目をわきまえて、愚者の先例に倣うという事がないようにしなさい。
【語釈】
・跡…先人の手本。先例。
・分…分けられた部分。ある範囲の分量。
・分…分けられた部分。ある範囲の分量。
【解説】
第二十六首目は、「損した上に非難を受ける事への戒め」を詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、一人の武士が一人の武士の上に馬乗りになり、今にもその首を取ろうと刀を振りかざしている場面を描いています。手柄を立てて誉れを受ける、あるいは討ち取られた上に嘲罵される、という意味で示されているのでしょうか。