江戸期版本を読む

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カテゴリ: 蝦夷島奇観 (江戸写本)

【翻字】
西蝦夷地のチセ
笹の葉にてふく
熊の柙

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【通釈】
西蝦夷地の家屋
笹の葉で屋根を葺いている
熊の檻

【解説】
 西蝦夷地のアイヌの家屋の外観です。熊の檻は、イヨマンテ、熊の霊送りのための熊を育てるためのものでしょう。

  

【翻字】
粟稗の糠を家のうしろにすてる處を
定めおくなり粟稗は神の製し玉ふとて
イナホをたて置なり
シヤモあやまつて其場へ不浄を
あやせばかならず債をとらる
アイノの庫
ちかき蝦夷地のチセ

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【通釈】
粟や稗の糠を捨てる場所を、家の後ろに決めてある。粟や稗は神がお作りになるとアイヌたちは考えていて、捨て場所にイナホを立てて置く。
和人が間違ってその場所に大小便をしてしまうと、必ず咎められてアイヌたちに借りを作ってしまうことになる。
アイヌの倉。
本州に近い蝦夷地の家屋。

【語釈】
・シヤモ…和人。日本人。
・不浄…大小便。
・あやす…流す。こぼす。
・債…借り。負い目。
・チセ…家。

【解説】
 本州に近い地域のアイヌの家屋の外観が描かれ、特に家の裏の雑穀の糠を捨てる場所をアイヌが神聖な場所と考え扱っていることを説明しています。

  

【翻字】
シトウカリの時用ゆる槌なり ヱモシ タンネツプ
キシヤラウンパチ ケマクルシントリ マサシントリ
シホプ イクバシ カハルシュ ツーキ タカサラ
キナ 筵
数年用へたる矢筒を神に祀りおく 神棚の如し セツ 床
マキリ ウツチヤク イスンヘ 爐 シユ 鐺 イダ カシユツプ ペラ
ピセ トゞといふ海獣の皮なり あぶらを貯へおく
ウリゝ
是は親子兄弟または朋友なとひさしく対面
絶たるものに逢ふたる時老たるものより若きものゝ
頭両耳の上を両手もて挿むやうになし
それよりそろそろと撫おろし肩より手先きに
いたり図の如くはさみて漸く
顔をあはせ次に膝をすりより
肩のうへに顔をのせあいてさめさめと涙を流し
しばらく無言にして
やゝありて立退きた
がひの何くれともの
かたりす

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【通釈】
シトウカリの時に使用する槌である ヱモシ タンネツプ
キシヤラウンパチ ケマクルシントリ マサシントリ
シホプ イクバシ カハルシュ ツーキ タカサラ
キナ むしろ
数年使用した矢筒を神に祭り置く 神棚と同じである セツ 床
マキリ ウツチヤク イスンヘ 囲炉裏 シユ 鍋 イダ カシユツプ ペラ
ピセ トゞという海獣の皮である 油を貯蔵しておく

ウリリ
これは、親子兄弟あるいは友人などで、長い間会えずにいた人に
会った時に、年長の方から年少に対して、頭・両耳を両手で挟むようにして、ゆっくりと
撫でながら、肩から腕へと手を移動させ、手の先までくると図のように両手を両手で包むようにして
、その時ようやく顔を合わせて、次ににじり寄って膝を合わせるようにし、互いの肩の上に
顔を載せながら、さめざめと泣き、しばらくの間ものを言わず、その後離れて互いにいろいろと話し出す(、再会の時の作法である)。

【語釈】
・鐺…なべ。

【解説】
 アイヌの住まいの室内の様子と調度品、ウリリという、久しぶりに親しい人と再会した時の作法について、描いて説明しています。
 ウリリは果たして定式的な作法といえるものであったか、説明を読んで不審に思います。おそらく当時の日本人は肉体的な接触によって感情表現をすることが少なかったということがあって、アイヌの人々のごく自然な感情表現に驚いて、このような記録と説明をしたかと疑われます。宗教的な理由から定まった礼式であれば、途中何らかの超越者に対する身振りがあると思われますし、再会の喜びの表現にまで定式的作法があったとは、儒教文化の強いところならともかく、素朴で原始的なアイヌ社会においては考えられません。

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【翻字】
弓(クウ)矢(アイ)靫(イカヱツプ)之図
鏃は熊笹の根もとにて作る
弓はウルマといふ木にて作る箱舘辺にては
ヲンコウといふ樹なり
上(グニシ ヌペナシ)弦(グウカ) グシ 下(シヤラバ)

アイカンジ 羽(ラツプ) シユツプ マカニ 鹿角でも作る ルム
キルゝコ 桜皮(カンリバ)にてまく ヲシヨロ
総てアイノ等は文字をしらす暦日をしらす我か年をしらす
寸尺もしらされば我かからだを寸尺の標準とす
大小不同あり寸尺はその人はその
人にして用ゆ
マカニ鹿の角にて作る寸法かくの如し
ルム熊笹の根にて作る寸法かくの如し
放つ時はこれにブスをぬるなり
アイカンジよりシユツフまての寸尺
かくの如し
大抵は海鵜と雁の羽なり二枚つゝつける
弓は両乳の間まてを度とす

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【通釈】
弓・矢・靫の図
鏃は熊笹の根元で作る。
弓はウルマという木で作る。函館周辺ではヲンコウと呼ばれる木である。
全アイヌは文字・暦を知らない。自分の年も寸法も知らないので、自分の肉体を寸法の基準にしている。
体の大きさは大小さまざまであるから、寸法も人によって異なり、それぞれで通用している。
鏃本体のマカニは鹿の角で作る。寸法は図の通り(拳幅)である。
鏃先端部のルムは熊笹の根で作る。寸法は図の通り(三本指幅)である。
矢を放つときにはここにブスを塗る。
矢の胴体部分、アイカンジからシユツフまでの寸法は図の通り(指先から肘までの長さ)である。
たいていは海鵜か雁の羽を二枚ずつ付ける。
弓は地面から両乳の間までの長さを基準とする。

【語釈】
・度…ものさし。
・ブス…不詳。トリカブトの毒か。

【解説】
 弓と矢の構造と製法が図示され説明されています。
 弓も矢も構造は原始的でむしろ貧弱ですが、文中にある「ブス」はトリカブトの毒らしく、矢自体の威力よりは毒の効果で獲物をしとめていたようです。「ブス]あるいは矢毒について記述が弱いのは、アイヌが和人に対して秘していたせいかと想像します。矢毒については軍事的に重要な事項であり、和人には説明したくなかったとしても当然かと思います。

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【翻字】
甄権曰、膃肭臍是新羅国、海内狗外腎也連而取之
李珣曰、按臨海志云、山東海水中状若鹿形腹似狗長尾毎日出即浮在水面昆侖家以弓矢射之取其外腎
宗奭曰今出登萊州、其状非狗非獸亦非魚也但前脚似獸而尾即魚
一統志曰、膃肭臍出女真

二司馬按にみな臍と
腎と相混したるなり
新羅は今の朝鮮なり
登莱も東莱と
すれはおなしく
朝鮮なりひとり
生女真は日本の
別称なり偖支
那人も日本蝦夷
島より出るをしら
さるなり故に明
の末にいたりて国
性爺の父鄭
芝龍なるもの
膃肭臍をもとめて
日本へ渡る事は
しめて明史に見ゆ

タケリの図

上は支歯にて
下は持歯なり

猟虎図(ラッコといふより清人文字をいふたり今これを用ゆ)
ウルツプ島又ラツコ嶋ともいふヱトロフ嶋より
東北の方二十里にあり最上徳内常
矩はしめて渡り地図を製せり
キイクツプヱトロフクナシリ等の
アイノ等初夏の頃よりこの島に
通ひて猟虎を獲る
長大なるものは六七尺毛厚く
縦横上下わかちなく色紫黒
なり席革の絶品なり
海にうかむ時は腹を
うへにして浮遊す
嶋山にものほれり

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【通釈】
二司馬が考えるに、『本草綱目』の上に引く記述は皆、臍と腎とを混同している。新羅とあるのは今の朝鮮である。登莱も東莱と考えると同様に朝鮮である。生女真とあるのは日本の別称である。さて、中国人もオットセイが日本の蝦夷島で産出されることを知らなかったのである。だから、明代末になって、国姓爺鄭成功の父鄭芝龍がオットセイを求めて日本へ渡ったことが初めて『明史』で確認できる。
タケリの図
上顎の歯は支歯、下顎の歯は持歯である。
猟虎図(ラッコといふアイヌ音から清人がこの文字を使う。今それを使用する。)
ウルップ島又ラッコ島とも言う。エトロフ島から東北二十里の距離にある。最上徳内常矩が初めて渡航し、地図を作製した。キイクツプ・ヱトロフ・クナシリ等に住むアイヌらが、初夏の頃からこの島に行き、猟虎を獲る。長大な個体は体長六七尺にもなり、毛は厚く、毛皮は縦横上下の区別がなく、色は黒みがかった紫である。敷皮として最上級品である。
海に浮かぶ時は腹を上にして浮遊する。島山へ登ったりもする。

【語釈】
・甄権曰…以下、『本草綱目』第五十一巻「膃肭臍」からの抜粋であるが、かなり不正確である。
・二司馬…不詳。官職名か。以下、『本草綱目』の記述の考証。
・臍…へそ。
・東莱…韓国釜山付近の地名。
・女真…満州民族を指す。
・国性爺…『国性爺合戦』の主人公鄭成功。
・明史…明国の正史。1739年完成。「膃肭臍をもとめて」云々は不詳。
・タケリ…語としては不詳。図はオットセイの男性性器。漢方薬の材料とされた。
・支歯・持歯…不詳。
・二十里…約78km。
・最上徳内常矩…1754~1836年。江戸幕府役人、探検家。
・キイクップ…不詳。国立博物館所蔵本に「クイタプ」とあり、あるいは霧多布(厚岸郡浜中町)を指すか。
・六七尺…約182~212cm
・席革…敷皮。

【解説】
 オットセイおよびラッコを博物学的に記述し、考察しています。
 オットセイを蝦夷地の特産と考えている点は、いかにも視野見識が狭いと感じさせられます。「二司馬」というのが誰を指すのかは不明ですが、原筆者者の地位や学識がそれなりに高かったことが推察されます。

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