江戸期版本を読む

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カテゴリ:上方落語速記本・原典 > 滑稽大和めぐり 第二回

【翻字】
 似多「モシお百姓、
チョイと物をお尋ね申します △「ハゝア何ぢやナ 似多「憚(はゞか)りな
がら一寸(ちよつと)物をお尋ね申します △「エゝツ、其方(そつち)へ行け行け 似多「何(ど)うか物を憚(はゞか)りながらお尋ね申しますと言うてますのぢや
△「其方(そつち)へ行け 似多「憚(はゞか)りですがナ △「コリヤ、百姓が牛蒡種(ごばうたね)
を蒔いてるのに、葉ばかりながら葉ばかりながらツて、葉ばかりで食ふ
所があるかエ 似多「貴郎(あなた)牛蒡種(ごばうたね)を蒔いて居(ゐ)なさるやら大根種(だいこたね)蒔
いてゐなさるやら、私等(わたしら)には分(わか)りませんがナ、別に尋ねたか
らと言うて、根も葉もある訳ぢやアありません △「根も葉も
なくツて何を食ふのぢや、其方(そつち)へ行きやアがれ打擲(どつく)ぜ 似多「ア
ゝ怖(こは)………」二人は無暗(むやみ)に迯(にげ)出しました 似多「アゝ恐ろしい奴ぢや
モシお百姓、チョイと物をお尋ね申します ◎「ハイ何ぢやナ

 似多「私共(わたしども)は大阪の者ですが、虚々(うかうか)と野途(のみち)へ這入ツて来まして
困ツて居(ゐ)ますが、本街道へは何方(どつち)へ参じますのか、チヨツと
お尋ね申しますので ◎「ハゝア、お前方(がた)は大阪の衆か 似多「ヘ
エ、今向(むか)ふでチヨイと尋ねましたところが、野途(のみち)は何方(どつち)へ参
じますと言うたら、お光(みつ)は嫁入(よめいり)をした、頭(どたま)ア打擲(どつ)いてやらう
かと言ひましたら、好(よ)い日和(ひより)だと、何程(なんちぼ)尋ねたツて分(わか)らない
ので、分(わか)らぬ筈(はず)です奴聾(どつんぼ)です ◎「ホゝウ、何処(どこ)に居(ゐ)る仁(ひと)に尋
ねたのぢや 似多「アレ、彼(あ)の向(むか)ふに鍬(くは)をば杖について、キヨロ
キヨロ向(むか)ふを見て居(ゐ)ませうがナ ◎「ムゝ、彼処(あすこ)に居(ゐ)る百姓を汝(ぬし)
や何かエ奴聾(どつんぼ)や打擲(どつ)いてやらうかと言うたのか 似多「ヘエ、然(さ)
うですね彼(あ)の奴聾(どつんぼ)を ◎「コレ、彼(あ)りやア宅(うち)の親父(おやぢ)だ、ゴテ
ゴテ言ふと汝(おの)れ打擲(どつ)いてやるぞ 似多「アゝ怖(こは)アゝ怖(こは)」二人の者は又(また)
候(ぞろ)周章(あわ)てゝ滅多矢鱈(めつたやたら)に迯(にげ)出しました、

【語釈】
・牛蒡種(ごばうたね)…ルビ不鮮明(特に「た」)。
・何程(なんちぼ)…ルビ不鮮明(特に「ち」)。
・鍬(くは)…ルビ不鮮明(特に「は」)。
・汝(ぬし)…ルビ不鮮明。「ぬし」は「二人称。あなた」。

【解説】
 野道に迷った二人が街道への道を野良のお百姓に尋ねるくだりの後半です。二人のお百姓に尋ねますが、いずれも要領を得ないで、結局叱られてしまいます。特に二人目は、似多八の口の悪いのが災いしてしまい、ひどく怒らせ、逆にどやされてしまいます。
 結局この後、二人は街道に戻ることができます。

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【翻字】
やうやうに街道へさし

て出て参りました 似多「紛さん 紛郎「似多 似多「アゝ途方もない喫(びつ)
驚(くり)した、また聾(つんぼ)の息子と知らずに尋ねてからに驚いたなア、
併(しか)し向(むか)ふに茶店がある、オウ煮売屋(にうりや)らしいなア、障子に一膳(ひとつぜん)
飯酒肴(めしさけさかな)ありやなきやいろいろとしてあるぜ 紛郎「そんな不細工
な読みやうすなエ、一膳飯(いちぜんめし)酒肴(さけさかな)あり柳屋色々としてあるのぢ
や 似多「悪い書きやうぢやナ 紛郎「お前の読みやうが悪いのぢや
此処(こゝ)で一ツ休まうか、老爺(おやぢ)さん、御免まされや 老爺「ハイ、お
出(い)でなさいませ、今日(こんにち)は好(い)いお日和(ひより)さまで 紛郎「此処(こゝ)は何(なん)て処(ところ)
ぢやエ、私等(わしら)ア野途(のみち)で烏鷺突(うろつ)いてからに、頓(さつぱ)り道が分(わか)らなか
ツた、やうやう此処(こゝ)へ出て来たんぢやが、こりやア本街道か
 老爺「ハイ、此処(こゝ)は大野木でございます 紛郎「ハゝア、大野木か
然(さ)うすると丁度これで二里来たぜ、老爺(おやぢ)さん、二本木(にほんぎ)へは最(も)
う何里程あるナ 老爺「最(も)う一里半ほどございます 紛郎「最(も)う一里

半だツて 似多「然(さ)うか 紛郎「老爺(おやぢ)さん、一ツお茶を汲んで来てお
呉れ 老爺「只今お進(あ)げ申します」 此処(こゝ)で二人は茶店に腰をかけ
休みながら茶を喫(の)んで居(を)りまする、ところへさしてやツて参
りましたのは、一人(にん)のお武士(さむらひ)でございます、檳榔子(びんらうじ)の黒の紋
付に、茶の打裂(ぶつさき)羽織を着まして、大小刀(だいせう)をば立派に佩(たばさ)み、馬(うま)
乗袴(のりばかま)を穿(は)き 武士「アゝコリヤコリヤ老爺(おやぢ) 老爺「ハイ、おかけなさい
ませ 武士「此処(こゝ)は何(なん)といふ処(ところ)だ 老爺「此処(こゝ)は大野木でございますので 武士「ハゝア然(さ)うか、一寸(ちよつと)お前に物を尋ぬるが、この辺(あた)り
に夜々(よなよな)白狐(びやくこ)が出るといふことだが、何か白い狐が出るのか 老爺「
ハイ、私(わたくし)はこれまで年久しう居(を)りますけれども、根(ねつ)から然(さ)う
いふ事は聞いたことがございませんが 武士「ハゝア然(さ)うか、それ
ぢやア多分(おほかた)人の説であらうのウ、茶代は此処(これ)に置くぞ 老爺「有
難うございます、マア御緩容(ごゆるり)となさいませ 武士「静かに致せ」

と武士(さむらひ)はズツと立ツて行ツて仕舞ひました、跡に似多八は
「オイ紛さんさん、今の武士(さむらひ)は何とか言ツたナ、一ツお前と乃公(おれ)と
でお茶番をやらうか、乃公(おれ)が武士(さむらひ)になるから、お前茶店の老(おや)
爺(ぢ)になりいナ、いゝか………アゝコリヤコリヤ茶店の老爺(おやぢ)、ハイ
ハイツて言はんかエ 紛郎「ハイハイ 似多「そないに引附(ひつつ)けたやう
に言ひないナ、アゝこの辺(あた)りに夜々(よなよな)ムゝウ………出るさうなナ
 紛郎「何がでございます 似多「ソノ、ムゝウ………アノ何(なん)だわい………
出るだらう 紛郎「何が出るので 似多「サア然(さ)う急(せ)いては分(わか)らない
ソノ、オウ然(さ)うだ、この辺(あた)りに脱肛が出るのではないか 紛郎「
脱肛、そんなものは出やアしませんナ 似多「出ないか、そりや
ア多分(おほかた)人の穴(けつ)であらう」。

【語釈】
・大野木…現在の津市一志町大仰(おおのき)。
・二本木(にほんぎ)…現在の津市白山町二本木。
・檳榔子(びんらうじ)…檳榔子染(びんろうじぞめ)で染色された黒褐色のこと。紋付の黒染の中で最高級とされた。
・打裂(ぶつさき)羽織…武士が乗馬や旅行などに用いた羽織。背縫いの下半分が割れている。
・佩(たばさ)み…漢字ルビともに不鮮明。
・お茶番…「茶番」は「ありふれたものを材料として、しぐさで、こっけいな事を演ずる座興。茶番狂言」。『大菩薩峠』13巻に「お茶番」という形で「茶番狂言」の意の用例が見える。
・引附(ひつつ)けた…漢字ルビともに不鮮明。
・脱肛…肛門や直腸の下のほうの粘膜が肛門外に脱出する病気。

【解説】
 紛郎兵衛と似多八の二人は畑と二本木のほぼ中間にある大野木の茶店で休みます。後から来て先に発って行った武士と茶店の主人の会話を受けて、似多八が紛郎兵衛を相手に茶番狂言を演じ、下ネタの洒落でサゲになります。
 第二回は現在独立した噺としては上演されていません。それも理由のあることで、分量も短く、中心のあるまとまった話ではありません。ただ、この中のいくつかの要素が他の話に取り入れられています。

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滑稽大和めぐり 第二回
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