【翻字】
似多「モシお百姓、
チョイと物をお尋ね申します △「ハゝア何ぢやナ 似多「憚(はゞか)りな
がら一寸(ちよつと)物をお尋ね申します △「エゝツ、其方(そつち)へ行け行け 似多「何(ど)うか物を憚(はゞか)りながらお尋ね申しますと言うてますのぢや
△「其方(そつち)へ行け 似多「憚(はゞか)りですがナ △「コリヤ、百姓が牛蒡種(ごばうたね)
を蒔いてるのに、葉ばかりながら葉ばかりながらツて、葉ばかりで食ふ
所があるかエ 似多「貴郎(あなた)牛蒡種(ごばうたね)を蒔いて居(ゐ)なさるやら大根種(だいこたね)蒔
いてゐなさるやら、私等(わたしら)には分(わか)りませんがナ、別に尋ねたか
らと言うて、根も葉もある訳ぢやアありません △「根も葉も
なくツて何を食ふのぢや、其方(そつち)へ行きやアがれ打擲(どつく)ぜ 似多「ア
ゝ怖(こは)………」二人は無暗(むやみ)に迯(にげ)出しました 似多「アゝ恐ろしい奴ぢや
モシお百姓、チョイと物をお尋ね申します ◎「ハイ何ぢやナ
似多「モシお百姓、
チョイと物をお尋ね申します △「ハゝア何ぢやナ 似多「憚(はゞか)りな
がら一寸(ちよつと)物をお尋ね申します △「エゝツ、其方(そつち)へ行け行け 似多「何(ど)うか物を憚(はゞか)りながらお尋ね申しますと言うてますのぢや
△「其方(そつち)へ行け 似多「憚(はゞか)りですがナ △「コリヤ、百姓が牛蒡種(ごばうたね)
を蒔いてるのに、葉ばかりながら葉ばかりながらツて、葉ばかりで食ふ
所があるかエ 似多「貴郎(あなた)牛蒡種(ごばうたね)を蒔いて居(ゐ)なさるやら大根種(だいこたね)蒔
いてゐなさるやら、私等(わたしら)には分(わか)りませんがナ、別に尋ねたか
らと言うて、根も葉もある訳ぢやアありません △「根も葉も
なくツて何を食ふのぢや、其方(そつち)へ行きやアがれ打擲(どつく)ぜ 似多「ア
ゝ怖(こは)………」二人は無暗(むやみ)に迯(にげ)出しました 似多「アゝ恐ろしい奴ぢや
モシお百姓、チョイと物をお尋ね申します ◎「ハイ何ぢやナ
似多「私共(わたしども)は大阪の者ですが、虚々(うかうか)と野途(のみち)へ這入ツて来まして
困ツて居(ゐ)ますが、本街道へは何方(どつち)へ参じますのか、チヨツと
お尋ね申しますので ◎「ハゝア、お前方(がた)は大阪の衆か 似多「ヘ
エ、今向(むか)ふでチヨイと尋ねましたところが、野途(のみち)は何方(どつち)へ参
じますと言うたら、お光(みつ)は嫁入(よめいり)をした、頭(どたま)ア打擲(どつ)いてやらう
かと言ひましたら、好(よ)い日和(ひより)だと、何程(なんちぼ)尋ねたツて分(わか)らない
ので、分(わか)らぬ筈(はず)です奴聾(どつんぼ)です ◎「ホゝウ、何処(どこ)に居(ゐ)る仁(ひと)に尋
ねたのぢや 似多「アレ、彼(あ)の向(むか)ふに鍬(くは)をば杖について、キヨロ
キヨロ向(むか)ふを見て居(ゐ)ませうがナ ◎「ムゝ、彼処(あすこ)に居(ゐ)る百姓を汝(ぬし)
や何かエ奴聾(どつんぼ)や打擲(どつ)いてやらうかと言うたのか 似多「ヘエ、然(さ)
うですね彼(あ)の奴聾(どつんぼ)を ◎「コレ、彼(あ)りやア宅(うち)の親父(おやぢ)だ、ゴテ
ゴテ言ふと汝(おの)れ打擲(どつ)いてやるぞ 似多「アゝ怖(こは)アゝ怖(こは)」二人の者は又(また)
候(ぞろ)周章(あわ)てゝ滅多矢鱈(めつたやたら)に迯(にげ)出しました、
困ツて居(ゐ)ますが、本街道へは何方(どつち)へ参じますのか、チヨツと
お尋ね申しますので ◎「ハゝア、お前方(がた)は大阪の衆か 似多「ヘ
エ、今向(むか)ふでチヨイと尋ねましたところが、野途(のみち)は何方(どつち)へ参
じますと言うたら、お光(みつ)は嫁入(よめいり)をした、頭(どたま)ア打擲(どつ)いてやらう
かと言ひましたら、好(よ)い日和(ひより)だと、何程(なんちぼ)尋ねたツて分(わか)らない
ので、分(わか)らぬ筈(はず)です奴聾(どつんぼ)です ◎「ホゝウ、何処(どこ)に居(ゐ)る仁(ひと)に尋
ねたのぢや 似多「アレ、彼(あ)の向(むか)ふに鍬(くは)をば杖について、キヨロ
キヨロ向(むか)ふを見て居(ゐ)ませうがナ ◎「ムゝ、彼処(あすこ)に居(ゐ)る百姓を汝(ぬし)
や何かエ奴聾(どつんぼ)や打擲(どつ)いてやらうかと言うたのか 似多「ヘエ、然(さ)
うですね彼(あ)の奴聾(どつんぼ)を ◎「コレ、彼(あ)りやア宅(うち)の親父(おやぢ)だ、ゴテ
ゴテ言ふと汝(おの)れ打擲(どつ)いてやるぞ 似多「アゝ怖(こは)アゝ怖(こは)」二人の者は又(また)
候(ぞろ)周章(あわ)てゝ滅多矢鱈(めつたやたら)に迯(にげ)出しました、
【語釈】
・牛蒡種(ごばうたね)…ルビ不鮮明(特に「た」)。
・何程(なんちぼ)…ルビ不鮮明(特に「ち」)。
・鍬(くは)…ルビ不鮮明(特に「は」)。
・汝(ぬし)…ルビ不鮮明。「ぬし」は「二人称。あなた」。
・牛蒡種(ごばうたね)…ルビ不鮮明(特に「た」)。
・何程(なんちぼ)…ルビ不鮮明(特に「ち」)。
・鍬(くは)…ルビ不鮮明(特に「は」)。
・汝(ぬし)…ルビ不鮮明。「ぬし」は「二人称。あなた」。
【解説】
野道に迷った二人が街道への道を野良のお百姓に尋ねるくだりの後半です。二人のお百姓に尋ねますが、いずれも要領を得ないで、結局叱られてしまいます。特に二人目は、似多八の口の悪いのが災いしてしまい、ひどく怒らせ、逆にどやされてしまいます。
結局この後、二人は街道に戻ることができます。

