江戸期版本を読む

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カテゴリ:谷千生『言葉能組立』(1889刊) > 言葉能組立 下

[2]詞の組たて下巻目録【[数字]は『言葉能組立 下』画像コマ数を示す】

 【[13]目録自注・下巻緒言
 リ[14] 言語組織三格
   上巻目録の〈言語〉とあるより此線へ続く
十四[15] 備言 基格言 主格言〔水(みづ)が〕 る[上51]
 賓格言 奪格言〔舟(ふね)を〕 与格言〔水(みづ)に〕 を[上52]
 間格言 第一言〔河(かは)を[越]〕 第二言〔河(かは)に(丹)〕 か[上53]
   第三言〔河(かは)に(尓)〕 第三次言〔河(かは)に(尓)て〕(よ(上54))
   第四言〔河(かは)に{尓}〕 第四次言〔河(かは)へ〕 た[上54]
   第五言〔橋に[尓]〕 第五次言〔橋と〕 れ[上55]
   第六言〔河(かは)より〕〔河(かは)まで〕〔河(かは)から〕〔河(かは)ほど〕
   〔河(かは)ゆゑ〕〔河(かは)すら〕〔河(かは)ばかり〕〔河(かは)ながら〕 そ[上55]
十五[20] 整言 基格
 自動格〔〈主格〉舟(ふね)が―流(なが)る〕 十[上89]
 他動格〔〈主格〉水(みづ)が―〈奪格〉舟(ふね)を―流(なが)す〕
 自被動格〔〈主格〉水(みづ)が―〈与格〉舟(ふね)に―流(なが)れらる〕 十一[上96]
 自使動格〔〈主格〉水(みづ)が―〈与格〉舟(ふね)に―流(なが)れさす〕
 他被動格〔〈主格〉舟(ふね)が―〈奪格〉身(み)を―〈与格〉水(みづ)に―流(なが)さる〕
 他使動格〔〈主格〉舟(ふね)が―〈奪格〉身(み)を―〈与格〉水(みづ)に―流(なが)さす〕
十六[24] 変化格 助言略称格
 〔〈主格〉水(みづ)が―〈奪格〉舟(ふね)〇―流(なが)す〕
 〔〈主格〉水(みづ)〇―舟(ふね)を―流(なが)す〕
十七[25] 備言転置格
 〔〈奪格〉舟(ふね)を 〈主格〉水(みづ)が 流(なが)す〕
 〔〈与格〉水(みづ)に 〈主格〉舟(ふね)が 流(なが)さる〕
十八[26] 間言格
 《自動格へはさみたる間格言》
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《第一言》河(かは)を―流(なが)る〕 か[上53]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《第二言》河(かは)に(丹)―流(なが)る〕
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《第三言》河(かは)に(尓)/に(尓)て―流(なが)る〕 よ[上54]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《第四言》河(かは){尓}/へ―流(なが)る〕 た[上54]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《第五言》橋に[尓]/と―流(なが)る〕 れ[上55]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《第六言》河(かは)より/から―流(なが)る〕 そ[上55]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《時日名言》今日(けふ)―流(なが)る〕 三[上31]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《数量名言》一(ひと)つ―流(なが)る〕 四[上33]
 〔〈主格〉舟(ふね)が―《形容言》又(また)―流(なが)る〕 五[上37]
十九[29] 間格第七言 〔舟(ふね)が―流(なが)る/るる―と〕 の(上60]
 他動格へ間格第七言をはさむ
 ヌ[31] 用格
 〔〈主格〉乗(の)れる人(ひと)が〈奪格〉岸(きし)の移(うつ)るを―見(み)て―〈第七言〉舟(ふね)が流(なが)る/るると―知(し)る〕
廿[32] 続体格 め[上75]
 〔〈主格〉舟(ふね)の―〈与格〉水(みづ)に―流(なが)さるる〕
 〔〈主格〉舟(ふね)の―流(なが)さるる―水(みづ)〕
 〔〈主格〉水(みづ)に―流(なが)さるる―舟(ふね)〕
 ル[37] 整言重畳格
 〔〈前置言〉舟(ふね)が流(なが)れ―〈後置言〉筏(いかだ)が下(くだ)る〕
廿一[39] 続用格 め[上75]
 ヲ[39] 直接格 右同
 〔〈主格〉舟(ふね)が―流(なが)れ―下(くだ)る〕
 〔〈主格〉水(みづ)が―〈奪格〉舟(ふね)を流(なが)し―下(くだ)す〕
 ワ[40] 間接格 右同
 〔〈前置言〉舟(ふね)が―流(なが)れ―〈後置言〉筏(いかだ)が―下(くだ)る〕
 〔〈前置言〉水(みづ)が―舟(ふね)に―流(なが)れられ―〈後置言〉筏(いかだ)に―下(くだ)らる〕
廿二[43] 相動格 ね[上57]
 〔〈前置言〉舟(ふね)も―流(なが)れ―〈後置言〉筏(いかだ)も―流(なが)る〕
 〔〈前置言〉水(みづ)が―舟(ふね)をも―流(なが)し―〈後置言〉筏(いかだ)をも―流(なが)す〕
 〔〈前置言〉舟(ふね)が―水(みづ)にも―流(なが)され―〈後置言〉風(かぜ)にも―流(なが)さる〕
 〔〈前置言〉舟(ふね)が―漕(こ)がれも―行(ゆ)き―〈後置言〉流(なが)れも―下(くだ)る〕
 カ[45] 反動格 な[上58] 
 〔〈前置言〉舟(ふね)は―流(なが)れ―〈後置言〉筏(いかだ)は―流(なが)れず〕
 〔〈前置言〉水(みづ)が―舟(ふね)をば―流(なが)し―〈後置言〉筏(いかだ)をば―流(なが)さず〕
 〔〈前置言〉舟(ふね)が―水(みづ)には―流(なが)され―〈後置言〉風(かぜ)には―流(なが)されず〕
 〔〈前置言〉舟(ふね)が―漕(こ)がれは―行(ゆ)き―〈後置言〉流(なが)れは【原書は「ば」。誤刻として訂正】―下(くだ)らず〕 
 ヨ[48] 相動第二格 ね[上57]
 〔〈前置言〉舟(ふね)も流(なが)れ―〈後置言〉筏(いかだ)さへ流(なが)る〕
 相動第三格 不言相動格とも言ふ
 〔〈前置言〉舟(ふね)も流(なが)れず―〈後置言〉筏(いかだ)だに流(なが)れず〕
 タ[53] 反動第二格 な[上58]
 〔〈前置言〉舟(ふね)は流(なが)れ―〈後置言〉筏(いかだ)のみ流(なが)れず〕
廿三[55]
 レ[55] 相動将然格 ら[上58]
 〔〈前置言〉舟(ふね)が流(なが)れば―〈後置言〉筏(いかだ)も流(なが)れん〕
 ソ 反動将然格 む[上59]
 〔〈前置言〉舟(ふね)が流(なが)るとも―〈後置言〉筏(いかだ)は流(なが)れじ〕 
廿四[62]
 ツ[63] 相動已然格 う[上59]
 〔〈前置言〉舟(ふね)が流(なが)るれば―〈後置言〉筏(いかだ)も流(なが)る〕
 ネ 反動已然格 ゐ[上60]
 〔〈前置言〉舟(ふね)が流(なが)るれども―〈後置言〉筏(いかだ)は流(なが)れず〕
廿五[65]
 ナ[66] 希求格 お[上61]
 〔〈主格〉水(みづ)よ―〈奪格〉舟(ふね)を―流(なが)せ〕
 ラ[67] 希求第二格 禁止格とも言ふ
 〔〈主格〉水(みづ)よ―〈奪格〉舟(ふね)を―流(なが)すな〕
 ム[68] 希求第三格 く[上62] 第二禁止格とも言ふ
 〔〈主格〉水(みづ)よ―〈奪格〉舟(ふね)を―な流(なが)しそ〕
廿六[69] 加勢格 や[上62]
 〔舟(ふね)が流(なが)るかし〕
 〔舟(ふね)が流(なが)るらし〕らんかしの約(つづま)り
 〔舟(ふね)が流(なが)れけらし〕けるらしの約り
 〔舟(ふね)が流(なが)れたらし〕たるらしの約り
 〔舟(ふね)が流(なが)れならし〕なるらしの約り
 〔舟(ふね)が有(あ)らし〕有(あ)るらしの約り
 〔舟(ふね)が早(はや)からし〕かるらしの約り
 〔舟(ふね)が流(なが)れざらし〕ざるらしの約り
 〔舟(ふね)が早(はや)かる可(べ)けらし〕可(べ)かるからしの約り
廿七[70] 感慨格 ふ[上66]
 〔舟(ふね)が流(なが)るや〕
 〔舟(ふね)が流(なが)るな〕
 〔舟(ふね)が流(なが)るも〕
 〔舟(ふね)が流(なが)るるよ〕
 〔舟(ふね)が流(なが)るるか〕
廿八[71] 願望格 え(江)[上66]
 〔水(みづ)よ舟(ふね)を流(なが)さなん/ね〕
 〔舟(ふね)を流(なが)さばや〕主格は文章者の(我が)といふに当る
 〔流(なが)るる舟(ふね)もが〕
 〔舟(ふね)の流(なが)れしが〕
 〔舟(ふね)の流(なが)る/るるがに〕
廿九[74] 間称助言格 あ[上69]
 〔舟(ふね)し/しも流(なが)る〕
 〔水(みづ)が舟(ふね)し/しも流(なが)す〕
 〔舟(ふね)が水(みづ)にし/しも流(なが)さる〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れし/しも下(くだ)る〕
丗[75] 重畳竟言格 て[上68]
 漕(こ)がれつ流(なが)れつとわけていふ二個の(つ)を約(つづ)むる
 〔舟(ふね)が漕(こ)がれつつ流(なが)る〕
丗一[76] 略言相動已然格 う[上59]
 〇此の間に(流(なが)るまじきに)と言ふことのあるべきを略(はぶ)けるなり
 〔風(かぜ)も吹(ふ)かねば〇舟(ふね)は流(なが)る〕
丗二[77]
 ウ[78] 決定格 ま[上64]
 〔舟(ふね)が水(みづ)に流(なが)さるるぞ〕
 ヰ[78] 疑問格 け[上65]
 〔舟(ふね)が水(みづ)に流(なが)さるるか〕
 ノ[78] 疑問第二格
 〔舟(ふね)が水(みづ)に流(なが)さるや〕
丗三[79]
 オ[79] 助言転置格
 皆〇此の中にあるべき(ぞ)を上へ転置したるなり
 〔舟(ふね)ぞ水(みづ)に流(なが)さるる〇〕 ま[上64]
 〔舟(ふね)が水(みづ)にぞ流(なが)さるる〇〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れぞ下(くだ)る〇〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れば/るればぞ筏(いかだ)も下(くだ)らん/る〇〕
 皆〇此の中にあるべき(か)を上へ転置したるなり
 〔舟(ふね)か水(みづ)に流(なが)さるる〇〕 け[上65]
 〔舟(ふね)が水(みづ)にか流(なが)さるる〇〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れか下(くだ)る〇〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れば/るればか筏(いかだ)も下(くだ)らん/る〇〕
 〇此中にあるべき(か)を(や)に換へ上へ転置したるなり
 〔舟(ふね)や水(みづ)に流(なが)さるる〇〕 右同
 〔舟(ふね)が水(みづ)にや流(なが)さるる〇〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れや下(くだ)る〇〕
 〔舟(ふね)が流(なが)れば/るればや―筏(いかだ)も下(くだ)らん/る〇〕
丗四[83] 別称言転置格 き[上70]
 〇此の中にあるべき(ぞ)を(なん)に換へて上へ転置したるなり
 〔舟(ふね)なん流(なが)るる〇〕
丗五[83] 略言転置格 ま[上64]
 〇此の中にあるべき(そ)に(こ)を添へて上へ転置したるなり
 〔舟(ふね)こそ流(なが)るれ―「爰(ここ)にかくあるべき語を略(はぶ)く」―筏(いかだ)は流(なが)れぬ〇〕
丗六[86] 随伴助言転置格 ゆ[上70]
 かくいふべき(ん)を(も)に換へて転置せる(ぞ)(や)が随伴したるなり
 〔舟(ふね)もそ流(なが)るる/れん〕
 〔舟(ふね)もや流(なが)るる/―れん〕
 かくいふべき(め)を(も)に換へて転置せる(こそ)が随伴したるなり
 〔舟(ふね)もこそ流(なが)るれ/れめ〕
丗七[88] 交互略言転置格
 〇かくあるべきを交互して略言せるなり
 〔舟(ふね)ぞ―〇流るる舟(ふね)の/が―流(なが)るるに〕
 〔舟(ふね)や―〇流るる舟(ふね)が―流(なが)るとて〕
 〔舟(ふね)こそ―〇流(なが)るれ舟(ふね)が―流(なが)るれど〕
 〔舟(ふね)こそ―〇流(なが)るれ舟(ふね)が―流(なが)るかし〕
丗八[90] 不定言用格 六[上40]
 〔「物を定めず言ふ」何(なに)も無(な)し〕
 〔「数を定めず言ふ」幾箇(いくつ)も有(あ)り〕
 〔「人を定めず言ふ」誰(たれ)も知(し)る〕
丗九[94] 用格 七[上44]
 《これは水(みづ)が流(なが)るといふを指示す》
 ≪これは汲(く)むといへば水(みづ)を指示し堰(せ)くといへば流(なが)るを指示す≫
 〔水(みづ)が流(なが)る《然る》に≪其(そ)れ≫を汲(く)む/堰(せ)く〕
四十[95] 形状言用格
 〔水(みづ)が―清(きよ)し/けし〕 十三[上120]
 〔水(みづ)の清(きよ)さ〕
 〔水(みづ)清(きよ)み人(ひと)も来(き)て汲(く)む〕
 〔水(みづ)が清(きよ)けん〕 チ[上126]
 〔水(みづ)が清(きよ)げに/なり〕
 〔水(みづ)が清(きよ)かり〕
 〔人(ひと)が水(みづ)を清(きよ)がる〕
四十一[97] 用言比較表 此表にて用言断続の別(わか)ちを見合すべし
 将然格 続用言  用体言 切断言 続体言  已然格 希求言
【ク】[98] 四段活 み
   引〔ひ〕か(一)ば 引く(四)とも 引〔ひ〕き(二)出〔だ〕す
   引〔ひ〕き(二)出〔だ〕し 引〔ひ〕く(三) 引〔ひ〕く(五)弓〔ゆみ〕
   引〔ひ〕け(六)ば/ども 引〔ひ〕け(七)
【ヤ】[100] 一段活 し
   着〔き〕(一)ば 着〔き〕る(四)とも 着〔き〕(二)旧〔ふる〕す
   着〔き〕(二)旧〔ふる〕し 着〔き〕る(三) 着〔き〕る物〔もの〕
   着〔き〕れ(六)ば/ども 着〔き〕よ(七) 
【マ】[100] 中二段活 ゑ
   起〔お〕き(一)ば 起〔お〕く(四)とも 起〔お〕き(二)上〔あが〕る
   起〔お〕き(二)上〔あが〕り 起〔お〕く(三) 起〔お〕くる(五)朝〔あさ〕
   起〔お〕くれば/ども 起〔お〕きよ(七)
【ケ】[101] 下二段活 ひ
   得〔え〕ば 得〔え〕(四)とも 得〔え〕(二)難〔がた〕し
   得〔え〕(二)難〔がて〕 得〔う〕(三) 得〔う〕る(五)宝〔たから〕
   得〔う〕れ(六)ば/ども 得〔え〕よ(七)
【フ】[104] 変格活 も
   来〔く〕(一)ば 来〔く〕(四)とも 来〔き〕(二)始〔はじ〕む
   来〔き〕(二)始〔はじ〕め 来〔く〕 来〔く〕る(五)人〔ひと〕
   来〔く〕れ(六)ば/ども 来〔こ〕(七)
【コ】[110] 形状言 十三
   清〔きよ〕く(二)ば/とも 清〔きよ〕く(二)流〔なが〕る
   空〔むな〕しく(二)ば/とも 空〔むな〕しく(二)消〔き〕ゆ
   清〔きよ〕水〔みづ〕 清〔きよ〕し(三) 清〔きよ〕き水〔みづ〕
   空〔むな〕し言〔ごと〕 空〔むな〕し(三) 空〔むな〕しき(五)言〔こと〕
   清〔きよ〕けれ(六)ば/ども 清〔きよ〕かれ
   空〔むな〕しけれ(六)ば/ども 空〔むな〕しかれ
【エ】[114] 助用言
   [115] 将言 ホ
   〇 〇 引〔ひ〕かん(二)の 引〔ひ〕かん(三) 引〔ひ〕かん(五)弓〔ゆみ〕
   引〔ひ〕かめ(六)ば/ども 〇
【テ】[116] 第二将言 右同
   〇 見まく(二)欲〔ほ〕し 〇 見まし(三) 見まし(五)を 見ましか(六)ば/ども 〇
【ア】[118] 不言 右同
   問〔と〕はず(二)ば/とも 問〔と〕はず(二)知〔し〕る
   問〔と〕はず(二)語〔がた〕り 問〔と〕はず(三) 問〔と〕はぬ(五)人〔ひと〕
   問〔と〕はねば/ども 〇
【サ】[119] 第二不言 右同
   〇 〇 忘〔わす〕れじ(二)の 忘〔わす〕れじ(三) 忘〔わす〕れじ(五)を 〇 〇
【キ】[122] 第三将言 ト
   〇 受〔う〕くべく(二)思〔おも〕ふ
   〇 受〔う〕くべし(三) 受〔う〕くべき(五)賜物〔たまもの〕
   受〔う〕くべけれ(六)ば/ども【原書は「とも」。誤刻として訂正】 〇
【ユ】[123] 第四不言 右同
   為〔す〕まじく(二)ば/とも 為〔す〕まじく(二)禁〔いまし〕む
   〇 為〔す〕まじ(三) 為〔す〕まじき(五)所行〔わざ〕
   為〔す〕まじけれ(六)ば/ども 〇
【メ】[123] 去言 ヘ
   〇 有〔あ〕りけ(二)ん
   〇 有〔あ〕りき(三) 有〔あ〕りし(五)昔〔むかし〕
   有〔あ〕りしか(六)ば/ども【原書は「とも」。誤刻として訂正】 〇
【ミ】[125] 竟言 右同
   流〔なが〕して(一)ば 流〔なが〕しつ(四)とも
   流〔なが〕して(二)見〔み〕る/ん/まし/き/けり 流〔なが〕しつ(四)べし/なり/めり
   〇 流〔なが〕しつ(三) 流〔なが〕しつる(五)水〔みづ〕
   流〔なが〕しつれ(六)ば/ども 流〔なが〕してよ(七)
【シ】[127] 畢言 右同
   流〔なが〕れな(一)ば 流〔なが〕れぬ(四)とも
   流〔なが〕れな(一)ん/まし 流〔なが〕れに(二)き/けり/たり  流〔なが〕れぬ(四)べし/なり/めり
   〇 流〔なが〕れぬ(三) 流〔なが〕れぬる(五)水〔みづ〕
   流〔なが〕れぬれ(六)ば/ども 流〔なが〕れね(七)
【ヱ】[130] 第三不言 ホ
   言〔い〕はざ() 言〔い〕はざ()
  言〔い〕はざら(一)ん/まし 言〔い〕はざり(二)き/けり 言〔い〕はざる(四)べし/まじ/なり/めり
   〇 言〔い〕はざり(三) 言〔い〕はざる(五)事〔こと〕
   言〔い〕はざれ(六)ば/ども 言〔い〕はざれ(七)
【ヒ】[131] 第二去言 ヘ
   〇 行きけら(一)ん 〇 行きけり(三) 行きける(五)道〔みち〕 行きけれ(六)ば/ども 〇
【モ】[132] 第二竟言 右同
   降〔ふ〕りたら(一)ば 降〔ふ〕りたり(二)とも
   降〔ふ〕りたら(一)ん/まし/ず/じ 降〔ふ〕りたり(二)き/けり 降〔ふ〕りたる(四)べし/まじ/めり
   〇 降〔ふ〕りたり(三) 降〔ふ〕りたる(五)雪〔ゆき〕
   降〔ふ〕りたれ(六)ば/ども 人〔ひと〕たれ(七)
【セ】[134] 第二竟言 右同
   落〔お〕つなら(一)ば 落〔お〕つなり(二)とも
   落〔お〕つなら(一)ん/まし/ず/じ/ざり 落〔お〕つなり(二)き/けり 落〔お〕つなる(四)べし/めり
   〇 落〔お〕つなり(三) 落〔お〕つなる(五)滝〔たき〕
   落〔お〕つなれ(六)ば/ども 実〔まこと〕なれ(七)
【ス】[137] 第四将言 ト-爰(ここ)に誌したるはそれぞれの事を上巻に挙げたる処と引き合せて見む為に上巻の目録の丁附けを挙げたるなり
   〇 見るめら(一)ん 見るめる(四)なり 〇 見るめり(三) 見るめる(五)花〔はな〕
   見るめれ(六)ば/ども 〇
加言】[139] 【複合サ変動詞・ク語法・「らん」の識別・あとがき】

 右の目録は、本書なる「言語構造式」の原図を少し換へて出せり。捜索の目録を兼ねて、言語組織の順序をして一目瞭然たらしむる為なり。然して上巻の分類図よりも此の組織図のかたの換へたる処多きは、もと本書は目録のやうにして聊(いささ)か註を加へたるものなるが、今は此の下巻にて委しく説かむとするからに、註どもは不用になりたれば、それを略(はぶ)きて見易きやうに書き換へたるなり。然るに此書の本文は本書の註によりて説きたるものゆゑ、此目録とは違へるやうなる処あれど、妨げなきなりと知るべし。本書、即ち「言語構造式」を持たぬ人の為に爰(ここ)にことわり置く。
 さて緒言にもいへる如く、此書は己が一異見より成れるものなれば、人の聞き尤(とが)むべき名目どもの多き中に、此下巻は殊に新案のかた多ければ、ふと見ては妥当ならぬが如き名目のありがちなれば、或ひは人の厭ふにも至らん事を恐るるなり。然れどもそれが己の世に得意をもとめて誇らんとする所なれば、希(ねがは)くばさる心して読みてよかし。さてさはいふものの、なほたちかへりて思ひみるに、いかにすとも此書にて世の賛成を得ん事は、かたしとも難かるべし。依(より)ては早晩これに徴証し、昔より今世にわたり大かたの人のゆるせる歌・文章どもの誤謬あるを論(あげ)つらひて、己が此(この)「詞の組たて」にいふ所は僻説のみにはあらざるよしをはやく人に知らせてんと思ふは、吾(わが)日本語学の廃(すた)れはてたるを嘆きて、おふけなくもそれ救はんとする真心なるぞかし。

【補説】
 ここは目録であるが、末尾の文章は下巻の緒言にあたる。本書は『言語構造式』の注釈書であり、上巻が言語の分類図であるのに対し、下巻が言語の構造図であると両巻の位置付けを確認している。独自の新しい文法用語を多く使用していることについて「いかにすとも此書にて世の賛成を得ん事はかたしとも難かるべし」と悲観する一方で「それが己の世に得意をもとめて誇らんとする所」と並々ならぬ自負を披瀝している。「依ては早晩これに徴証し、昔より今世にわたり大かたの人のゆるせる歌・文章どもの誤謬あるを論つらひて、己が此詞の組たてにいふ所は僻説のみにはあらざるよしをはやく人に知らせてん」と、本書の所説の実証を企図していたことが分かる。その書は実現せず、本書の刊行は谷の没後であった。

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言語構造式註解【『言語構造式』は1884年(明治17年)刊の谷による小冊子】
詞の組たて下巻
谷 千生著

〈言語組織三格〔ゲンギヨソシヨクサンカク〕〉(ことばのくみたてかたのみつのさだまり)

 詞の組たてかたを論ずるにつきたては、其の手つづきに三格ある事を先づ心得べし。但し(ことばのくみたてかたのみつのさだまり)といへば、上巻に声音を元素に擬(なぞ)らへ称呼を天然物になぞらへ言語を構造品に擬(なぞ)らへて言ひたる事あるによく似たるゆゑ、見む人「その事なり」とな思ひ混(ま)がへそ。爰(ここ)にいへるは、其のうちなる構造品に擬(なぞ)らへたる言語の組織には、それを三格にわかちて示すべき事あるなりと知るべし。さるは先(まづ)第一に、言語を構造するにつきて其の準備にあつるもの、即ち(したごしらへ)なるものあるを備言といひ、第二にそのしたごしらへよりしあげて整頓せるもの、即ち(できあがり)なるものを整言といひ、第三にそのできあがりたるを応用するもの、即ち(いひつづけ)なるものありて、この時はさまざまに言ひ換へねばならぬものなれば、これを変化言といふなり。さて已上の如くにわかちて論ずるからに、これをば言語を組織するてつづきの三格とは言ふなりかし。されば次條より此の三格をわけて説きはじむるを見るべし。

十四
〈備言〔ビゲン〕〉(そなへごと)

 爰(ここ)に挙ぐるものを備言と名付けしは、言語のしたごしらへをなして備へて置くといふ意もあり、又それぞれの定格をもち備へたりといふ意もあるより、然(し)か号(なづ)けたるなりと知るべし。さてそのなりたちを言へば、先づ或る物名言を上に置き、其の下に備格助言どもを添へて、それぞれの備言となすものなる事、左の如し。

備言〈物名言 備格助言〉
 ―基格言〈物名言 基格助言〉
     ―△主格言〈物名言 主格助言〉
         ―賓格言〈物名言 賓格助言〉
            ―△奪格言〈物名言 奪格助言〉
            ―△与格言〈物名言 与格助言〉
 ―△間格言〈物名言 間格助言〉
     ―△間格第一言〈物名言 間格第一助言〉
     ―△間格第二言〈物名言 間格第二助言〉
     ―△間格第三言〈物名言 間格第三助言〉―△間格第三次言〈物名言 間格第三次助言〉
     ―△間格第四言〈物名言 間格第四助言〉―△間格第四次言〈物名言 間格第四次助言〉
     ―△間格第五言〈物名言 間格第五助言〉―△間格第五次言〈物名言 間格第五次助言〉
     ―△間格第六言〈物名言 間格第六助言類〉

 備言は右の如く、物名言を備格助言にて受けて成るものにて、それが先づ基格言・間格言と別れ、その基格言は主格言・賓客言と別れ、その賓格言は奪格言・与格言と別るるものとし、又、間格言は第一言より第六言までに別れ、その第三言・第四言・第五言には各次言あるものとす。さればすべては△印つけたる十二品なるなり。但し間格第六言はその助言が一つならねば、助言のかはりたるが幾品かあるなりと知るべし。
 さて已上の格をそれぞれ実物にあてて示せば、即ち本書【『言語構造式』18/41参照】に挙げたるものにて、基格言なる主格言は〈水〔みづ〕が〉、奪格言は〈舟〔ふね〕を〉、与格言は〈水〔みづ〕に〉といふ類(たぐ)ひ、又、間格言なる第一言は〈河〔かは〕を〉、第二言は〈河〔かは〕に(丹)〉、第三言は〈河〔かは〕に(尓)〉、第三次言は〈河〔かは〕に(尓)て〉、第四言は〈河〔かは〕に{尓}〉、第四次言は〈河〔かは〕へ〉、第五言は〈橋〔はし〕に[尓]〉、第五次言は〈橋〔はし〕と〉、第六言は〈河〔かは〕より〉〈河〔かは〕まで〉〈河〔かは〕から〉〈河〔かは〕ほど〉〈河〔かは〕ゆゑ〉〈河〔かは〕すら〉〈河〔かは〕ばかり〉〈河〔かは〕ながら〉といふ類ひなるなり。但しここに挙げたるものは、その物名言を皆単称言にしたり。然(し)かあるは、もと簡短なるを取りたるなれば、実用にあたりては複称言をもてする事あるも、もとよりなりと知るべし。かかればこの備言は、単称なるにも複称なるにもかかはらず、すべての物名言を取りて上に置き、其の下を備格助言にて受けて成るものにて、これが即ち言語を組織する三格のはじめなる準備にあたるものなるなりとしるべし。されば称呼をわけたる体言三品のうちなる物名言は、ここなる備言といふものにしたる上ならでは言語にならぬものぞといふ事を、確定して心に覚え置くをよろしとす。
 さてその備言どものそれぞれの持(もち)まへをいへば、基格言(もとのさだまりごと)といふは、次條の整言、即ち基言といふものを作るに入用なる備言なるなり。是れが別れて成る主格言(ぬしになるさだまりごと)といふは、その整言中の主格となるものにて、いかなる整言といへども此の備言を置かざるものは無き事にて、これなくては何事もことばをなさざるほどの要用なるものなるなりと知るべし。かくてそれに対する賓格言(あひてになるさだまりごと)といふは、主格の相手になる賓格にて、それが二つに別れたる、その一つなる奪格言(ぬしのうばふさだまりごと)といふは、即ち主格となるものがその相手にする処の此の奪格になるものの権利を奪ひて、その動きを己がままにするものとし、今一つなる与格言(ぬしのあたふるさだまりごと)と言ふは、これは主格となる物が同じくその相手にする処の此の与格となる物に己が権利を与へて、その動きをこれに任(まか)するものとす。此の二つは整言のおもむきによりてつかふものにて、主格の如くすべてにわたりて置かねばならぬものには非ざるなり。然れども其の組み立てかたよりいへば、与格言・奪格言の二つもまた入用なる処には無くてはならぬものにて、主格言に次(つぎ)て要用なるもの也と知るべし。
 さて間格言(はさむさだまりごと)といふは、基格言の如く整言を作るに必らず入用のものとは無くて、これはただ其の組み立ての都合によりて、整言中へさしはさみて置くまでのものなるなり。さればもしは之れを置かざるも妨げ無くて、さるは基格言が整言の基格を作るに必らず入用にて、もし之れを置かざれば語を成さぬものと成る類には非(あ)らざる也と知るべし。然してそれには第一言より第六言まで六品ある上に、次言といへるも三品あり。また第六言には本書に挙げたるすら八品ありて、なほ其余にもありげなれば、すべては二十品前後はあるべきなり。又、この間格言どものかたちをただに見たる処にては、第一言は奪格言と同じく、第二言・第三言・第四言・第五言の四品は与格言と同じくして、甚だ紛らはしきやうなれど、其の実は区別あきらかなるものなるなり。又、第二言より第五言までの四品の差別をいへば、第二言の助言は之れを言ひ換ふる事のならぬものとし、第三言・第四言・第五言の助言どもは、之れをそれぞれの次助言に言ひ換ふる事のなるものとするは、間格助言の処に言ひ置けるが如き違ひあるなり。その語例は間言格の処に挙げて示すを見よ。かくて第六言どものそれぞれ意の違ふ事も、これ又、間格助言の処にいへるを見るべし【本書上巻55/133「第六間格助言」参照】。さればこの間格言どもは、整言の処にてはいまだ入用ならずして、それを応用するもの、即ち基格整言を変化せしむるに入用なる備言なりと知るべし。

【補説】
 「目録」の最後で下巻を「言語の構造図」を示すと位置付けた谷は、ここの「言語組織三品」において「言語構造」が「備言」「整言」「変化言」の三品から組織されるとしている。谷の言う「備言」「整言」「変化言」は簡明な説明が難しいが、「備言」は「文節の生成(但し述部を除く)」、「整言」は「文の生成(但し用言のみによる終止形終止に限る)」、「変化言」は「生成された文の変成」と考えてよいかと思う。「備言」は具体的には物名言(今でいう名詞)に助言(今でいう助詞)がつくことで様々になされると谷は説明している。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・声音:音韻
・称呼:単語
・物名言:名詞
・助言:付属語
・体言:活用のない語

4118

十五
〈整言〔セイゲン〕〉(ととのへごと)

 爰(ここ)に挙ぐるものを整言と名付けしは、前條のしたごしらへなる備言を用ゐ、それにしあげのわざを加へ整頓せしめて、即ち言語ができあがりになりたりといふ意にて然(し)か号(なづ)けたるなりと知るべし。さてそのなりたちは、備言と作用言とにて成るものとす。左の如し。

整言基格
  ―自動格―〈主格備言―作用言 自動言切断活〉
    ―自被動格―〈主格備言 与格備言―作用言 自被動言切断活〉
    ―自使動格―〈主格備言 与格備言―作用言 自使動言切断活〉
  ―他動格―〈主格備言 奪格備言―作用言 他動言切断活〉
    ―他被動格―〈主格備言 奪格備言 与格備言―作用言 他被動言切断活〉
    ―他使動格―〈主格備言 奪格備言 与格備言―作用言 他使動言切断活〉

 整言の基格は右の如く、基格備言を作用言の六種にて受けて成るものにて、それは先づ自動格・他動格の二つに別るるものなるが、その自動格は備言の主格を直ちに作用言の自動言にて受けて成り、他動格は備言の主格の下へ今一つ、備言の奪格を加へたるものを作用言の他動言にて受けて成るものとし、又、此の二格より別れて被動格二つと使動格二つとになるものとす。さて然(し)か二つづつに成るわけは、作用言の被動言・使動言の所にていひ置きつる如く、もと此の両言は自動言・他動言のいづれよりも来たるものなれば、其の原言なる自他の字を冠らせてその来たる処を別(わ)かてば各二言づつになる故、ここの格も又二つづつに成るなりとしるべし。さればその自動格より別れて成るものは、自動格にならひて先づ備言の主格を置き、その下へ今一つ備言の与格を加へたるものを作用言の自被動言にて受けてなるものを自被動格とし、自使動言にて受けてなるものを自使動格とし、又、他動格より別れてなるものは【原書は「もは」。「の」の脱と見て補う】、他動格にならひて先づ備言の主格と奪格とをかさね置き、その下へ今一つ備言の与格を加へたるものを作用言の他被動言にて受けて成るものを他被動格とし、他使動言にて受けて成るものを他使動格とする事にて、已上の六格を整言の〈基格〔キカク〕〉(もとのさだまり)とはいふなりと知るべし。
 さてそれ等の格へそれぞれ実物をあてて示せば、即ち本書【『言語構造式』19/41参照】に挙げたるものにて、自動格は〈舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉〉といふ類(たぐ)ひ、他動格は〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉といふ類(たぐ)ひ、自被動格は〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕に流〔なが〕れらる〈三〉〉といふ類(たぐ)ひ、自使動格は〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕に流〔なが〕れさす〈三〉〉といふ類(たぐ)ひ、他被動格は〈舟〔ふね〕が身〔み〕を水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉といふ類(たぐ)ひ、他使動格は〈舟〔ふね〕が身〔み〕を水〔みづ〕に流〔なが〕さす〈三〉〉といふ類なりと知るべし。これをその備言と作用言との意につきて悉(ことごと)しくいへば、主になる舟といふものが自体の(流るる)といふ動きをなすをば自動格といひ、主になる水といふものが客になる他体の舟といふものの権利を奪ひてその他体を(流す)といふ動きをなすをば他動格といひ、主になる水といふものが客になる他体の舟といふものに権利を与へて、その他体よりいへば自らする動きよりきたる(流れらる)といふ他にせらるる事か、(流れさす)といふ他にせさする事かの動きをなすをば自被動格・自使動格といひ、主になる舟といふものにして先づ客に比すべき身といふものの権利を奪ひたるものが、今一つ別の客になる他体の水といふものに権利を与へて、その他体よりいへばまた他なる主よりする動きより来たる(流さる)といふ主のせらるる事か、(流さす)といふ主のせさする事かの動きをなすをば他被動格・他使動格といふなり。
 さて此事は初学にはすこしく悟りがたきかたもあるべけれど、よく心をひそめていくかへりも読み味ひなば、やがて明(あきら)かに弁(わきま)へられて、世に完全なる定めも見えざる詞の自他の事は、作用言なる自・他・被・使の四言を解きたる処【本書上巻89/133「自動言・他動言」同96/133「被動言・使動言」参照】と此の処とにて、惑はんふしも無くたしかに心得らるるやうになりぬべきものぞかし。
 さても本書には他被動格・他使動格の処に〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉/さす〈三〉〉と挙げて、その奪格なる〈身〔み〕を〉といふ事を略したれば、これを怪しむ人もあらん。よりてことわり置かむ。もとより然(し)か略したるが本格にはあらず。こはその主格なる舟よりいへば、奪格なる身といふものは全くの他体にはあらざるゆゑに、これを略しても聞(きこ)ゆるからさる格もままあるより、その略格にて示せるなり。然れどもたとへば自被動格にて〈人〔ひと〕が舟〔ふね〕を水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉といふ如きは、その奪格なる「舟を」といふを略(はぶ)く事は決してならざるものなるは、主なる人と客なる舟とは全く他体なる故なるなり。されば主となり客となるものが全くの他体ならぬとき略(はぶ)きていふ事もあれど、そはなほ言外にこもりてあるものにて、此の格は必らず奪格を備へざれば語をなさぬものなりと心得てあるべし。
 又、已上に挙げたる整言の実例どもの作用言の傍に(三)の字を附したるは、これぞ作用言の断続格を示す処【本書上巻75/133「作用言」参照】にて約束し置きたる、数量字をもて断続の名称にあてたる、其の切断活にあたるものにて、此の基格整言は既に挙げ置きたる如く、その作用言を必らず切断活にすべきものなるから、即ち(三)の字を附し〈流〔なが〕る〈三〉〉〈流〔なが〕す〈三〉〉〈流〔なが〕れらる〈三〉〉〈流〔なが〕れさす〈三〉〉〈流〔なが〕さる〈三〉〉〈流〔なが〕さす〈三〉〉と誌して、みな切断活なる事を知らしめたるなりとしるべし。
 さてかく簡短なる六格の整言が煩雑かぎりもなき千言万語のいひつづけのもとをなすものなれば、これを基格といふ事にて、それが然(し)か煩雑なるものになり行くにも、又、規則あるをば〈変化格〔ヘンクワカク〕〉(かはるさだまり)といひて、それは助言の略称と備言の転置と間言の挿入と助体言中の整格助言の扱ひ等によりて成るものなること、次條より解き起(おこ)すを見るべし。

【補説】
 ここで谷は「整言」について説明している。「基格整言」は、述語となる動詞の自・他と被・使の組み合わせにより6種類に分類され、それぞれ文の基本的な形、「基格」であるとしている。「基格整言」はただ主語と述語が単純に結合されるだけであり、活用形も「〈三〉切断活(終止形)」に限られ、形容詞も助動詞も一切加わらない。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・作用言:動詞
・切断活:終止形
・断続格:活用
・助言:付属語
・助体言:助詞

4119

十六
〈助言略称格〔ヂヨゲンリヤクシヤウカク〕〉変化第一格(てにはをはぶくさだまり)

 此格は前條に示したるしかたにて出来たる整言中の或る備言の助言を略(はぶ)きて言ふ事もあるよしを示すものにて、其の事は本書【『言語構造式』20/41参照】に『主格の〈が〉と奪格の〈を〉は略(はぶ)く。然るに与格の〈に〉は略(はぶ)く事なし。但し間格の〈に(丹)〉等は略(はぶ)く事あり』と註し置きたるにても知らるべき事にて、その語例をば〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕流〔なが〕す〈三〉〉〈水〔みづ〕舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉と挙げたるは、この註したる意を整言の他動格なる〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉とある中にて、その主格の〈が〉と奪格の〈を〉【原書は「を(傍線なし)」。脱と見て括弧を付す】とを略(はぶ)きたる二例を示せる也。然るにこれは主格と奪格と一つづきなる整言にてその一方の助言を略(はぶ)きたる例なるが、もし甚しく詞の迫りたるいひかたには、両方とも略(はぶ)きて〈水〔みづ〕舟〔ふね〕流〔なが〕す〈三〉〉とやうに言ひてもさしつかへ無き事もとよりなり。
 さても已上の事は他動格をもてその例を示したるなれども、此の格には拘(かかは)らず、主格は整言の六品におしわたしてあるものなれば、いづれの格にても主格の〈が〉は略(はぶ)きて言はるる事にて、譬へば自動格にては〈舟〔ふね〕流〔なが〕る〈三〉〉といひ、他被動格にては〈舟〔ふね〕水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉といふ類なりと知るべし。然るに註に言ひ置ける如く、与格の(に)は決して略(はぶ)く事無きものなるはひとつの定格なるを、それとは違ひて間格の(に(丹))等は略(はぶ)く事あれど、それは又一格にて、集合助言・分別助言等にて受くる時にあるものなる事は、それぞれの処にて示すを見て知るべし。さてこれをば変化の第一格とす。

十七
〈備言転置格〔ビゲンテンチカク〕〉変化第二格(そなへごとをおきかふるさだまり)

 此格は整言の備言を転置していふ事あるを示すものにて、整言中の備言の位置は既に示せる基格六品の如くなるが定格なるを、言ひつづけのさまによりては自在にその位置を換ふる事も出来るものにて、本書【『言語構造式』20/41参照】に〈舟〔ふね〕を水〔みづ〕が流〔なが〕す〈三〉〉〈水〔みづ〕に舟〔ふね〕が流〔なが〕さる〈三〉〉と挙げたるは、即ち〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉〈舟〔ふね〕が水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉といふべきを、主格と奪格・与格との位置を換へたるを示せるなり。こは基格にていへば自動格には無くて他動格已下にあるものなれども、其等は簡短なる整言なれば、転置したる備言をもとの格にかへして見むとするも容易にして紛らはしき事も無きを、次條の間言格にてさまざまなる間格言をさしはさみていと長くなりたるを此の格になしたるものなどには甚だ紛らはしきがありて、もとの格にかへして見る事のやや難げなるもあるゆゑ、古歌・文章等にてそれをつとめてもとの格にかへしてみるも、初学にして語格を研究するの一助にはなるべし。さてこれを変化の第二格とす。

十八
〈間言格〔カンゲンカク〕〉変化第二格(はさみごとをつかふさだまり)

 此格は基格の六品なる整言の中へ備言の処にていへる間格言の十六品と時日名言・数量名言・形容言の三品とをさしはさむ格なり。本書【『言語構造式』21/41参照】に挙げたる語例は基格整言六品の中なる自動格の主格と作用言との間へさしはさみたる例にて、即ち第一言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕を{第一言}流〔なが〕る〈三〉〉、第二言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕に(丹){第二言}流〔なが〕る〈三〉〉、第三助言及びその次言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕に(尓)/に(尓)て{第三言及次言}流〔なが〕る〈三〉〉、第四言及び其の次言をはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕に{尓}/へ{第四言及次言}流〔なが〕る〈三〉〉、第五言及びその次言をはさめるは〈舟〔ふね〕が橋〔はし〕に[尓]/と{第五言及次言}成〔な〕る〈三〉〉、第六言どもをはさめるは〈舟〔ふね〕が河〔かは〕より/から{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉といふ二つをのみ挙げたれど、なほ其の外を挙ぐれば、〈田舟〔たぶね〕が河〔かは〕まで{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈雨水〔あまみづ〕が河〔かは〕ほど{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈舟〔ふね〕が河〔かは〕ゆゑ{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈大舟〔おほぶね〕が河〔かは〕すら{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈小舟〔こふね〕が河〔かは〕ばかり{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉〈海〔うみ〕の舟〔ふね〕が河〔かは〕ながら{第六言}流〔なが〕る〈三〉〉の類なり。時日名言をはさめるは〈舟〔ふね〕が今日〔けふ〕{時日名言}流〔なが〕る〉、数量名言をはさめるは〈舟〔ふね〕が一〔ひと〕つ{数量名言}流〔なが〕る〈三〉〉、形容言をはさめるは〈舟〔ふね〕が又〔また〕{形容言}流〔なが〕る〉等の如し。爰(ここ)に挙げたる時日名言・数量名言・形容言の三つも、間格言の中にかぞふるものなるを知るべし。
 さて已上に挙げたるものにてその間格言を略(はぶ)きていひ試みよ。いづれも基格の自動格なる整言になりて、間格言はもとさしはさみたるものなれば、略(はぶ)きてもその組織上に妨げ無くして、同じ備言にても基格備言とは性質の違へるものなる事を悟らるるなるべし。かくて此の間格言の置き処を示さば、基格備言と作用言との上に置くものにて、既に示したるものは皆作用言の上に置きたる例どもにて、備言と作用言との間へさしはさめるものなるを、もし是れを基格備言の上に置く例にする時は、即ち主格言の上へまはす事にて、たとへば〈河〔かは〕を{第一言}舟〔ふね〕が流〔なが〕る〈三〉〉〈河〔かは〕ほど{第六言}雨水〔あまみづ〕が流〔なが〕る〈三〉〉〈又〔また〕{形容言}舟〔ふね〕が流〔なが〕る〉といふ類にて、その整言が間格言をかむる事になるなり。さればこれを言ひ約(つづ)むれば、冠(かむ)ると挿(はさ)むとの二つなるが、その挿(はさ)むかたにてなほ示さむに、たとへば主格と奪格との間へはさみては〈水〔みづ〕が河下〔かはしも〕へ{第四言}舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉といひ、これを奪格と作用言との間へはさめば〈水〔みづ〕が舟〔ふね〕を河下〔かはしも〕へ{第四言}流〔なが〕す〈三〉〉と成り、主格と与格との間へはさみては〈舟〔ふね〕が河下〔かはしも〕へ{第四言}水〔みづ〕に流〔なが〕さる〈三〉〉となる類なれば、此の外は准(なぞら)へて知るべし。
 又、間格言のつかひかたは、然(し)か基格整言の一箇処へ置くに限るものにはあらず。二言已上、幾言にても随意に置くべし。たとへば〈河〔かは〕ほど{第六言}雨水〔あまみづ〕が庭〔には〕に{第四言}流〔なが〕る〈三〉〉といひ〈雨〔あめ〕に(尓)て{第三次言}水〔みづ〕が河上〔かはかみ〕より{第六言}舟〔ふね〕を河下〔かはしも〕まで{第六言}流〔なが〕す〈三〉〉と言ふ類ひの如し。又、然(し)か幾言を置きても宜しきにつきては、爰(ここ)に挙げたる如く、先づ一つ冠(かむ)らせて次々一つあてさしはさむとやうに、必らず間配りて置かねばならぬといふにても無く、都合によりては〈雨〔あめ〕に(尓)て{第三次言}河上〔かはかみ〕より{第六言}河下〔かはしも〕まで{第六言}水〔みづ〕が舟〔ふね〕を流〔なが〕す〈三〉〉といひ、又は〈雨〔あめ〕に(尓)て{第三次言}水〔みづ〕が舟〔ふね〕を河上〔かはかみ〕より{第六言}河下〔かはしも〕まで{第六言}流〔なが〕す〈三〉〉といひてもよきが如く、その言ひつづくるときのさまによりて間格言を或る一箇処へまとめても置き、又は或る一箇処に幾言かをまとめ置きて、其外なる一・二箇所へ一・二言置くなど、随意になして宜しきなりと知るべし。但し然(し)か随意にして宜しきなりとは言へども、此の間格言の置きやうと助言略称格なる助言の略(はぶ)きかたと備言転置格なる備言の置きかへさまとにて、歌なり文章なりの巧拙は定まるものなれば、よく注意してみだりにはなすべからざるものなるぞ。
 さても変化格にて第一格よりこの第三格までは、ただ備言にて基格が変化するものなるを、次條よりはじめて整格助言といふものをつかひて成る変化格に説き至れる也と知るべし。

【補説】
 ここから「変化格」についての説明が始まり、ここで谷は第一から第三の変化格を説明している。助言(助詞)を省略するのを助言略称格、文節の位置をかえるのを備言転置格、文節を挿入するのを間言格としている。
 以下、用語対照表を示す(左 本書独自の用語:右 現在の一般的用語)。
・助言:付属語
・名言:名詞
・作用言:動詞

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