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カテゴリ:地誌・地方史 > 校訂『三重県地理教科書』(1890刊)

校訂『三重県地理教科書』(1890年刊)


凡 例

  1:底本は『三重県地理教科書』(梅原三千・玉置毅三郎 共遍著 1890(明治23)年刊)です。
  2:カタカナをひらがなに改め、濁点・句読点・送り仮名を適宜加除し、極力統一しています。
  3:地名等、固有名詞についてはそのままカタカナとしました。
  4:底本の括弧はそのまま用い、傍線は【 】、傍点は《 》で示しました。
  5:本文中の細字二行注は { } 、ただ一カ所ある頭注は [ ]  で示しました。
  6:底本本文左右のふりがな・語釈は (ふりがな:語釈) と示しました。
  7:図表はサイズ上限を設定し、それを超えるものは縮小してあります。
  8:伊勢・伊賀・志摩・牟婁の各「地名略表」は割愛しました。
  9:本コンテンツは『三重県地理教科書』をより多くの方に読んで頂き、今から約130年前の日本(三重県および学校(小学校高等科・温習科)教育)の現実の一端を知って頂くために作成したものです。学術的な厳密さに欠けるかとは存じますが、ご容赦頂きますようお願い申し上げます。

 凡例
一 本書は県内高等小学校及び尋常小学温習科の教科用に供ずる目的を以て編輯せる所にして、其の体裁は専ら本県尋常師範学校附属小学の教案に参考し且、二三の卓識なる教育者の意見に従ひて組み立てたり。
一 人口・戸数・里程・面積及び、山の高さ・川の長さ等は、本県最新の統計表に拠りて記載せり。
一 南・北牟婁郡の面積は、明治二十年の三重県治一覧には七十六方里とあれども、同年の統計表には六十八方里とあり。蓋し、皆実測せしものにあらざれば、到底正確のものあらず。故に最新の南北牟婁全図に拠りて、仮りに六十二方里と記載せり。
一 地図は三重県管内全図によりて調製し、其の県外に係る部分は、文部省蔵版の日本帝国全図に拠れり。
一 木曽川工事は非常の土工にして、其の完全は尚数年の後を期せざるべからず。故に目下、既に竣功せる部分のみ水路を改め、其他は従来の形勢を描けり。
明治廿三年一月 梅原三千 識

教師の注意
一 児童に地理を授くるは、地上に羅布排列せる事実上の概念を与へ、以て農・工・商業等、人生の業務を資するにあり。之を授くる法、先づ自然物の位置・形状等を知悉せしめ、而る後、人為的事実に及ぼすべし。
一 自然物の位置・形状等を知悉せしむるは、之を地図の観察にとらざるべからず。即ち、地図其物によりて、山岳の高く中天に聳峙する、或は江河の溶々として奔流する、或は蒼海の淼々として涯なく水天相接する、或は平原茫々沃野千里なる等を想見して、能く真に迫るの画図を心裡に映出せしめざるべからず。是れ児童が日常目撃せる教室・学校及び、学校近傍の地理に基を開きて、是等の理解力を啓発せしむる所以なり。
一 教室・学校及び学校近傍の地理は、各校・各地、皆異なるが故に、此編仮に理想的構成のものを掲げて、其の教授法の一例に供す。
一 世の教育者謂ふ、「地学教授に費す時間は、其半を以て地図研究に充つべし」と。蓋し地図によらずば、児童をして自然物の位置・形状・高低・遠近・広狭等を会得せしむること能はざればなり。故に此編、各国の首に地図研究の目を置き、問題を掲げ、生徒の観察研究に便す。但し其の問目甚だ少きが故に、教師宜しく更に数多の疑問を発して、生徒をして其の力の能ふ限り精密に研窮せしむべし。
一 地理教授の法、自然の順序に従ふべきは勿論、尚彼是相関の理を悟らしむべし。故に、山脈を説くや木材・鉱物の産出及び其気候に及ぼす関係を記し、川流を説くや舟楫・灌漑の便否を述べ、都邑を説くや交通の便否、製造物品等を記す。
一 物の形状を容易に記臆せんには、先づ之を画くに熟するを要す。故に生徒をして時々地図を画かしむべし。此編の描図法の一斑を掲げて教授者の参考に供す。
一 教科書を用ゐて地理を教授するや、世間往々、章句暗述の弊に陥る者あり。然れども是を以て「教科書を用るは不可なり」といふは、書物教授の術を知らざる者なり。蓋し彼の筆記教授に於て諸観念を啓発し、而る後、備忘の為筆記せしむる場合に於て、書物を出し購読せしめば、則ち彼の弊に陥らざるのみならず、時間に経済にして且児童予習に便を与ふること多々なるべし。
明治二十二年十月 編者識

挿絵003

第一
(一)方位
東 日の出る方をいふ。
西 日の入る方をいふ。
南 東に面するときは右手の方なり。
北 東に面するときは左手の方なり。
以上を四方と言ふ。
東北 東と北との中間をいふ。
東南 東と南との中間をいふ。
西南 西と南との中間をいふ。
西北 西と北との中間をいふ。
以上を間位と言ふ。

挿絵006 挿絵007R2

(二) 距離
此の長さを一寸といふ。
尺 十寸を一尺と言ふ。
間 六尺を一間と言ふ。
町 六十間を一町と言ふ。
里 三十六町を一里と言ふ。
 □□より□□に至る距離は、□里□町□間□尺あり。

第二 一年生教室
位置 □□学校の□□□にあり。
形状 長さ□間、幅□間、面積□□坪ありて長方形をなす。
壁・窓 四方皆壁にして、南側の東方に壱間の出入口あり。北側には□個の窓あり。
器具 生徒用机□脚、腰掛□脚ありて、左・右・中の三側に分つ。外に教師用机一脚と黒板二枚あり。
 上の図は教場を上より見下したるものなり。斯くの如く地を上より見下す図を地図といふ。地図は必ず上部を北とす。

挿絵007L

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第三 □□高等小学校
位置 □□町の□□□にあり。
境界 北は□町通りにして、西は□□に接し、南は□□に境し、東は□□に接す。
形状 東西□□間、南北□□間にして、面積□□□坪あり。其形は長方形なり。
建物 校舎は凹字形にして、東と西との二棟は各長□間、幅□間、西の一棟は長□□間、幅□間にして□□坪あり。
東・南の二棟に八教室あり。西の一棟に事務所・教員室・唱歌室・理科教場・手工室・裁縫室あり。
 小使室は校舎の西にあり。倉は南にあり。
運動場及び花園 建物のある外の地所は運動場にして、其中、花園は校舎の北にあり。運動場に多く桜あり。
周囲 学校の周囲には柵あり。北の門を正門とし、南の門を裏門とす。

挿絵008

第四 □□町地理
位置 □□□の□□部にあり。
境界 
(一)北 田畠を隔てて□□山脈に対す。
 山とは周囲の地より大に高き所にして、其の長く連れるを《山脈》といふ。
(二)西 □□川によりて□村に接す。
 《村》は人家の集りたるを言ふ。村よりも繁盛にして市店多きを《町》といひ、町の大なるを《市》といふ。
 川とは水の地上を流るるものをいふ。
(三)南 海に臨む。海岸に□□港・□□崎あり。
 《海》とは陸地諸水の注入を受る水の一体を言ふ。陸地の海に沿ふ部分を《海岸》といふ。《港》とは海水の陸地に入りて船の碇泊に便なる所をいふ。《崎》とは陸地の海中に斗出したる所をいふ。
(四)東 □□川を以て□□村に接す。
形状 略方形をなし、東西□□町、南北□□町あり。
区画 □□ケ町あり。町名左の如し。
  □町 □町 、、、、、、
戸口 □□戸 □□□人
官衙 郡役所は□□町にあり。登記所は□□町にあり。警察署は□□町にあり。郵便電信局は□□町にあり。
学校 □□町にあり。
商社及び工場 □□社は□町にあり。□□製造場は□町にあり。□□の製造盛なり。
生業 商業は重なるものにして、工業之に次ぐ。
産物 □□□□等を重要の産物とす。
 [附説]公園は□□にありて四時の景色好く、□□神社は□□にあり、□□を祭る氏神にして、□月□日に祭典を行ふ。
 此町の繁華なるは、海に浜して□□港の船の碇泊に便なると、□□より□□に往来する通路に当るが故なり。
 此町の近傍に多くの村あり。町村の集りたるを《郡》といひ、郡の集りたるを《国》といふ。《県》は大抵国の集りたるものなり。
  町村には長ありて郡長の支配を受け、県に知事ありて一県を治む。市は三重県下にては津のみなり。市には市長あり。郡長の支配を受けず。

挿絵009

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描図法
描図に必要なる器具は、定木・尺・鉛筆及び料紙とす。其他顔料を用ゆることあれども、微密なる彩色図は却て用なし。
描図を教ふる順序、左の如し。
 基罫 精密に基罫の製作方を説くべし。
 符点 基罫上に符点を記し、点と点とを結合して形状の大体を知らしむべし。
 外周 岬崎・港湾・島嶼及び外囲の山脈等を説きて、其外周を記すべし。
 内部 山の位する所、河の趣く所等を説きて之を記せしめ、而る後、都邑の位置、政治上の区画等を図せしむべし。

伊勢国を図する法
1234なる長方形の外線を画すべし。
適宜の寸法を以て縦横線を長方形内に画す。是れ基罫なり。
基罫中、イ・ロの両点を結合すべし。是れ西境なり。イ・ハを結合すれば北境なり。ハ・ニ・ホを結合すれば内海に面する部分なり。ホ・ヘを結合すれば志摩の国境をなし、ヘ・トを結合すれば外洋に浜する面、ト・ロを結合すれば牟婁の境をなす。
次にイ・ロの線を目標として、西境を図するに曲線を以てすべし。其他の諸境これに従ふ。
左に挙ぐる山岳を画きて、他山岳の位置を定むる元標とす。
 三国岳(一) 加太山(二) 高見山(三) 大台原山(四)
川流・池沼を画くには、左の諸川を目標とすべし。
 町屋川(1) 三重川(2) 鈴鹿川(3) 安濃川(4)
 雲出川(5) 櫛田川(6) 宮川(7)
左の都邑を目標として他の都邑を記すべし。
 桑名(い) 四日市(ろ) 白子(は) 津(に) 松坂(ほ) 宇治山田(へ)
各郡界は山川の配置に従ひて之を画くべし。
此他の諸国の描図法は右に準ず。今其の外囲線と目標とすべき物件の符点を記して教授者の参按に供す。教授者自ら工夫して、更に軽便なる描図方を用ゐんことは編者の切に希望する所なり。
重ねて教授者に注意を願ふ所は、山川・都邑・港湾の描図は、必ず之に関する問答を以て端緒を開くを要すること、是なり。

挿絵013

挿絵014

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