江戸期版本を読む

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カテゴリ:地誌・地方史 > 校訂『三重県地誌要略』(1888刊)

【公転】地球は又毎年太陽の周囲を西より東に一廻す。之を地球の公転と言ひ、公転の径路を軌道と言ふ。公転は自転をなしつつ廻転するものなれば、此の二廻転は常に相伴ひて暫くも止むときなし。
[地球が自転をしながら公転するは、恰も独楽の廻旋しながら或る灯火の周囲を運転するが如し。]
【四季及び昼夜長短】地球公転するや、地軸は軌道と直角をなさずして常に六十六度半の交角をなすを以て、一年の中日光を斜に受くると直に受くるとの別をなす。日光を直に受くるときは其の熱量多くして暑く、斜に受くるときは其の量少くして暑からず。此れ四季の別を生ずる所以なり。又此の交角をなせる為めに、地球の自転によりて太陽に面する間の長短を生ず。是れ一年中に昼夜に長短ある所以なり。
[度・分・秒を数字に現はすときは、符合゜・′・″を用う。之を例へば二十度五十分三秒を数字に示すときは、20°50′3″なり。]

挿絵012

【説明】図中、日は太陽にして、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)は軌道上地球の公転したる位置を示すものにして、矢は其の方向を示すものなり。地球(ハ)にあるときは、北半球は日光を直線に受け、且其の自転して日に向ふ間は日に背く間より永き故に、此の時は北半球の夏にして夜短く、南半球は之に反して冬となり夜長し。又地球(ニ)にあるときは、日光地球の中央に直射する故に、南北両半球共に其の熱を受くること相等し。即ち北半球は秋にして南半球は春となり、此のときは地球上皆昼夜の長短なし。(イ)に至るときは正に(ハ)の反対にして、南半球は夏にして北半球は冬なり。(ロ)にあるときは(ニ)の反対にして、北半球は春にして南半球は秋なり。

【地球儀及び地図】地球全体を摸擬したる器具あり。之を地球儀と言ふ。又其の全体或は一部分を平面に画きたる図を地図と言ふ。地図は地球表面を空中より直視したる図にして、符号を以て、海・陸・山・川・都・邑等を現はしたるものなり。即ち著色したる部分は陸にして、白色なる所は海なり。其の他符号は図に付て其の実景と照し見るべし。総て地図は上部を北とし下部を南とするを常とす。

挿絵013L

又、地球全体を地図に現はすときは、之を東西両半球に分つを常とす。此の図は即ち両半球の地図にして、地球上の海陸を悉く現したるものなり。東半球には亜細亜・欧羅巴・阿非利加・澳斯太里の四大洲と数多の島嶼とあり。又西半球には北亜米利加・南亜米利加の二大洲と其の他の島嶼とを見るべし。

挿絵014

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【経線・緯線】図上に画きたる縦横の線は、土地の位置を示す為めに仮りに想像して画きたるものにして、其の縦線を径線又は子午線と言ひ、横線を緯線と言ひ、最も中央にある緯線を赤道と言ふ。一年中日光の直射する所なり。此の諸線は地球の周囲を三百六十度に分ちたるものにして、其の線と線との間を一度と言ふ。一度を更に六十に別ちて之を分と言ふ。更に分を六十に分ち其の一を秒と言ふ。今之に由て某地の位置を語るには、緯線は赤道を基本として、之より南北に数へて「某地は北緯(或は南緯)何度何分何秒にあり」と言ふ。子午線は英国グリインウヰツチの司天台を本として之より東西に数へ、「某地は東経(或は西経)何度何分何秒にあり」と言ふなり。
[経度一度を距るの地は四分時の時差あり。]

挿絵013R

【夏至線及び冬至線】赤道より南北二十三度半の所にある緯線を二至線と言ふ。其の北にあるを夏至線と言ひ、南にあるを冬至線と言ふ。是れ一年中太陽の光線直射するの限界なり。
【極圏】又、極より各二十三度半の所にある緯線を極圏と言ふ。是太陽一箇の至線上にあるとき、光線の達する限界なり。故に極圏以北は半年は夜にして半年は昼なり。
[極圏以北の夜は此の地の夜の如く暗黒なるものにあらず。何となれば、熱なきを以て常に雲なし。ゆへに星光常に雪氷に映ずればなり。]

挿絵015

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【熱帯】二至線の間を熱帯の地と言ふ。此の地方は日光常に直射する故に、季候常に暖熱にして、椰樹・梹榔等の草木至る処に繁茂し、虎・豹・毒蛇の類甚だ多く、人民は衣服を著けずして其の皮膚黒色をなせり。

挿絵016R

【温帯】至線と極圏との間を温帯と言ふ。故に温帯は南北両帯あり。寒温其の中を得て四季の別あり。人生必要の五穀・植物能く熟し、牛・馬・家禽等有用の動物を産す。吾人の住居する所は即ち温帯中にあり。
[熱帯中は尽く同熱にあらず。温帯中尽く同温にあらざるなり。何となれば、土地の高低・山脈の勢・水陸の形勢により、其の熱度に差異を生ずればなり。]

挿絵016L

【寒帯】極圏より以北或は以南を寒帯と言ふ。寒帯は日光常に斜射するを以て其の季候甚だ寒く、細小なる灌木・苔蘚の外、植物を生ぜず。白熊・海豹等数種の外、動物を生ぜず。常に氷雪を以て充つ。

挿絵017R

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   第三課 人種及び生業
【人種】地球上に住居する人民は其の種類甚だ多しと雖も、之を六種に大別するを得べし。即ち、亜細亜に最も多きものを「蒙古人種」とし、其の南部にあるを「マレー」人種とす。阿非利加に最も多きを「エチピア」人種とし、欧羅巴にあるを「コーカサス」人種とす。ヲーストラリアにあるを「澳斯太里」人種とし、亜米利加にあるを「亜米利加」人種とす。而して吾人は蒙古人種に属するものなり。此等の人種が日々務むる所の生業は、其の種類甚だ多しと雖も、今其の内二、三を挙ぐれば左の如し。
[「マレイ」人と「ヲーストラリア」人とは殆んど同一なり。故に之を同一の人種とするも可なり。]

挿絵017L

【農業】田或は畑に於て穀物・野菜を耕種するを農業と言ひ、其の産物を農産と言ふ。我が国の如き土地平坦にして豊饒なる所に於ては、専ら之に従事するもの多し。
【漁猟】海浜に於て魚を捕ふるを漁と言ひ、山林に入りて禽獣を獲るを猟と言ふ。

挿絵018R

【牧畜】牛・羊・家畜を飼養・棲殖せしむるを牧畜と言ふ。地瘠せて田圃となすべからざる地に行はる。

挿絵018L

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【樵業】森林に入りて樹木を伐るを樵業と言ふ。
【掘砿】山中に入りて砿石を掘り出すを掘砿と言ふ。

挿絵019R

【製造】陶器・器械・織物等を製するを製造或は工業と言ひ、その場所を製造場と言ふ。主として都会の地に行はる。
【商業】以上諸産物を相互に交換するを商業と言ひ、外国人と商業をなすを通商又は交易と言ふ。運輸に便なる都邑に盛なり。

挿絵019L

今地球表面のことを講究するには、先づ吾人の住居する土地より始めざるべからず。
吾人の住居する日本国は、亜細亜洲中の一帝国にして、之を畿内と八道とに分てり。而して我が三重県は、其の東海道の西部に位せる一地方にして、伊賀・伊勢・志摩と紀伊の一部とを包括せり。次に我が三重県の全図を掲ぐ。宜しく此の図を観察して、其の港湾・山川・都邑等の位置を記憶すべし。

挿絵072
挿絵074

前に示せる地図を指示して、児童をして充分に之を観察せしめ、然る後此等の問を答へて其の記臆せるや否やを見るべし。
 (1)三重県は何れの国々を包括するや。
 (2)三重県の境域を語れ。
 (3)志摩の国にある岬湾を指名せよ。
 (4)伊勢・伊賀の境に如何なる山嶽あるや。
 (5)宮川は何れより出でて何処に流れ入るや。
 (6)伊賀の河流は主として何れの方向に流るるや。
 (7)県下有名の港は何々なるや。
 (8)一志郡にある都邑は如何。
 (9)度会郡の境域は如何。
 (10)伊賀国の都邑を名ざせ。
此の他、国郡・位置・山川・島嶼・港湾等、地図により皆此の例に倣ふべし。各国の首に一々掲げざるは繁雑を恐れてなり。故に以下皆之を類推して精細に研究せむことを要す。

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