江戸期版本を読む

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カテゴリ: 地誌・地方史

校訂『三重県地誌要略』(1888年刊)


凡 例

  1:底本は『三重県地誌要略』(山名唫作編 1888(明治21)年刊)です。
  2:カタカナをひらがなに改め、濁点・句読点・送り仮名を適宜加除しています。
  3:地名等、固有名詞についてはそのままカタカナ表記しました。
  4:送り仮名も適宜加除し、揺れをできるだけ統一しています。
  5:底本の括弧・カギ括弧はそのまま用い、白抜き文字は【 】で示しました。
  6:本文中の細字二行注は { } 、頭注は [ ] で示しました。
  7:図表はサイズ上限を設定し、それを超えるものは縮小してあります。
  8:本コンテンツは『三重県地誌要略』をより多くの方に読んで頂き、今から約130年前の日本(三重県および学校教育)の一端をお知り頂くために作成したものです。学術的な厳密さに欠けるかとは存じますが、ご容赦頂きますようお願い申し上げます。

挿絵000

三重県地誌要略
山名唫作編輯 三重教育書舎出版
三重県尋常師範学校教諭 山高幾之丞・阿保友一郎校閲

一 凡そ地誌を教授する順序は、既に知りたる所より始め、未だ知らざる所に及ぼすを法とす。此の書は務めて此の主義に基きたるものなり。
一 此の書、巻首に地理総説を附し、日常目撃する所の簡易なる水陸名称・地形等を指示し、又地球の説明、経緯度、人種及び生業等の概略を記したれば、教師宜しく生徒の理解力を計り斟酌して教授あらば、其の稗益尠からむ。
一 地理を教授するに地図の欠くべからざること、猶博物を教ふるに必ず標本に依らざるべからざる如し。故に必ず先づ充分に地図を観察せしめ、然る後之と対照して地誌に及ぼすべし。故に此の書、地誌総論の始めに管内全図と、之に対する二、三の問題を掲げて其の例を示せり。
一 地誌に必用の関係を有する事件なるも、幼童に適せざるものは暫く上部の欄内に掲ぐ。蓋し他日、幼童学識の進歩せし後を俟ちて、之を自修せしめむと欲するなり。 
一 巻末に海陸道路里程図及び山河高低・長短測度等を掲げたれば、宜しく参照して其の観念を精確ならしむべきなり。
一 里程・尺度等は悉く本邦の制に従ひ、寒暖計は摂氏を用ゐたり。
明治二十年八月 山名唫作識


三重県地誌要略
山名唫作 編纂

  地理総説
   第一課 水陸名称

家を出づれば人の往来する所あり。之を【道路】と言ふ。人家の少く集まりたる所あり。之を【村落】と言ひ、其の多く集まりたるを【都邑】と言ふ。地面の広くして平らなるを【平野】と名づく。其の穀物・野菜を植ゑたるを【田畑】と名づけ、樹木の蒐生せる所を【森林】と名づく。

土地の広く高き部分を【高地】と言ひ、其の低き所を【低地】と言ふ。高地上の平野を【高原】と名づけ、高地の狭くして峙たるを【山】と名づく。山の低きものを【丘陵】と言ひ、数山相連りたるを【山脈】と言ふ。山の最も高き部分を【山頂】と言ひ、山の下傍を【麓】と言ふ。麓と山頂との間を【山腹】と称へ、山腹の道路を【坂】と称へ、両山の間を【渓谷】と称ふ。又、山頂より火烟を噴出するものあり。之を【火山】と名づく。金・銀・銅・鉄等を堀り出す山を【砿山】と名づく。
[平野又は高原にして荒漠たる砂質の土地あり。之を砂漠と言ふ。「アフリカ」のサハラの如き、是なり。]

挿絵006

水の流るる所を【川】と言ひ、其の大なるを【河】と言ふ。川水の始て流出する所を【源】と言ひ、其の流れ入る口を【河口】と言ふ。川水の急に落下するを【瀑】と言ふ。陸地の凹みたる所に溜りたる水あり。其の最も大にして天然なるものを【湖】と称し、其の小にして多くは人工にかかるものを【池】と称す。地中より自然に涌出する水あり。之を【泉】と名づく。泉水の温かなるものを【温泉】と名づく。温泉は其の水薬気を帯ぶるを以て、之に浴するときは人の病を医するの効あり。
[湖に二種あり。淡水湖・鹹水湖、是なり。我国の湖水は大抵淡水湖なり。]

挿絵007

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以上、数へ挙ぐる所のものを総称して【陸地】と言ふ。陸地は甚だ広きものにして、其の周囲は皆水を以て囲む。此の水を海と言ふ。陸地の海と接する所を【海岸】又は【海浜】と名づく。陸の一部分海中に突出して、三方は水を以て囲みたるを【半島】と言ふ。海中に斗出せる陸の端を【岬】又は【崎】と称す。二体の陸地を連接せる細き陸地を【地頚】又【地峡】と言ふ。陸地の甚だ大なるを【大陸】又は【大洲】と言ふ。其の小なるを【島】と言ふ。吾人の住居せる陸地は島の大なるものなり。
[岬の山を以て終るものを嶴(フロモントリ)と言ふ。]

挿絵008

【海】は陸をとりまきたる広大なる水にして、其の尤も広きものを【大洋】と言ふ。陸地の大なるものより更に大なり。海の一部分陸地内に入込みたる所を【内海】と称す。伊勢ノ海の如き、是なり。海浜の彎入せる所を【湾】と言ふ。湾の小にして水深く、暴風雨のとき船舶の危険を免るべきものを【港】と言ふ。鳥羽港の如きもの、是なり。
両陸の間に狭まりたる細き水を海峡と言ふ。陸地と海との全体を合せて【地球】と称す。故に吾人の住居する所は地球の表面なり。此の表面の諸事を講究するを【地理学】と称す。
[海峡の浅くして狭きを瀬戸と言ふ。]

挿絵009

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   第二課 地球及び地図

【地球の形状】吾人は常に地球上の一部分のみを見るを以て地球表面は平面の如く思へども、其の実は球形にして甚だ大なるものなり。即ち其の周囲は一万零百七十八里にして、其の直経は三千二百七十里あり。
[地理学に三種あり。自然地理・星学地理・邦制地理、是なり。今此別を立てず。]
【球形なるの証】今海岸に出でて船舶の出帆するを見るべし。始めは船の全体を見れども、その進行するに従ひ次第に其の船体を見失ひ、遂には其の檣頭のみを見るに至る。是、海水の表面平かならずして、其の彎凸の為めに船体を遮るを以てなり。然れども今丘陵に上り望遠鏡を以て之を眺望するときは、図の如く彎曲の為めに妨げられず、故に明に其の船体を見るを得べし。是れ地球の円き証なり。又月食のとき月面に円影を現はすは、是地球の影の映ずるものなり。是を以て地球の球形なること明なり。故に之を地球と言ふ。
[或港を出帆して、終始其の方向を変ぜずして西あるいは東に航すべし。然るときは必ず其の反対の方向より出帆の地に帰るべし。是又地球の円体なることを証すべし。]

挿絵010

【方位】太陽の出づる方を東と言ひ、其の入る方を西と言ふ。吾人今直立して右手を以て左を指し、左手を以て西を指すときは、其の前面の方を北と言ひ、背後の方を南と言ふ。此の四方を地球の方位と言ふ。又、東と北との間を東北或は北東とも言ひ、西と南との間を西南或は南西と言ふ。其の他皆此の類なり。
[東西南北を主位と言ひ、其他を間位と言ふ。]
【自転】太陽は日々東より出て西に入るを見るべし。是地球が日々西より東に回旋するを以てなり。而して其の太陽に向ふ間は昼にして、太陽に背ける間は夜なり。故に地球の一面昼なるときは他の一面は夜なり。此の旋回を地球の自転と云ふ。自転の心軸となるべき南北の直径を【地軸】と言ひ、軸の北端を【北極】と言ひ、其の南端を【南極】と言ふ。

挿絵011

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